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29.拘束されました
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「……」
「……」
リュコスさんから菜園散歩に誘われたら壁ドンされ、ぶん殴ったろうって思ったらライが乱入してきて、抱き上げられてライの自室に連行されました、はい。
抱き上げられて、と言っても体格差もあって幼児抱きというか縦抱きというか、人攫いスタイルというか、色気もへったくれもなかったけれど、意外な力強さに驚きを隠せないわけで。いや、それよりも、反論する間もなく部屋に連れ込まれて、ベッドに放り投げられて、起き上がって座り直したら、真正面に同じように座られて、何故か無言で見つめられてるこの状況、どうしたらいいのやら。
「あの……」
「アイリ、ああいうチャラいのが好みなの?」
「え、いや、むしろ無理」
思わず即答してしまったら、それまで渋い顔をしていたライが、へにょりと眉を下げたのが見えた。
「……良かった」
「ライが声を掛けてくれなかったら、多分、リュコスさんのこと平手打ちしてたから、もう少し遅れてくれたら良かったのに」
「ふふっ、そこは平手打ちする前で良かった、とかじゃないんだ」
「だって、すごくライのこと馬鹿にして言うから、腹が立って」
「ありがとう、アイリ」
なんだかよく分からないけど、誤解は解けてくれたらしい。リュコスさんみたいなのがタイプとか思われてたら、多分屈辱で死ねそうだったし。だって、タイプとしては、村長のドラ息子ザナーブと似てるし。あの言動の軽さとか、考えの軽さとか、色々と。
「ライ、その、ごめんなさい。いつもなら寝ている時間なのよね? 私は自分の部屋に戻るから、ライもゆっくり寝て休んで――――」
とっとと退散しようと思った私の手首が、ライに捕まれた。見た目より力強いその手に、思わず目を瞬いて二度見する。
「ライ?」
「ちょっとこっちで座って」
ソファに座るように手を引かれていく。こんなやりとりよりも、疲れているライには眠って欲しいのだけど。
言われるがままにすとん、と腰を下ろしたら、何故かライがすぐ隣に座ってきた。
「寝ないの?」
「寝るよ」
それなら早くベッドに……と言う間もなく、ライが倒れこんでくる。座る私の腿の上に、ライの銀色の髪が広がっていた。そう、膝枕だ。
「ら、ライ?」
「いきなり警報で起こされるよりは、頭に敷いておく方がいい」
「敷く……って、私のこと?」
「もちろん」
ライは私のお腹に顔を押し付けるように、ぎゅっと抱き着いてくる。まるで子供が懐いてるみたい、と思いながら、なんとなく髪を梳くようにして撫でていたら、ライの呼吸が寝息に変わってしまった。
「……ベッドで寝ないの?」
仕事で疲れていることを考えると、起こすのもしのびない。膝を提供するのはいいけれど、まさか、ずっとこのまま夜まで?
動くに動けず悶々としていると、コンコン、と小さなノックの音が聞こえた。返事をする間もなく、ドアが開く。
「リュコスさん?」
「あぁ、やっぱりご主人様は意気地なしだよねー」
こうなった元凶とも言えるリュコスさんは、膝枕状態の私たちを頭のてっぺんからつま先まで一瞥し、やれやれと肩をすくめた。
「ご主人様にもっと危機感を持ってもらおうと煽ったのに、あれだけやって、この状況止まりかー。残念、残念」
その黒い目を細めてライを見つめたかと思うと、くるりと踵を返した。まさかこのまま放置!? と目を剥いた私をよそに、ベッドからブランケットを引っ張り出し、穏やかな寝息を立てるライに掛ける。
「アイリちゃんも巻き込んじゃってごめんねー。でも、全部煮え切らないご主人様が悪いから。じゃ、夕方までよろしく」
「よろしく……って、このまま?」
「だって、その腕は剝がせそうにないし、あぁ、灯りは付けとくから。明るくてもご主人様は一度寝たら起きないし? ――――非常事態にでもならない限り」
あ、ちなみにその場所から動かすのも非常事態だから、と軽く言われてしまった。
「あ、これ暇つぶしにあげる。それじゃ、がんばってー」
本を一冊と、雲みたいに軽い励ましの言葉を残して、リュコスさんは部屋を出て行ってしまった。
「……え、本当にずっとこの状態のまま?」
茫然と呟いてしまった私を、誰が責められようか。
気を取り直して、渡された本を見る。自分で決めた制限2冊はあくまでリグイ国建国記だけだし、とちょっぴり緩め、表紙をめくる。リュコスさんが選んだ本なのか、童話を集めた短編集は、私の好みに近かった。吸血鬼や狼男に魔女や首無し鎧、雪男や小人などなど、空想上の生き物が出てくる話が多く、私の想像力がかきたてられる。
