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11.存在感の薄い想い人
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――――あるときは授業間の休み時間。
「ねぇ、ちょっといいかな?」
「に……たくん。なに?」
「僕さ、次の英語あたるんだけど、これって合ってると思う?」
「えーと……、うん、私も同じ訳だから大丈夫だと思う」
「サンキュ」
――――またあるときは、昼休みも終わりかけの頃。
「そういえばユズって、あのドラマ見てるんだっけ?」
「えぇと、見てるけど。ね、梓ちゃん」
「あたしとユズの楽しい時間に邪魔してくるなんて、いい度胸ね、丹田」
――――さらには放課後。
「ユズ、今日は部活ないんだろ? 駅まで一緒に帰らね?」
「ご、ごめん。ちょっと今日は進路指導室に用事があって」
「二人で志望校絞り込む予定だったんだ」
「じゃ、僕も一緒に――――」
「あたし、アンタに志望校知られたくないから、悪いね」
どうしよう。なんかなりふり構わなくなってる!
「いやー。あからさまになってきたね。面白い」
「梓ちゃん、面白がらないで」
「それで、どうする? 本当に進路指導室に行く?」
「ごめん、一応、ちょっとだけ、いいかな?」
「仕方ないね」
とっさに口裏を合わせてくれた梓ちゃんには感謝だよ! 明日のお昼になんか飲み物おごるからね!。
「まぁ、あたしも気になる大学増えたし、丁度いいんだけど」
「そうなの? あー、でも、梓ちゃんとはさすがに大学は一緒じゃないんだよね。ちょっと残念」
「友達付き合いで進路を歪めてもね。むしろ色恋沙汰で志望校を決めるユズにびっくりだけど」
「梓ちゃんってば辛辣! クール! でもそこが好き!」
「はいはい」
ブレブレな私と違って、ちゃんと将来を見据えてる梓ちゃんを見ると、本当にすごいなって思う。本当は、そういうことで進路を決めるのっておかしいと思うんだよ。でも、特にやりたいこともないし、今一番やりたいことは、七ツ役くんを眺めることだしなぁ。
「失礼しまーす」
「しまーす」
進路指導室には、相談用のカウンターの他に、様々な進路を決めるための資料が揃っている。卒業していった先輩方が寄贈していった赤本なんかも並べられていて、なかなか壮観だ。
「……あ! 筆記用具、教室に忘れた」
「あたしの貸す?」
「うぅん、宿題のこともあるし、ちょっぱやで取ってくる」
「あんまり急いで誰かにぶつからないようにね」
「梓ちゃん、私をなんだと思ってるの?」
「ブレーキの壊れた暴走機関車?」
「ひどい、動力はスチームじゃないよっ……!」
梓ちゃんに手を振り、私は鞄を置いて教室へと足早に向かった。
幸いなことに、教室には何人かの女子が残っているだけで、丹田くんはいなかった。
窓側の前の方の席へ行くと、うん、良かった。机の中にペンケース入れっぱなしだった。ふぅ、やれやれ。
「ねぇ、別役さん」
「うん?」
名前を呼びかけられたので振り向くと、クラスの女子数名と……他クラスの女子も混ざってるよね、これ。ひーふーみーよーいつ。5人分の視線を一身に受けることなんて滅多にないので、ちょっとビビった。しかも、みんなアイライナーとマスカラどれだけ盛ってるのってぐらい目力強いし。
「丹田くんのあれ、なんなの?」
「あれ?」
「最近、やたらと別役さんにちょっかいかけてるじゃない」
「さぁ?」
あ、なんか一気に視線が剣呑になった気がしなくもない。丹田くんて目立つもんね。それがいきなりあんな風になるから、色々バレバレだよ。いや、本人はきっと分かってやってるんだろうけどさ。
「私もよく分からないんだよね。むしろ宇那木さん、知らない? 丹田くんとよく喋ってるよね」
すっとぼけて私に話しかけてきた女子に疑問を投げ返してみると、どうやら私が本当に知らないと思ったらしい。
「えー、ちょっとマリ、どゆことー?」
「でも別役さんも分かんないんじゃさー」
「そもそもサダサダが別役さん狙いって言ったの誰よ」
「ユキナじゃないの? ってかどう考えても違くね?」
ですよねー。そう思いますよねー。
というか、サダサダなんて呼ばれてるんだ、丹田くん。下の名前ってなんだっけか。
「えっと、もういいかな?」
「うん、ごめんね、別役さん」
「あ、うぅん。私もあの丹田くんはなんだろなー?って思ってたから、気持ちは分かるし。もし、なんかわかったら教えてくれる?」
「分かったらねー」
良かった。宇那木さんも私が何も知らないと納得してくれたらしい。
宇那木さんは、丹田くんと同じ中学出身で、目立つことが大好きなんだか知らないけど、まぁ、色んな意味で声が大きい女子なんだよね。それだけならいいんだけど、気が強いというか、カッとなるところがあるというか……。以前、彼女を怒らせた別の女子がガチビンタくらうのを見たことがあるから、ちょっと怖いんだ。宇那木さんの友達だったんだけど、ふざけて「ウナギーヌ」って呼んだのが発端だったとか後で聞いた。本人がやめろと言うのに面白がって呼び続けた結果、バチーン!となったらしい。やだ怖い。
「ねぇ、ちょっといいかな?」
「に……たくん。なに?」
「僕さ、次の英語あたるんだけど、これって合ってると思う?」
「えーと……、うん、私も同じ訳だから大丈夫だと思う」
「サンキュ」
――――またあるときは、昼休みも終わりかけの頃。
「そういえばユズって、あのドラマ見てるんだっけ?」
「えぇと、見てるけど。ね、梓ちゃん」
「あたしとユズの楽しい時間に邪魔してくるなんて、いい度胸ね、丹田」
――――さらには放課後。
「ユズ、今日は部活ないんだろ? 駅まで一緒に帰らね?」
「ご、ごめん。ちょっと今日は進路指導室に用事があって」
「二人で志望校絞り込む予定だったんだ」
「じゃ、僕も一緒に――――」
「あたし、アンタに志望校知られたくないから、悪いね」
どうしよう。なんかなりふり構わなくなってる!
