実質売られた私は次期侯爵の婚約者になりました?

長野 雪

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20.現状を整理してみた

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(少し、落ち着いて考えてみる時間が必要よね……)

 朝食を終えた私は、与えられた部屋でぼんやりと座っていた。
 なんだか、ここ数日が怒涛のように過ぎて行って、自分を取り巻く環境は激変するし、自分の感情も揺さぶられまくるし、精神的に疲労困憊だと思う。美味しい食事は出てくるし、ゆったりとした時間も持てるから、身体的には理想的なんだろうけれど。

 探しに行こうと思っていたアデルのことは、ひとまずライにお願いしたので良しとしていいのかな。ライのことを信用できるかどうか、という問題はあるかもしれないけれど、次期侯爵という地位……伝手?を使ってもらった方が、きっと見つかる可能性は高いと思う。
 ライとは、半分以上流されるままに婚約者ということになってしまったけれど、次期侯爵という地位に加え、あの美貌を考えると、美味しい話過ぎて怪しすぎる。絶対に裏があるだろうから、油断はしちゃだめだと思う。別に隠された出生の秘密があるわけでもない私が、突然、お貴族サマの婚約者になんてなれるわけがない。

(ただ、ねぇ……)

 思い出すのは、私と話しているときのライの表情だ。
 年齢に不似合いの色気マシマシの顔で、好意を全面に押し出してきているのを、すべて嘘だと否定していいのか、と。
 お貴族サマは腹芸が得意でないと務まらない、なんてことを小説か何かで読んだことがあるけれど、あんな表情も装うことができるんだろうか?

(どっちにしても、ライとどこで会ったのか、思い出さないことには話にならないのよね……)

 さっきの朝食の席でも「まだ思い出せなくてごめんなさい」という謝罪から入ってしまったけれど、ライは「そんなに気にしなくていい」と笑ってくれた。でも、だからといって、いつまでも思い出さないまま、というわけにはいかない。むしろ、私が気になって仕方がない!

「せめて、何かヒントとかもらえたらなぁ……」

 そのときにこんな会話をした、とか、こんな服を着ていた、とかでもいいのだけど。

コンコン

「お嬢様、採寸の時間でございます」
「あ、はい。ありがとう」

 扉の外から聞こえてきたのは、ジェインの声だ。

(採寸なんて初めてで、緊張するんだけど!)

 ライからは気をつけるように、なんてことを言われたけれど、それよりもどう振る舞うのが正解か分からない方が問題だと思う。生粋のお貴族様ならともかく、こちとら衣服なんてお下がりもしくは自作の平民だというのに。
 緊張しながら、案内してくれるジェインの後について、服屋さんが来ているという部屋へ向かう。

「こちらでございます」
「ありがとう」

 ジェインに案内された部屋には、二人の見知らぬ人が待っていた。一人は白いカットシャツに黒のロングタイトスカートを着た、吊り目のキツそうな印象の女性だ。ジェインの後ろから部屋に入った私を見るなり、値踏みをするような感じで頭のてっぺんから足の先まで眺めてきたので、きっとこの人が店主とかデザイナーとか、まぁ上の人なんだろう。もう一人は、カバンから巻き尺や帳面を出して、採寸の準備をしているので、助手的立場の人のようだ。私と同じか少し年上ぐらいに見える。

「このお嬢様がドレスをご所望の方ですの?」
「正しくは主がお嬢様にドレスを送りたいと所望なさっていらっしゃいます」

 答えたのは、既に室内で待機していたリュコスさんだ。完全に外向きの口調になっているので、ちょっともぞもぞする。

「……素材は悪くありませんわね。ですが、少し日に焼け過ぎているのと、背中が少し丸まっているのが問題ですかしら?」

 小さく呟いているだけなのか、それとも私に聞かせようとしているのか、ちょっと判断に困る声量で言われてしまった。まぁ、毎日畑仕事してたし、屈むことも多かったし、否定はできない。

「まぁ、姿勢の強制や肌のメンテナンスはわたくしの仕事ではありませんし、これもお仕事ですから、注文のある限り作らせていただきますわ。――――ビス、採寸は任せるわ」
「はい、店長。……お嬢様、こちらの衝立の奥へどうぞ」

 同室にリュコスさんがいるための配慮なのか、白い布で区切られた先へと案内される。そのスペースにはビス、と呼ばれた助手さんと、ジェイン、私しか入らない。

「お嬢様、採寸を担当させていただきます、ビスと申します。お手数をおかけいたしますが、お召し物を失礼いたします」

 ジェインにも手伝われ、私はワンピースを脱いで下着姿になる。そういえば、嫁入り道具でこの服を作るときは、自分で採寸したものを店に渡しただけで、誰かに採寸してもらうことなんてなかった。

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