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17.後押しの想い人
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「丹田、お前どこ行ってたんだよ」
「だって、普通女の子ってファッション誌とかにいるかなって思うじゃん」
「俺がそんなところに行くとでも思ったのかよ」
「通りすがりに見かけたとかそんなのかと思ってたんだよ」
うん。なんとなく見えた。
最近、宇那木さんたちのガードで、私と話せてない丹田くんに、七ツ役くんが助け舟を出したとか、丹田くんから七ツ役くんに泣きついたとか、そんな感じだよね、きっと。
「じゃ、俺、帰るから。――――別役さん、いい案、ありがとう」
「うぅん、役に立てたみたいで良かったよ」
やばい、声が震えそう。
だってほら、丹田くんにこういうアシストしたってことはさ、七ツ役くんの気持ちは私に向いてないってことでしょ? それをまざまざと見せつけられて悲しい気持ちがあってさ。
そもそも丹田くんが私をスッパリ諦めてくれれば、こんなことにはならなかったんじゃないかって憤りがあってさ。
なんかもう、感情がぐちゃぐちゃに混ざって逆に平坦になっちゃってる気がする。水面は静かだけど、その下はグルグルぐつぐつしちゃってる。
「ユズ、ようやくゆっくり話せそうなタイミングがあって良かった」
「あ、あぁ、学校だとなかなか話せないからね」
「そうなんだよなー。なんか邪魔が入るっつーか」
逃げたい。もうやだ。さっきまで七ツ役くんと楽しくお喋りしてたのに。どうしてこうなったの。数分前に時間を戻してよ。
「ユズって星とかに興味あるの?」
「まぁ、そんなところ」
嘘。星に興味があるんじゃないの。七ツ役くんに興味があるから、七ツ役くんが興味があるものに触れたいの。
「それなら来年の文化祭の地学天文部、なんかめちゃくちゃ張り切ってるらしいから、一緒に行かない?」
その話もさっき七ツ役くんから聞いたよ。
あぁ、だめ。もう取り繕えそうにない。
「ごめんね、丹田くん。私もそろそろ帰るね」
「あ、ちょっ……」
私は足早に本屋を飛び出して駅に向かった。後ろから丹田くんの足音がついてきてる気がするけど、気にしない。だって、もう無理!
「ちょっと待ってよ、ユズ!」
申し訳ないけど、今は丹田くんの話を聞くだけの心の余裕がない。自分でも分かる。ほら――――
「ユズ!」
ぐい、っと腕を掴まれて、強制的に振り向かされた。丹田くんがどんな表情をしてるのかさえ分からない。だって、私の視界はすっかり滲んで使い物にならなくなってる。
「ユズ……?」
困惑した声。そんな声出したって無駄だよ。
「離して」
「いや、でも、だって……」
「離して!」
私は大きく腕を振って、丹田くんの手を払った。
「ユズ……」
「嫌い。前はそうでもなかったけど、今は丹田くんのことが嫌い。もう話し掛けて来ないで」
私はぐちゃぐちゃになった感情を持て余したまま、駅に向かって駆けだした。
八つ当たりも含まれてる。でも、七ツ役くんとの楽しい時間を邪魔する丹田くんが大嫌い。それは間違いなかった。
・:*:・・:*:・♪・:*:・・:*:・
おそらく、帰ったときには目が腫れてたと思う。
私を見るなり、「どうしたの!」とあれこれ尋ねてきたお母さんには悪いけど、黙秘させてもらった。お母さんも食い下がってはきたけど、私が喋らないのが分かったんだろう。最終的には蒸しタオルと冷やしタオルをくれた。交互に当てると翌日に残らないらしい。
「深刻な話じゃなければ、ちゃんと相談しなさいよ」
そう言ってくれたお母さんだけど、どこかお見通しな部分があったのか、自分が若い頃の苦い思い出を話してくれた。……恋愛関係の。
お母さんに対する年下の子からの猛烈なアタックに、当時付き合っていた彼氏が身を引こうとしたなんて、ちょっと少女漫画みたいな展開に聞いててワクワクしたのは秘密だ。おかげでかなり気が紛れた。きっと本当にあった話を盛って盛って盛りまくったに違いない。だって、どう考えても地方新聞に載るレベルの事件だったもん。