「いやー。あからさまになってきたね。面白い」
「梓ちゃん、面白がらないで」
「それで、どうする? 本当に進路指導室に行く?」
「ごめん、一応、ちょっとだけ、いいかな?」
「仕方ないね」
とっさに口裏を合わせてくれた梓ちゃんには感謝だよ! 明日のお昼になんか飲み物おごるからね!。
「まぁ、あたしも気になる大学増えたし、丁度いいんだけど」
「そうなの? あー、でも、梓ちゃんとはさすがに大学は一緒じゃないんだよね。ちょっと残念」
「友達付き合いで進路を歪めてもね。むしろ色恋沙汰で志望校を決めるユズにびっくりだけど」
「梓ちゃんってば辛辣! クール! でもそこが好き!」
「はいはい」
ブレブレな私と違って、ちゃんと将来を見据えてる梓ちゃんを見ると、本当にすごいなって思う。本当は、そういうことで進路を決めるのっておかしいと思うんだよ。でも、特にやりたいこともないし、今一番やりたいことは、七ツ役くんを眺めることだしなぁ。
「失礼しまーす」
「しまーす」
進路指導室には、相談用のカウンターの他に、様々な進路を決めるための資料が揃っている。卒業していった先輩方が寄贈していった赤本なんかも並べられていて、なかなか壮観だ。
「……あ! 筆記用具、教室に忘れた」
「あたしの貸す?」
「うぅん、宿題のこともあるし、ちょっぱやで取ってくる」
「あんまり急いで誰かにぶつからないようにね」
「梓ちゃん、私をなんだと思ってるの?」
「ブレーキの壊れた暴走機関車?」
「ひどい、動力はスチームじゃないよっ……!」
梓ちゃんに手を振り、私は鞄を置いて教室へと足早に向かった。
幸いなことに、教室には何人かの女子が残っているだけで、丹田くんはいなかった。
窓側の前の方の席へ行くと、うん、良かった。机の中にペンケース入れっぱなしだった。ふぅ、やれやれ。
「ねぇ、別役さん」
「うん?」
名前を呼びかけられたので振り向くと、クラスの女子数名と……他クラスの女子も混ざってるよね、これ。ひーふーみーよーいつ。5人分の視線を一身に受けることなんて滅多にないので、ちょっとビビった。しかも、みんなアイライナーとマスカラどれだけ盛ってるのってぐらい目力強いし。
「丹田くんのあれ、なんなの?」
「あれ?」
「最近、やたらと別役さんにちょっかいかけてるじゃない」
「さぁ?」
あ、なんか一気に視線が剣呑になった気がしなくもない。丹田くんて目立つもんね。それがいきなりあんな風になるから、色々バレバレだよ。いや、本人はきっと分かってやってるんだろうけどさ。
「私もよく分からないんだよね。むしろ宇那木さん、知らない? 丹田くんとよく喋ってるよね」
すっとぼけて私に話しかけてきた女子に疑問を投げ返してみると、どうやら私が本当に知らないと思ったらしい。
「えー、ちょっとマリ、どゆことー?」
「でも別役さんも分かんないんじゃさー」
「そもそもサダサダが別役さん狙いって言ったの誰よ」
「ユキナじゃないの? ってかどう考えても違くね?」
ですよねー。そう思いますよねー。
というか、サダサダなんて呼ばれてるんだ、丹田くん。下の名前ってなんだっけか。
「えっと、もういいかな?」
「うん、ごめんね、別役さん」
「あ、うぅん。私もあの丹田くんはなんだろなー?って思ってたから、気持ちは分かるし。もし、なんかわかったら教えてくれる?」
「分かったらねー」
良かった。宇那木さんも私が何も知らないと納得してくれたらしい。
宇那木さんは、丹田くんと同じ中学出身で、目立つことが大好きなんだか知らないけど、まぁ、色んな意味で声が大きい女子なんだよね。それだけならいいんだけど、気が強いというか、カッとなるところがあるというか……。以前、彼女を怒らせた別の女子がガチビンタくらうのを見たことがあるから、ちょっと怖いんだ。宇那木さんの友達だったんだけど、ふざけて「ウナギーヌ」って呼んだのが発端だったとか後で聞いた。本人がやめろと言うのに面白がって呼び続けた結果、バチーン!となったらしい。やだ怖い。
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