英雄の番が名乗るまで

長野 雪

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39.城下デート!

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(圧迫感がすごい……!)

 城下に出たユーリは、早くもくじけそうになっていた。
 竜人は総じて体格が良い者が多い。ユーリ自身も元いた世界では、平均身長よりやや低かったというのもある。

(人が多いと向こうが見通せない! 子どもの視線ってこんな感じなのかも)

 タオルなど生活雑貨を扱う店はいくつかあり、そのうちの1つがロシュ推薦の店なのだが、城下のメインストリートの一角にあるため、必然的に人通りの多い場所を通らざるをえない。
 同行しているフィルは、手を握るどころか、さらに腰に手を回してきているため、はぐれる心配は一切ない。ないのだが、体格の良い竜人ばかりの中を歩くのが、こんなに疲れるものだとは予想していなかったユーリは、既にげんなりしていた。

「大丈夫か?」
「はい。大丈夫です。ちょっと予想外というか驚きがあっただけで」

 とりあえず店に急ごうとフィルに上目遣いでおねだりすると、彼はユーリを抱えて走るほどの勢いでそそくさと歩き出した。ユーリにとっては早足が過ぎたが、長くここにいるよりは、と頑張って足を動かす。

「ホージュン商店、ここだな」
「すごい……なんか、高級そう」

 ブランド品ばかりを扱っているテナントのように見えて、前を通り過ぎたくなったが、そういえば自分の懐は結構温かかったんだと思い出したユーリは、フィルを連れて店内に入る。

「うわ、可愛い雑貨が結構ある……! さすがロシュさんのオススメですね」

 まず目に入ったのは、ワンポイントの刺繍が入ったタオルだ。その他にも可愛らしい小瓶や木箱などがいくつかの区画に区切られて並んでいる。

「あ、これ……」

 ユーリは小さな小物入れに目を留めた。木製の3段ほどの引き出しで、側面に花の絵が描かれている。ちょっとしたものを入れておくのに丁度いいし、部屋の印象にも合っている。ただ、ちょっとばかり値段が張るのが難点と言えば難点だが、払えない程でもないし、何よりデザインが一目で気に入った。

「あの、フィルさん。ここのお支払いなんですけど」
「ん? 早速気に入ったものがあったか? 何でも買ってやれるぞ?」
「そうではなくて、ですね、支払いのスタイルについて確認したいんですけど、買いたいものがあって、まだ他に店内を見たい場合ってどうすればいいんですか?」

 そんな常識のようなことをおおっぴらに聞くわけにもいかず、耳元に顔を寄せて囁くように尋ねると、何故かフィルは何かを堪えるように眉間に皺を寄せた。

「フィルさん?」
「ん? あぁ、いや、何でもない。店員に預けておけるから、呼ぼう」

 手を挙げて店員を呼ぶフィルの動作はどことなくぎこちない。まさか、初めてユーリの方から密着してくれたことに幸せを噛みしめていたなどと、誰も気付かないままだった。
 その後も店内をうろうろと確認し、ユーリが久々の買い物を堪能し終えた頃には、それなりの量になっていた。会計をする際に、フィルが払おうとするのを何とか押しとどめるという場面もあったが、概ね何事もなく最初の店での買い物を終えることができた。なお、荷物に関しては、フィルの魔法で城に送ってもらえるというのでそこはしっかり甘えておいた。
 2件目に向かったのは、衣類を扱う店だ。古着以外の既製品などほとんどないため、ロシュに紹介してもらった仕立屋で着回しのききそうなトップスとボトムを店員に相談しながら決めていく。職場に着ていくものなので、シンプルな装いだ。だというのに、フィルは少しばかり不服そうな表情を浮かべていた。どうやら、もっと可愛らしいデザインが好みだったようだ。

「でも、どうせ職場に着ていくだけなので、動きやすい方がいいと思うんです。クレットさんにそんな可愛いワンピースを着て見せたところで、査定に反映されるわけでもありませんし」

 ユーリとしては思ったままを言っただけなのだが、フィルは「そんな可愛い姿をクレットに見せるなんて!」と別の方向で憤慨していた。ともあれ、衣類についても問題なく調達を終えることができた。
 ちなみに、2件目の店員にも確認したのだが、ゴムのように伸び縮みする素材がないため、基本的に男女ともにふんどしのような下着を身につけている。正確に言えばゴムのような素材はあるが、魔獣由来の素材となり、非常に高価なものなのだそうだ。
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