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13.ロイヤルな茶会(前)
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「お初にお目にかかります。リリアン・ギースと申します」
「ステフから聞いているわ。どうぞ座って」
さて、私、ものすごーく、緊張しております。
目の前にはプラチナブロンドにサファイヤの瞳をした美しくも気品豊かな王太子妃殿下が座っておりまして、私の他にはいわゆる侍女の方々しかおりません。まさかの二人きりの茶会になっております、はい。
「あのヨナ・パークスが惚れこんだと聞いていたから、どれほどのものかと思ったのだけれど、……実際に会ってみて驚いたわ」
「いえ、率直に平凡とか普通とか十人並みと言っていただいて構いませんので」
「ふふ、ステフに聞いた通り、面白い子なのね」
ふふ、って本当にお上品に笑うのですよ、目の前の妃殿下は。どうやったら、笑うのまで上品にできるんでしょうね。やっぱり生まれたときから令嬢として純粋培養していたからなんでしょうか。すごいな、貴族の教育。
「見ての通り、あまり堅苦しくない席だから、緊張しなくてもいいわ」
「あ、それは無理です。妃殿下がきらきらしくて、本当、それだけで緊張してしまいますので」
私の言葉に、少しだけ目を瞠った妃殿下は、再びくすくすと笑い始めた。えぇ、王都とは無縁の地で育ったので、きっと周囲にはいないタイプなんでございましょう。
「ステフがわたくしの息抜きにもなる、なんて無茶を言っていたけれど、本当にそうね。なんだか毒気が抜けるわ」
「お忙しい妃殿下の時間をとらせていただいているので、そう言っていただけると、私も気が楽になります」
「きっと、ヨナ・パークスもそういうところに惹かれたのね。どうしたって貴族相手では気が張ることも多いから」
「私としましては、とっとと実家に帰らせていただきたいのですけれど」
「まぁ、そう言わないで? 中央の権力争いに関わっていないどころか、関わりたくないという人とお茶会なんて、初めてなの」
「私……言っちゃってましたか?」
「ふふ、表情がね」
これが社交界トップの眼力か! すごい! とても見習えないけど便利そう!
「ステフから聞いたのだけど、領地では孤児院の手伝いをしていたのね? 寄付はよく聞くけれど、手伝いというのは初めてよ。詳しく聞かせて?」
「手伝いと言っても、畑の世話をしていただけですので――――」
「詳しく聞かせてくださる?」
「はい、喜んで!」
あっという間に私のことを調べた王太子殿下も怖いけど、妃殿下もさすが隣に立つだけあって、迫力が違う。
妃殿下には退屈な話かもしれない、と思いつつ、私は身振り手振りを交えて、領地でやっていた畑仕事について説明した。しょぼい土ぼっこり魔法から始まり、横向きの渦巻きのような力を加えて雑草を鋤き込んだりしたこと。森から落ち葉を運んできた方が土に栄養が行き渡るけれど、労力がかかること。なお、連作障害についての話は敢えて避けた。妃殿下相手に知識マウントとか知識チートとか、本当にしたくない。
「そういった知識は、どこで知ったのかしら?」
「知ったというより、土を柔らかく耕すだけのつもりが、結果的にそうなった、という経験則みたいなものですね」
「でも、土の栄養というのは、初めて聞くわ」
「そちらは何かの本か、伝聞ですね。昔はよく洪水があって困っていたけれど、川岸を固めて洪水が起こらないようにしたら、今度は畑の実りが悪くなったという話を……聞いたのだったか、何かで読んだのだったか……。申し訳ありません。ちょっと覚えていなくて」
あっぶなーい。これ、前世に読んだやつだ。歴史の時間にやった「ナイルのたまもの」の話。
「そうなの? 領地の人とそういう話もすることがあるのかしら?」
「そうですね。同じように孤児院を手伝ってくれる方や、出入りの行商の方と話す機会もあります。あとは孤児院の歴代の管理者の日誌を読ませてもらったことがあるので、そこで見かけた話かもしれません」
読ませてもらった日誌は、すごく面白かった。日々の暮らしのことよりも、後で何か役に立つかもと、孤児を受け入れたときのことはより詳細に記録されているので、表に出せないあれやこれやの事情が、ドキュメンタリーっぽくて読み応えがあった。事故で両親を亡くしたり、盗賊に襲われて子どもしか生き残らなかったり……というのはただただ不憫だけれど、不倫だの跡継ぎ問題だの借金で一家離散だの、まぁ、世の中いろいろあるもんだと感心した。
