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22.地雷を踏む想い人
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分からない。私に対する話なのに、どうして梓ちゃんの名前が出てくるのか。
「あの鹿宮さんと仲良くできる別役さんだから、きっと僕にはない新しい視点を持ってると思うし、何より心も広いと思ったんだ。実際、全体を見渡して動いてるのも見たし」
大きな勘違いをしている目の前の男子を、さてどうしてくれようか。
全体を見渡して、というのはまず間違いだ。そんなすごい人間じゃない。単にうちの家族は兄と父が猪突猛進型だから、自然と母と二人でそれをフォローすることが多くなってしまって、後方支援が習い性になってるだけ。まぁ、そういう視点が欲しいと言われればそれまでだけど。
問題は前者だよね。どうして梓ちゃんが関係あるのかってことだ。
宇那木さんといい、丹田くんといい、梓ちゃんと同じ中学の人は、絶対に梓ちゃんを誤解してるんだと思う。梓ちゃんはクールでかっこよくて、美人さんな普通の女子なんだよ。
「梓ちゃんが――――」
「別役さんも聞いたことあるでしょ? 鹿宮さんがどんな人かって」
梓ちゃんが、何の関係があるの。
梓ちゃんが、何を悪いことしたっていうの。
ちょっとムカムカしてきた。いや、ちょっとじゃない。かなり、だ。
ついさっき、会話のテンポが合わないって話をしたばっかりだよね? 少しは考えてくれるかな?って期待したけど、やっぱり駄目だったよ。明らかに私の言葉を遮って、自分の言いたいことを優先させたよね? こういうとこだぞ!
「……ね、丹田くん」
「なに? もしかして知らない?」
丹田くんは明るい表情で私を見ている。たぶん、さっきの遣り取りで私が二重に不快を感じたのを、ちっとも分かってないんだろう。その表情が、余計に私の感情を逆撫でにした。
「ううん、丹田くんが言おうとしてることは多分わかる」
「やっぱり知ってるんだ」
えぇ、えぇ、そうですとも。実を言うとね。梓ちゃんのことについて言ってきたのは、丹田くんが最初じゃないんだよ? ついでに言うと宇那木さんも違う。
1年のときに同じ美術部になって、梓ちゃんとつるむようになった私に、梓ちゃんと付き合わない方がいいよ、なんて忠告してきたクラスメイトがいたんだ。たぶん、その子が最初。名前も忘れた。私にとって、その忠告でどうでもよい存在に格下げされたから。
「でもね、梓ちゃんは私の友達なんだよ? 傲慢な言い方かもしれないけど、丹田くんは私を振り向かせたいんだよね? それなのに、私の友達を貶すような真似して、それでどうにかなると思ってるの?」
「いや、僕は――――」
「もう話し掛けて来ないで。あと、梓ちゃんの悪口も言わないで」
行儀悪いかもしれないけど、私はゴミ袋を軽く丹田くんに押し付けて足を止めさせると、逃げるようにゴミ集積所へ駆けだした。
廊下を走るな? そんなん知るか。
あーもう、腹立つ腹立つ腹立つ腹立つ腹立つ!
丹田くんに告白されてからこっち、腹立たしいことばっかり増えてるんだけど! もう疫病神認定だね! もう次からは無視でいいや! 知るかもう!
集積所にゴミ袋をぶん投げて、足早に教室へ向かう。
待ってくれてる梓ちゃんに、とにかく早く会いたかった。もちろん、さっきの丹田くんとの会話なんて絶対に話さない。いや、でも、ぶちまけちゃうかも。だって、本当に腹が立つんだもん!
