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20.深謀遠慮の想い人
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「……にしても、意外だったわー」
放課後、本日の告白を諦めて美術室に向かう道すがら、梓ちゃんがそんなことを呟いた。
「意外? 七ツ役くんだって風邪ひくよ?」
「そこじゃない。あたしが言いたいのは、ユズが早々に告白するって決めたこと」
「ひどい梓ちゃん! 私だって、ズバッと決心するときは決心するんだよ! 優柔不断なんて思ったら大間違いなんだから」
「そこでもないんだけどね。……だって、今月は年間通しての一大イベントがある12月よ? あたしはてっきりクリスマスをスルーしてバレンタインまでぐずぐず考えるもんだと思ってたから」
クリスマスにバレンタイン、か。うん、確かにそう思った時期もあったよね! 1年の12月とか2月にね! 結局、コクれなかったけどね! 特にバレンタインなんてチョコ買うところまではしたのにね!
「色々とシミュレーションしてね、気付いたんだよ」
「気付いた?」
「クリスマス前とかバレンタインって、告白流行るじゃん!」
「流行るっていうか、まぁ、そういうタイミングだし」
「先越されたらどうするの!」
そうなんだよ。シミュレーション中に気が付いたんだ。「ごめん、もう別のヤツに告白されて付き合うことになってんだ」とかお断りされるパターンがあるかもしれないって!
ぐっと拳を握り、天に突き上げる私に、梓ちゃんから呆れた声が投げつけられる。
「去年両方スルーしたユズが言うセリフじゃないわね」
それを言われると痛い! でも勇気が出なかったんだから仕方がないじゃん! その頃は、まだ本屋で話すなんてこともしてない頃だし。
「たまにユズがそういうふうに色々と考えてるの見ると、ユズなのにすごいなって思うわ」
「ひどい、梓ちゃん! 私だって、ちゃんと考えてるんだよ? だからこれからは『しんぼーえんりょのユズ』って呼んでくれたっていいんだからね?」
そんなこんなで美術室に到着すると、何故か梓ちゃんは描きかけのポスターじゃなくて、ルーズリーフを1枚出して、私に向けた。
「ねぇ、ユズ。ユズの言う『しんぼーえんりょ』って漢字で書いてみて?」
「ガーン!」
ひどい、ひどいよ梓ちゃん。確かにあんまり使い慣れない言葉だけど、私だって漢字が不得意なわけじゃないんだから。
……あれ、これでいいんだっけ? なんか違うような?
『芯棒遠慮』
自分の書いた文字に首を捻っていると、梓ちゃんは無言でルーズリーフを自分の方に向けてさらさらと何かを描き始めた。
梓ちゃんは線一本で絵が描ける人なんだよね。つい線を何本も重ねてしまう私にとっては、すごく憧れるタイプだ。
目の前で梓ちゃんが書いたのは、水車小屋? あ、なんか水車の中央の棒の横に矢印を書いて、うーん、引っ張り出すのかな?
そう思って眺めていたら、隣になんか太い棒を描いて、手と足をつけて、なんか汗を拭いてる感じに擬人化して吹き出しが……「ボクは遠慮します」?
さらにスラスラと描かれた3つ目のイラストは、ドンガラガッシャンなんて擬音と崩れた小屋。
「ユズの書いた漢字を絵にしてみた」
「梓ちゃん! 漢字が間違ってるなら間違ってるって言ってくれればいいじゃん」
「いや、なんか面白くて」
私はスマホを取り出して、「しんぼうえんりょ」を検索する。
『深謀遠慮――遠い将来のことまで考えて周到にはかりごとを立てること』
私は自分の書いた「芯棒」を二重線で消すと、その上にしっかりと「深謀」と書いた。
さらにお返しとばかりに、顎に握り拳をつけて、「う~ん」と悩んでいる人の絵を描く。元は中国の四字熟語らしいので、古代中国の役人っぽい帽子も付け加えた。帽子の名前? そんなの知らない。
「これでいいでしょ」
「あーあ、直されちゃった。つまんない。……で、なんの話してたんだっけ?」
「七ツ役くんに告白する話だよ」
「あー、そうだった。それで、来週?」
「もちろん! まだ12月も始まったばっかだもん。告白すると決めたからには、早めにするんだから」
「おー、がんばれー」
「梓ちゃんってば、棒読みにも程があるよ……」
・:*:・・:*:・♪・:*:・・:*:・
わーお。今日もてんこ盛りだぁねぇ。
そんなことを考えながら、教室のゴミをわさわさと集積所まで持っていく。寒いとちょいちょい休み時間に甘い物を取りたくなるよねー……なんて、透明なゴミ袋の中にチョコの包みを見つけて、一人うんうんと頷いていた。
私もなんか甘い物食べたくなってきたなー。でも、お小遣いは無駄に使いたくないし、下手に本能に従って甘い物を取ると、下腹部に直結するしなー。
「ユズ」
後ろから名前を呼ばれた。
うん。あれだね。既視感があるね。声にも聞き覚えがあるし。
……っていうかね、私のことを「ユズ」って親し気に呼ぶ男子なんて一人しかいないんだ。
あー、振り返したくないなぁ。でも、無視するのはやり過ぎだよね、きっと。
ちらりと廊下の窓を見ると、予想通りの人が映っていた。しかも、私と同じくゴミ捨てかと思ったら、何も持ってない。ってことは、これは偶然とかじゃないよね。向こうから話しかけるタイミングを計ってたってことだよね。そういうことなら、ここで無視しても、また似たようなことがあるわけだ。
あぁ、面倒臭い。とっとと諦めてくればいいのに。
放課後、本日の告白を諦めて美術室に向かう道すがら、梓ちゃんがそんなことを呟いた。
「意外? 七ツ役くんだって風邪ひくよ?」
「そこじゃない。あたしが言いたいのは、ユズが早々に告白するって決めたこと」
「ひどい梓ちゃん! 私だって、ズバッと決心するときは決心するんだよ! 優柔不断なんて思ったら大間違いなんだから」
「そこでもないんだけどね。……だって、今月は年間通しての一大イベントがある12月よ? あたしはてっきりクリスマスをスルーしてバレンタインまでぐずぐず考えるもんだと思ってたから」
クリスマスにバレンタイン、か。うん、確かにそう思った時期もあったよね! 1年の12月とか2月にね! 結局、コクれなかったけどね! 特にバレンタインなんてチョコ買うところまではしたのにね!