「ステフから聞いているわ。どうぞ座って」
さて、私、ものすごーく、緊張しております。
目の前にはプラチナブロンドにサファイヤの瞳をした美しくも気品豊かな王太子妃殿下が座っておりまして、私の他にはいわゆる侍女の方々しかおりません。まさかの二人きりの茶会になっております、はい。
「あのヨナ・パークスが惚れこんだと聞いていたから、どれほどのものかと思ったのだけれど、……実際に会ってみて驚いたわ」
「いえ、率直に平凡とか普通とか十人並みと言っていただいて構いませんので」
「ふふ、ステフに聞いた通り、面白い子なのね」
ふふ、って本当にお上品に笑うのですよ、目の前の妃殿下は。どうやったら、笑うのまで上品にできるんでしょうね。やっぱり生まれたときから令嬢として純粋培養していたからなんでしょうか。すごいな、貴族の教育。
「見ての通り、あまり堅苦しくない席だから、緊張しなくてもいいわ」
「あ、それは無理です。妃殿下がきらきらしくて、本当、それだけで緊張してしまいますので」
私の言葉に、少しだけ目を瞠った妃殿下は、再びくすくすと笑い始めた。えぇ、王都とは無縁の地で育ったので、きっと周囲にはいないタイプなんでございましょう。
「ステフがわたくしの息抜きにもなる、なんて無茶を言っていたけれど、本当にそうね。なんだか毒気が抜けるわ」
「お忙しい妃殿下の時間をとらせていただいているので、そう言っていただけると、私も気が楽になります」
「きっと、ヨナ・パークスもそういうところに惹かれたのね。どうしたって貴族相手では気が張ることも多いから」
「私としましては、とっとと実家に帰らせていただきたいのですけれど」
「まぁ、そう言わないで? 中央の権力争いに関わっていないどころか、関わりたくないという人とお茶会なんて、初めてなの」
「私……言っちゃってましたか?」
「ふふ、表情がね」
これが社交界トップの眼力か! すごい! とても見習えないけど便利そう!
「ステフから聞いたのだけど、領地では孤児院の手伝いをしていたのね? 寄付はよく聞くけれど、手伝いというのは初めてよ。詳しく聞かせて?」
「手伝いと言っても、畑の世話をしていただけですので――――」
「詳しく聞かせてくださる?」
「はい、喜んで!」
あっという間に私のことを調べた王太子殿下も怖いけど、妃殿下もさすが隣に立つだけあって、迫力が違う。
妃殿下には退屈な話かもしれない、と思いつつ、私は身振り手振りを交えて、領地でやっていた畑仕事について説明した。しょぼい土ぼっこり魔法から始まり、横向きの渦巻きのような力を加えて雑草を鋤き込んだりしたこと。森から落ち葉を運んできた方が土に栄養が行き渡るけれど、労力がかかること。なお、連作障害についての話は敢えて避けた。妃殿下相手に知識マウントとか知識チートとか、本当にしたくない。
「そういった知識は、どこで知ったのかしら?」
「知ったというより、土を柔らかく耕すだけのつもりが、結果的にそうなった、という経験則みたいなものですね」
「でも、土の栄養というのは、初めて聞くわ」
「そちらは何かの本か、伝聞ですね。昔はよく洪水があって困っていたけれど、川岸を固めて洪水が起こらないようにしたら、今度は畑の実りが悪くなったという話を……聞いたのだったか、何かで読んだのだったか……。申し訳ありません。ちょっと覚えていなくて」
あっぶなーい。これ、前世に読んだやつだ。歴史の時間にやった「ナイルのたまもの」の話。
「そうなの? 領地の人とそういう話もすることがあるのかしら?」
「そうですね。同じように孤児院を手伝ってくれる方や、出入りの行商の方と話す機会もあります。あとは孤児院の歴代の管理者の日誌を読ませてもらったことがあるので、そこで見かけた話かもしれません」
読ませてもらった日誌は、すごく面白かった。日々の暮らしのことよりも、後で何か役に立つかもと、孤児を受け入れたときのことはより詳細に記録されているので、表に出せないあれやこれやの事情が、ドキュメンタリーっぽくて読み応えがあった。事故で両親を亡くしたり、盗賊に襲われて子どもしか生き残らなかったり……というのはただただ不憫だけれど、不倫だの跡継ぎ問題だの借金で一家離散だの、まぁ、世の中いろいろあるもんだと感心した。
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