つい一息に読んでしまった私は、読み終えた満足感による気の緩みと、寝不足とが相まって、膝の重みも忘れてそのままうとうとと寝入ってしまった。
「……」
リュコスさんから菜園散歩に誘われたら壁ドンされ、ぶん殴ったろうって思ったらライが乱入してきて、抱き上げられてライの自室に連行されました、はい。
抱き上げられて、と言っても体格差もあって幼児抱きというか縦抱きというか、人攫いスタイルというか、色気もへったくれもなかったけれど、意外な力強さに驚きを隠せないわけで。いや、それよりも、反論する間もなく部屋に連れ込まれて、ベッドに放り投げられて、起き上がって座り直したら、真正面に同じように座られて、何故か無言で見つめられてるこの状況、どうしたらいいのやら。
「あの……」
「アイリ、ああいうチャラいのが好みなの?」
「え、いや、むしろ無理」
思わず即答してしまったら、それまで渋い顔をしていたライが、へにょりと眉を下げたのが見えた。
「……良かった」
「ライが声を掛けてくれなかったら、多分、リュコスさんのこと平手打ちしてたから、もう少し遅れてくれたら良かったのに」
「ふふっ、そこは平手打ちする前で良かった、とかじゃないんだ」
「だって、すごくライのこと馬鹿にして言うから、腹が立って」
「ありがとう、アイリ」
なんだかよく分からないけど、誤解は解けてくれたらしい。リュコスさんみたいなのがタイプとか思われてたら、多分屈辱で死ねそうだったし。だって、タイプとしては、村長のドラ息子ザナーブと似てるし。あの言動の軽さとか、考えの軽さとか、色々と。
「ライ、その、ごめんなさい。いつもなら寝ている時間なのよね? 私は自分の部屋に戻るから、ライもゆっくり寝て休んで――――」
とっとと退散しようと思った私の手首が、ライに捕まれた。見た目より力強いその手に、思わず目を瞬いて二度見する。
「ライ?」
「ちょっとこっちで座って」
ソファに座るように手を引かれていく。こんなやりとりよりも、疲れているライには眠って欲しいのだけど。
言われるがままにすとん、と腰を下ろしたら、何故かライがすぐ隣に座ってきた。
「寝ないの?」
「寝るよ」
それなら早くベッドに……と言う間もなく、ライが倒れこんでくる。座る私の腿の上に、ライの銀色の髪が広がっていた。そう、膝枕だ。
「ら、ライ?」
「いきなり警報で起こされるよりは、頭に敷いておく方がいい」
「敷く……って、私のこと?」
「もちろん」
ライは私のお腹に顔を押し付けるように、ぎゅっと抱き着いてくる。まるで子供が懐いてるみたい、と思いながら、なんとなく髪を梳くようにして撫でていたら、ライの呼吸が寝息に変わってしまった。
「……ベッドで寝ないの?」
仕事で疲れていることを考えると、起こすのもしのびない。膝を提供するのはいいけれど、まさか、ずっとこのまま夜まで?
動くに動けず悶々としていると、コンコン、と小さなノックの音が聞こえた。返事をする間もなく、ドアが開く。
「リュコスさん?」
「あぁ、やっぱりご主人様は意気地なしだよねー」
こうなった元凶とも言えるリュコスさんは、膝枕状態の私たちを頭のてっぺんからつま先まで一瞥し、やれやれと肩をすくめた。
「ご主人様にもっと危機感を持ってもらおうと煽ったのに、あれだけやって、この状況止まりかー。残念、残念」
その黒い目を細めてライを見つめたかと思うと、くるりと踵を返した。まさかこのまま放置!? と目を剥いた私をよそに、ベッドからブランケットを引っ張り出し、穏やかな寝息を立てるライに掛ける。
「アイリちゃんも巻き込んじゃってごめんねー。でも、全部煮え切らないご主人様が悪いから。じゃ、夕方までよろしく」
「よろしく……って、このまま?」
「だって、その腕は剝がせそうにないし、あぁ、灯りは付けとくから。明るくてもご主人様は一度寝たら起きないし? ――――非常事態にでもならない限り」
あ、ちなみにその場所から動かすのも非常事態だから、と軽く言われてしまった。
「あ、これ暇つぶしにあげる。それじゃ、がんばってー」
本を一冊と、雲みたいに軽い励ましの言葉を残して、リュコスさんは部屋を出て行ってしまった。
「……え、本当にずっとこの状態のまま?」
茫然と呟いてしまった私を、誰が責められようか。
気を取り直して、渡された本を見る。自分で決めた制限2冊はあくまでリグイ国建国記だけだし、とちょっぴり緩め、表紙をめくる。リュコスさんが選んだ本なのか、童話を集めた短編集は、私の好みに近かった。吸血鬼や狼男に魔女や首無し鎧、雪男や小人などなど、空想上の生き物が出てくる話が多く、私の想像力がかきたてられる。
つい一息に読んでしまった私は、読み終えた満足感による気の緩みと、寝不足とが相まって、膝の重みも忘れてそのままうとうとと寝入ってしまった。
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