それはさておき。
昨日のことで、私は恥ずかしいのと恨めしいのと両方あって、丹田くんを完全に無視することにした。梓ちゃんは「やるじゃん」なんて褒めてくれたけど、実はちょっぴり心が痛い。だって、他人に対してこんなことをするの初めてだし。
慣れないことをしてる気疲れもあったんだろう。昼休みを迎える頃にはちょっとお腹が痛くなってしまった。
「そうだ、梓ちゃん。部活のポスターなんだけど、自動車学校の名前と連絡先って書かなきゃいけないじゃん」
「そうだね。レタリング必須なのはつらいよね」
「考えたんだけど、ステンシルシートって作れないかな。一度作っちゃえば、来年以降も使いまわしできるでしょ」
「なるほど! ユズにしては冴えてる! あとで宇戸先生に聞いてみよう」
「ユズにしては……て、扱いがひどいよ梓ちゃん」
本当は、昨日の件があって、なかなか寝付けなかったから、全然別のことを考えようと気を紛らわせてた結果なんだけどね。
ちなみに、昼休みにも関わらずにのんびり梓ちゃんと話していられるのは、丹田くんが来ないおかげ。午前中の完全シャットアウトが効いたのか、いつものように男子と喋ってる。
「あのね、一応、参考にしたサイトがあってね」
「なるほど、ステンシル風フォント、ねぇ。漢字でも使えるのかな」
「そこも含めて先生に相談かな」
「厚紙だと不安だから、いらないクリアファイルとか使う?」
「あ、いいかも」
梓ちゃんと話しながらチラチラと男子の様子を見ていたけど、あまり丹田くんが暗くなっているようには見えない。七ツ役くんもいつも通り涼し気だ。
「ちなみに、ユズ。今日のおかずは?」
「ん? 煮込みハンバーグにレタス、ポテトサラダとブロッコリーかな」
もちろん、私のお弁当のおかずじゃない。七ツ役くんのお弁当のおかずだ。
「いっそ探偵とか似合ってるんじゃない?」
「ないない。無理だよ」
「無理じゃないから言ってるんだけどね」
呆れた様子の梓ちゃんは、小さく肩を竦めた。
私と丹田くんの間に何かあったことを感付いてるだろうに、敢えて踏み込んでこない梓ちゃんが大好きだ。
「だって、普通女の子ってファッション誌とかにいるかなって思うじゃん」
「俺がそんなところに行くとでも思ったのかよ」
「通りすがりに見かけたとかそんなのかと思ってたんだよ」
うん。なんとなく見えた。
最近、宇那木さんたちのガードで、私と話せてない丹田くんに、七ツ役くんが助け舟を出したとか、丹田くんから七ツ役くんに泣きついたとか、そんな感じだよね、きっと。
「じゃ、俺、帰るから。――――別役さん、いい案、ありがとう」
「うぅん、役に立てたみたいで良かったよ」
やばい、声が震えそう。
だってほら、丹田くんにこういうアシストしたってことはさ、七ツ役くんの気持ちは私に向いてないってことでしょ? それをまざまざと見せつけられて悲しい気持ちがあってさ。
そもそも丹田くんが私をスッパリ諦めてくれれば、こんなことにはならなかったんじゃないかって憤りがあってさ。
なんかもう、感情がぐちゃぐちゃに混ざって逆に平坦になっちゃってる気がする。水面は静かだけど、その下はグルグルぐつぐつしちゃってる。
「ユズ、ようやくゆっくり話せそうなタイミングがあって良かった」
「あ、あぁ、学校だとなかなか話せないからね」
「そうなんだよなー。なんか邪魔が入るっつーか」
逃げたい。もうやだ。さっきまで七ツ役くんと楽しくお喋りしてたのに。どうしてこうなったの。数分前に時間を戻してよ。
「ユズって星とかに興味あるの?」
「まぁ、そんなところ」
嘘。星に興味があるんじゃないの。七ツ役くんに興味があるから、七ツ役くんが興味があるものに触れたいの。
「それなら来年の文化祭の地学天文部、なんかめちゃくちゃ張り切ってるらしいから、一緒に行かない?」
その話もさっき七ツ役くんから聞いたよ。
あぁ、だめ。もう取り繕えそうにない。
「ごめんね、丹田くん。私もそろそろ帰るね」
「あ、ちょっ……」
私は足早に本屋を飛び出して駅に向かった。後ろから丹田くんの足音がついてきてる気がするけど、気にしない。だって、もう無理!
