空は青く、想いは遠く

長野 雪

文字の大きさ
上 下
9 / 27

09.諦められない想い人

しおりを挟む
「う~……、寝不足だよ」
「大丈夫? おぉ、立派な隈が」

 梓ちゃんってば、人の目元をなぞらないでったら。なんか目に近い所に他人の指が触れると落ち着かないよ!

「もしかして、思い悩んじゃった系?」
「そうなのかな……、なんか眠れなくて」

 しょぼしょぼしてる目を擦ると、赤くなるからやめな、と梓ちゃんが止める。仕方がないので、鞄から目薬を取り出した。

「悩むぐらいなら、とっとと終わりにしちゃえばいいのに」
「え?」
「決めてるんだったら、ズルズル先延ばしにしない」
「でも、一週間……」
「それはあっちの都合でしょ。別にそれに従う義理はないわ」
「梓ちゃんかっこいい……」
「惚れなくていいわよ」
「いや、惚れるよ!」

 特定の固有名詞を出さずに会話をしているのは、ここが教室の中だからだ。丹田くんも同じクラスだからね。それに、部室と違って誰に聞かれるか分からないわけだし。

「昼休みでも放課後でもいいから、とっととヤっちまいな!」
「キャー! 梓ちゃん素敵!」

 ノリよくキリッと決めてくれた梓ちゃんに、私は思わず抱きついた。
 そうだよね。心に引っ掛かってるなら、梓ちゃんの言う通り、とっととヤっちゃった方がいいのかもしれない。

「よしっ! 頑張る!」
「そうそう、その意気」

――――なんて、話していたのは朝のHRホームルームの後のこと。

「丹田くん。ちょっといいかな?」
「ん? いいよー」

 ようやく丹田くんを連れ出すことができたのは、放課後だった。おかげで、今日はあまり七ツ役くん観察ができてない。悔しい。もし、七ツ役くん観察日記を毎日つけていたとしたら、今日だけすごく薄くなっちゃってる。これは由々しき事態だ。こんなことが一週間も続くなんて考えられないから、やっぱり梓ちゃんの言う通り、一週間と待たずにスッパリ切り捨ててしまった方がいいんだろう。うん。スッパリサッパリズバッと。……頑張ろう。

「あのね、昨日の話なんだけど、一週間も考える時間はいらないかなって」

 目の前の丹田くんは、私の話をちゃんと真面目な顔で聞いている。申し訳ない。本当に申し訳ない!

「やっぱり私は今好きな人のことを諦めて、丹田くんと付き合うっていう選択肢を選ぶことはできない」

 よし! 用意してたセリフそのまま言えた! これでオッケー!

「……あぁ、やっぱり?」
「んん?」

 あれ、なんか反応が想定外なんだけど。ここはがっくりと打ちひしがれるところで、それを申し訳なさそうに私が背を向けるところじゃないの?

「なんかユズって、鹿宮さんと似てきたよね」
「えぇ? 梓ちゃんに?」

 どうしよう。あんなクールな梓ちゃんに似てきたなんて、すっごく嬉しい!
 たぶん喜色満面の笑みを浮かべていたんだろう。なぜか丹田くんがゲンナリとした。

「どうしてそんな嬉しそうな顔するんだか。……でも、僕は諦めるつもりはないんだけど」
「えぇと、それは、私が口出しできない問題だから、何とも言えないんだけど」

 まさかフってる私が諦めろなんて高慢なこと言えないし。本人の心の持ちようだもんね。

「だからさ、ユズがその好きな相手に告白して、付き合うことになったら諦める」
「……はい?」

 梓ちゃーん! ヘルプ! ヘルプミー!
 想定外の切り返しをされた場合はどうすればいいのさ!
 そう、梓ちゃんに協力してもらって、想定される遣り取りをある程度シミュレーションしておいたんだよ。だって、上手く断れる自信がなかったし!
 それなのに? 何これ? 想定外なんだけどー!

「だから、早く告白してね」
「えええぇぇ?」

 困惑した私にヒラヒラと手を振って、丹田くんは教室に戻って行ってしまった。
 おかしいな。相手を置いて去って行くのは、あくまで私の方だったはずなんだよ?

「……梓ちゃぁん」

 しばらく呆然と佇んでいたけれど、とりあえず親友の名前を呟いて、私はとぼとぼと教室に戻ることにした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】美しい人。

❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」 「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」 「ねえ、返事は。」 「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」 彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。

バケモノ姫の○○騒動

長野 雪
恋愛
隣国に輿入れするユーディリアは突然武装兵力に囲まれた。その主は大国ミレイスの王子リカッロだった。嫁ぎ先の王国を奪い、ユーディリア自身も本来の婚約者に変わって娶ることを宣言するリカッロ。ユーディリアは自分の異能の力を使い、流されるまいと抵抗することを決意する。 ※第11回恋愛小説大賞エントリー中です

冤罪モブ令嬢とストーカー系従者の溺愛

夕日(夕日凪)
恋愛
「だからあの子……トイニに、罪を着せてしまえばいいのよ」 その日。トイニ・ケスキナルカウス子爵令嬢は、取り巻きをしているエミリー・ギャロワ公爵令嬢に、罪を着せられそうになっていることを知る。 公爵家に逆らうことはできず、このままだと身分剥奪での平民落ちは免れられないだろう。 そう考えたトイニは将来を一緒に過ごせる『平民の恋人』を作ろうとするのだが……。 お嬢様を溺愛しすぎているストーカー従者×モブ顔お嬢様。15話完結です。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...