空は青く、想いは遠く

長野 雪

文字の大きさ
上 下
17 / 27

17.後押しの想い人

しおりを挟む
「丹田、お前どこ行ってたんだよ」
「だって、普通女の子ってファッション誌とかにいるかなって思うじゃん」
「俺がそんなところに行くとでも思ったのかよ」
「通りすがりに見かけたとかそんなのかと思ってたんだよ」

 うん。なんとなく見えた。
 最近、宇那木さんたちのガードで、私と話せてない丹田くんに、七ツ役くんが助け舟を出したとか、丹田くんから七ツ役くんに泣きついたとか、そんな感じだよね、きっと。

「じゃ、俺、帰るから。――――別役さん、いい案、ありがとう」
「うぅん、役に立てたみたいで良かったよ」

 やばい、声が震えそう。
 だってほら、丹田くんにこういうアシストしたってことはさ、七ツ役くんの気持ちは私に向いてないってことでしょ? それをまざまざと見せつけられて悲しい気持ちがあってさ。
 そもそも丹田くんが私をスッパリ諦めてくれれば、こんなことにはならなかったんじゃないかって憤りがあってさ。
 なんかもう、感情がぐちゃぐちゃに混ざって逆に平坦になっちゃってる気がする。水面は静かだけど、その下はグルグルぐつぐつしちゃってる。

「ユズ、ようやくゆっくり話せそうなタイミングがあって良かった」
「あ、あぁ、学校だとなかなか話せないからね」
「そうなんだよなー。なんか邪魔が入るっつーか」

 逃げたい。もうやだ。さっきまで七ツ役くんと楽しくお喋りしてたのに。どうしてこうなったの。数分前に時間を戻してよ。

「ユズって星とかに興味あるの?」
「まぁ、そんなところ」

 嘘。星に興味があるんじゃないの。七ツ役くんに興味があるから、七ツ役くんが興味があるものに触れたいの。

「それなら来年の文化祭の地学天文部、なんかめちゃくちゃ張り切ってるらしいから、一緒に行かない?」

 その話もさっき七ツ役くんから聞いたよ。
 あぁ、だめ。もう取り繕えそうにない。

「ごめんね、丹田くん。私もそろそろ帰るね」
「あ、ちょっ……」

 私は足早に本屋を飛び出して駅に向かった。後ろから丹田くんの足音がついてきてる気がするけど、気にしない。だって、もう無理!

「ちょっと待ってよ、ユズ!」

 申し訳ないけど、今は丹田くんの話を聞くだけの心の余裕がない。自分でも分かる。ほら――――

「ユズ!」

 ぐい、っと腕を掴まれて、強制的に振り向かされた。丹田くんがどんな表情をしてるのかさえ分からない。だって、私の視界はすっかり滲んで使い物にならなくなってる。

「ユズ……?」

 困惑した声。そんな声出したって無駄だよ。

「離して」
「いや、でも、だって……」
「離して!」

 私は大きく腕を振って、丹田くんの手を払った。

「ユズ……」
「嫌い。前はそうでもなかったけど、今は丹田くんのことが嫌い。もう話し掛けて来ないで」

 私はぐちゃぐちゃになった感情を持て余したまま、駅に向かって駆けだした。
 八つ当たりも含まれてる。でも、七ツ役くんとの楽しい時間を邪魔する丹田くんが大嫌い。それは間違いなかった。


・:*:・・:*:・♪・:*:・・:*:・


 おそらく、帰ったときには目が腫れてたと思う。
 私を見るなり、「どうしたの!」とあれこれ尋ねてきたお母さんには悪いけど、黙秘させてもらった。お母さんも食い下がってはきたけど、私が喋らないのが分かったんだろう。最終的には蒸しタオルと冷やしタオルをくれた。交互に当てると翌日に残らないらしい。

「深刻な話じゃなければ、ちゃんと相談しなさいよ」

 そう言ってくれたお母さんだけど、どこかお見通しな部分があったのか、自分が若い頃の苦い思い出を話してくれた。……恋愛関係の。
 お母さんに対する年下の子からの猛烈なアタックに、当時付き合っていた彼氏が身を引こうとしたなんて、ちょっと少女漫画みたいな展開に聞いててワクワクしたのは秘密だ。おかげでかなり気が紛れた。きっと本当にあった話を盛って盛って盛りまくったに違いない。だって、どう考えても地方新聞に載るレベルの事件だったもん。

 それはさておき。
 昨日のことで、私は恥ずかしいのと恨めしいのと両方あって、丹田くんを完全に無視することにした。梓ちゃんは「やるじゃん」なんて褒めてくれたけど、実はちょっぴり心が痛い。だって、他人に対してこんなことをするの初めてだし。
 慣れないことをしてる気疲れもあったんだろう。昼休みを迎える頃にはちょっとお腹が痛くなってしまった。

「そうだ、梓ちゃん。部活のポスターなんだけど、自動車学校の名前と連絡先って書かなきゃいけないじゃん」
「そうだね。レタリング必須なのはつらいよね」
「考えたんだけど、ステンシルシートって作れないかな。一度作っちゃえば、来年以降も使いまわしできるでしょ」
「なるほど! ユズにしては冴えてる! あとで宇戸先生に聞いてみよう」
「ユズにしては……て、扱いがひどいよ梓ちゃん」

 本当は、昨日の件があって、なかなか寝付けなかったから、全然別のことを考えようと気を紛らわせてた結果なんだけどね。
 ちなみに、昼休みにも関わらずにのんびり梓ちゃんと話していられるのは、丹田くんが来ないおかげ。午前中の完全シャットアウトが効いたのか、いつものように男子と喋ってる。

「あのね、一応、参考にしたサイトがあってね」
「なるほど、ステンシル風フォント、ねぇ。漢字でも使えるのかな」
「そこも含めて先生に相談かな」
「厚紙だと不安だから、いらないクリアファイルとか使う?」
「あ、いいかも」

 梓ちゃんと話しながらチラチラと男子の様子を見ていたけど、あまり丹田くんが暗くなっているようには見えない。七ツ役くんもいつも通り涼し気だ。

「ちなみに、ユズ。今日のおかずは?」
「ん? 煮込みハンバーグにレタス、ポテトサラダとブロッコリーかな」

 もちろん、私のお弁当のおかずじゃない。七ツ役くんのお弁当のおかずだ。

「いっそ探偵とか似合ってるんじゃない?」
「ないない。無理だよ」
「無理じゃないから言ってるんだけどね」

 呆れた様子の梓ちゃんは、小さく肩を竦めた。
 私と丹田くんの間に何かあったことを感付いてるだろうに、敢えて踏み込んでこない梓ちゃんが大好きだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?

宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。 そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。 婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。 彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。 婚約者を前に彼らはどうするのだろうか? 短編になる予定です。 たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます! 【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。 ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...