「梓ちゃ~ん!」
「やだ、ユズ。どうしたの、甘えん坊さんね」
私は教室で待っていてくれた梓ちゃんに、勢いよく抱きついた。向こうもちゃんとハグし返してくれるので、遠慮なく腕を回す。
「やった、梓ちゃんが優しい。ついでにいい匂いするから嗅いじゃえ」
「ユズ、変態くさいからやめなさい」
「変態の匂いじゃないよ。いい香りだよ?」
「あたしの話じゃないから」
ぽすん、と頭をはたくように撫でられて、私はついつい笑ってしまった。うん、梓ちゃんと話してるだけで、さっきの丹田くんとの会話で溜まったストレスが昇華されてく。本当に梓ちゃんサマサマだよ。
「なに? なんかあったの?」
「……また話し掛けてきたんだよ」
「それはそれは、ご愁傷さま、って言った方がいいの?」
「もう次から無視でいいかな」
「いいんじゃない? ユズをここまで怒らせるって、逆にすごいと思うし」
「えー? 私、そんなに心広くないよ?」
「心は広くないかもしれないけど、許容量が大きいと思う」
「許容量? つまり、どういうこと?」
「ユズはそのままでいいってこと」
「分かんないよ、梓ちゃん!」
反駁する私の頭が、また撫でられた。こんなことで絆されると思ったら大間違いだよ梓ちゃん! でも、気持ちいいから、ちょっと反論は保留。
「じゃぁ、帰る?」
「うん、帰ろう」
私のトゲトゲした気持ちを緩和してくれる梓ちゃん、サイコー。
「あの鹿宮さんと仲良くできる別役さんだから、きっと僕にはない新しい視点を持ってると思うし、何より心も広いと思ったんだ。実際、全体を見渡して動いてるのも見たし」
大きな勘違いをしている目の前の男子を、さてどうしてくれようか。
全体を見渡して、というのはまず間違いだ。そんなすごい人間じゃない。単にうちの家族は兄と父が猪突猛進型だから、自然と母と二人でそれをフォローすることが多くなってしまって、後方支援が習い性になってるだけ。まぁ、そういう視点が欲しいと言われればそれまでだけど。
問題は前者だよね。どうして梓ちゃんが関係あるのかってことだ。
宇那木さんといい、丹田くんといい、梓ちゃんと同じ中学の人は、絶対に梓ちゃんを誤解してるんだと思う。梓ちゃんはクールでかっこよくて、美人さんな普通の女子なんだよ。
「梓ちゃんが――――」
「別役さんも聞いたことあるでしょ? 鹿宮さんがどんな人かって」
梓ちゃんが、何の関係があるの。
梓ちゃんが、何を悪いことしたっていうの。
ちょっとムカムカしてきた。いや、ちょっとじゃない。かなり、だ。
ついさっき、会話のテンポが合わないって話をしたばっかりだよね? 少しは考えてくれるかな?って期待したけど、やっぱり駄目だったよ。明らかに私の言葉を遮って、自分の言いたいことを優先させたよね? こういうとこだぞ!
「……ね、丹田くん」
「なに? もしかして知らない?」
丹田くんは明るい表情で私を見ている。たぶん、さっきの遣り取りで私が二重に不快を感じたのを、ちっとも分かってないんだろう。その表情が、余計に私の感情を逆撫でにした。
「ううん、丹田くんが言おうとしてることは多分わかる」
「やっぱり知ってるんだ」
えぇ、えぇ、そうですとも。実を言うとね。梓ちゃんのことについて言ってきたのは、丹田くんが最初じゃないんだよ? ついでに言うと宇那木さんも違う。
1年のときに同じ美術部になって、梓ちゃんとつるむようになった私に、梓ちゃんと付き合わない方がいいよ、なんて忠告してきたクラスメイトがいたんだ。たぶん、その子が最初。名前も忘れた。私にとって、その忠告でどうでもよい存在に格下げされたから。
「でもね、梓ちゃんは私の友達なんだよ? 傲慢な言い方かもしれないけど、丹田くんは私を振り向かせたいんだよね? それなのに、私の友達を貶すような真似して、それでどうにかなると思ってるの?」
「いや、僕は――――」
「もう話し掛けて来ないで。あと、梓ちゃんの悪口も言わないで」
行儀悪いかもしれないけど、私はゴミ袋を軽く丹田くんに押し付けて足を止めさせると、逃げるようにゴミ集積所へ駆けだした。
廊下を走るな? そんなん知るか。
あーもう、腹立つ腹立つ腹立つ腹立つ腹立つ!
丹田くんに告白されてからこっち、腹立たしいことばっかり増えてるんだけど! もう疫病神認定だね! もう次からは無視でいいや! 知るかもう!
集積所にゴミ袋をぶん投げて、足早に教室へ向かう。
待ってくれてる梓ちゃんに、とにかく早く会いたかった。もちろん、さっきの丹田くんとの会話なんて絶対に話さない。いや、でも、ぶちまけちゃうかも。だって、本当に腹が立つんだもん!
「梓ちゃ~ん!」
「やだ、ユズ。どうしたの、甘えん坊さんね」
私は教室で待っていてくれた梓ちゃんに、勢いよく抱きついた。向こうもちゃんとハグし返してくれるので、遠慮なく腕を回す。
「やった、梓ちゃんが優しい。ついでにいい匂いするから嗅いじゃえ」
「ユズ、変態くさいからやめなさい」
「変態の匂いじゃないよ。いい香りだよ?」
「あたしの話じゃないから」
ぽすん、と頭をはたくように撫でられて、私はついつい笑ってしまった。うん、梓ちゃんと話してるだけで、さっきの丹田くんとの会話で溜まったストレスが昇華されてく。本当に梓ちゃんサマサマだよ。
「なに? なんかあったの?」
「……また話し掛けてきたんだよ」
「それはそれは、ご愁傷さま、って言った方がいいの?」
「もう次から無視でいいかな」
「いいんじゃない? ユズをここまで怒らせるって、逆にすごいと思うし」
「えー? 私、そんなに心広くないよ?」
「心は広くないかもしれないけど、許容量が大きいと思う」
「許容量? つまり、どういうこと?」
「ユズはそのままでいいってこと」
「分かんないよ、梓ちゃん!」
反駁する私の頭が、また撫でられた。こんなことで絆されると思ったら大間違いだよ梓ちゃん! でも、気持ちいいから、ちょっと反論は保留。
「じゃぁ、帰る?」
「うん、帰ろう」
私のトゲトゲした気持ちを緩和してくれる梓ちゃん、サイコー。
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