「色々とシミュレーションしてね、気付いたんだよ」
「気付いた?」
「クリスマス前とかバレンタインって、告白流行るじゃん!」
「流行るっていうか、まぁ、そういうタイミングだし」
「先越されたらどうするの!」
そうなんだよ。シミュレーション中に気が付いたんだ。「ごめん、もう別のヤツに告白されて付き合うことになってんだ」とかお断りされるパターンがあるかもしれないって!
ぐっと拳を握り、天に突き上げる私に、梓ちゃんから呆れた声が投げつけられる。
「去年両方スルーしたユズが言うセリフじゃないわね」
それを言われると痛い! でも勇気が出なかったんだから仕方がないじゃん! その頃は、まだ本屋で話すなんてこともしてない頃だし。
「たまにユズがそういうふうに色々と考えてるの見ると、ユズなのにすごいなって思うわ」
「ひどい、梓ちゃん! 私だって、ちゃんと考えてるんだよ? だからこれからは『しんぼーえんりょのユズ』って呼んでくれたっていいんだからね?」
そんなこんなで美術室に到着すると、何故か梓ちゃんは描きかけのポスターじゃなくて、ルーズリーフを1枚出して、私に向けた。
「ねぇ、ユズ。ユズの言う『しんぼーえんりょ』って漢字で書いてみて?」
「ガーン!」
ひどい、ひどいよ梓ちゃん。確かにあんまり使い慣れない言葉だけど、私だって漢字が不得意なわけじゃないんだから。
……あれ、これでいいんだっけ? なんか違うような?
『芯棒遠慮』
自分の書いた文字に首を捻っていると、梓ちゃんは無言でルーズリーフを自分の方に向けてさらさらと何かを描き始めた。
梓ちゃんは線一本で絵が描ける人なんだよね。つい線を何本も重ねてしまう私にとっては、すごく憧れるタイプだ。
目の前で梓ちゃんが書いたのは、水車小屋? あ、なんか水車の中央の棒の横に矢印を書いて、うーん、引っ張り出すのかな?
そう思って眺めていたら、隣になんか太い棒を描いて、手と足をつけて、なんか汗を拭いてる感じに擬人化して吹き出しが……「ボクは遠慮します」?
さらにスラスラと描かれた3つ目のイラストは、ドンガラガッシャンなんて擬音と崩れた小屋。
「ユズの書いた漢字を絵にしてみた」
「梓ちゃん! 漢字が間違ってるなら間違ってるって言ってくれればいいじゃん」
「いや、なんか面白くて」
私はスマホを取り出して、「しんぼうえんりょ」を検索する。
『深謀遠慮――遠い将来のことまで考えて周到にはかりごとを立てること』
私は自分の書いた「芯棒」を二重線で消すと、その上にしっかりと「深謀」と書いた。
さらにお返しとばかりに、顎に握り拳をつけて、「う~ん」と悩んでいる人の絵を描く。元は中国の四字熟語らしいので、古代中国の役人っぽい帽子も付け加えた。帽子の名前? そんなの知らない。
「これでいいでしょ」
「あーあ、直されちゃった。つまんない。……で、なんの話してたんだっけ?」
「七ツ役くんに告白する話だよ」
「あー、そうだった。それで、来週?」
「もちろん! まだ12月も始まったばっかだもん。告白すると決めたからには、早めにするんだから」
「おー、がんばれー」
「梓ちゃんってば、棒読みにも程があるよ……」
・:*:・・:*:・♪・:*:・・:*:・
わーお。今日もてんこ盛りだぁねぇ。
そんなことを考えながら、教室のゴミをわさわさと集積所まで持っていく。寒いとちょいちょい休み時間に甘い物を取りたくなるよねー……なんて、透明なゴミ袋の中にチョコの包みを見つけて、一人うんうんと頷いていた。
私もなんか甘い物食べたくなってきたなー。でも、お小遣いは無駄に使いたくないし、下手に本能に従って甘い物を取ると、下腹部に直結するしなー。
「ユズ」
後ろから名前を呼ばれた。
うん。あれだね。既視感があるね。声にも聞き覚えがあるし。
……っていうかね、私のことを「ユズ」って親し気に呼ぶ男子なんて一人しかいないんだ。
あー、振り返したくないなぁ。でも、無視するのはやり過ぎだよね、きっと。
ちらりと廊下の窓を見ると、予想通りの人が映っていた。しかも、私と同じくゴミ捨てかと思ったら、何も持ってない。ってことは、これは偶然とかじゃないよね。向こうから話しかけるタイミングを計ってたってことだよね。そういうことなら、ここで無視しても、また似たようなことがあるわけだ。
あぁ、面倒臭い。とっとと諦めてくればいいのに。
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