「ちょっと待ってよ、ユズ!」
申し訳ないけど、今は丹田くんの話を聞くだけの心の余裕がない。自分でも分かる。ほら――――
「ユズ!」
ぐい、っと腕を掴まれて、強制的に振り向かされた。丹田くんがどんな表情をしてるのかさえ分からない。だって、私の視界はすっかり滲んで使い物にならなくなってる。
「ユズ……?」
困惑した声。そんな声出したって無駄だよ。
「離して」
「いや、でも、だって……」
「離して!」
私は大きく腕を振って、丹田くんの手を払った。
「ユズ……」
「嫌い。前はそうでもなかったけど、今は丹田くんのことが嫌い。もう話し掛けて来ないで」
私はぐちゃぐちゃになった感情を持て余したまま、駅に向かって駆けだした。
八つ当たりも含まれてる。でも、七ツ役くんとの楽しい時間を邪魔する丹田くんが大嫌い。それは間違いなかった。
・:*:・・:*:・♪・:*:・・:*:・
おそらく、帰ったときには目が腫れてたと思う。
私を見るなり、「どうしたの!」とあれこれ尋ねてきたお母さんには悪いけど、黙秘させてもらった。お母さんも食い下がってはきたけど、私が喋らないのが分かったんだろう。最終的には蒸しタオルと冷やしタオルをくれた。交互に当てると翌日に残らないらしい。
「深刻な話じゃなければ、ちゃんと相談しなさいよ」
そう言ってくれたお母さんだけど、どこかお見通しな部分があったのか、自分が若い頃の苦い思い出を話してくれた。……恋愛関係の。
お母さんに対する年下の子からの猛烈なアタックに、当時付き合っていた彼氏が身を引こうとしたなんて、ちょっと少女漫画みたいな展開に聞いててワクワクしたのは秘密だ。おかげでかなり気が紛れた。きっと本当にあった話を盛って盛って盛りまくったに違いない。だって、どう考えても地方新聞に載るレベルの事件だったもん。
それはさておき。
昨日のことで、私は恥ずかしいのと恨めしいのと両方あって、丹田くんを完全に無視することにした。梓ちゃんは「やるじゃん」なんて褒めてくれたけど、実はちょっぴり心が痛い。だって、他人に対してこんなことをするの初めてだし。
慣れないことをしてる気疲れもあったんだろう。昼休みを迎える頃にはちょっとお腹が痛くなってしまった。
「そうだ、梓ちゃん。部活のポスターなんだけど、自動車学校の名前と連絡先って書かなきゃいけないじゃん」
「そうだね。レタリング必須なのはつらいよね」
「考えたんだけど、ステンシルシートって作れないかな。一度作っちゃえば、来年以降も使いまわしできるでしょ」
「なるほど! ユズにしては冴えてる! あとで宇戸先生に聞いてみよう」
「ユズにしては……て、扱いがひどいよ梓ちゃん」
本当は、昨日の件があって、なかなか寝付けなかったから、全然別のことを考えようと気を紛らわせてた結果なんだけどね。
ちなみに、昼休みにも関わらずにのんびり梓ちゃんと話していられるのは、丹田くんが来ないおかげ。午前中の完全シャットアウトが効いたのか、いつものように男子と喋ってる。
「あのね、一応、参考にしたサイトがあってね」
「なるほど、ステンシル風フォント、ねぇ。漢字でも使えるのかな」
「そこも含めて先生に相談かな」
「厚紙だと不安だから、いらないクリアファイルとか使う?」
「あ、いいかも」
梓ちゃんと話しながらチラチラと男子の様子を見ていたけど、あまり丹田くんが暗くなっているようには見えない。七ツ役くんもいつも通り涼し気だ。
「ちなみに、ユズ。今日のおかずは?」
「ん? 煮込みハンバーグにレタス、ポテトサラダとブロッコリーかな」
もちろん、私のお弁当のおかずじゃない。七ツ役くんのお弁当のおかずだ。
「いっそ探偵とか似合ってるんじゃない?」
「ないない。無理だよ」
「無理じゃないから言ってるんだけどね」
呆れた様子の梓ちゃんは、小さく肩を竦めた。
私と丹田くんの間に何かあったことを感付いてるだろうに、敢えて踏み込んでこない梓ちゃんが大好きだ。
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