4 / 27
04.オススメ本の想い人
しおりを挟む
「星検のこと、教えてもらってありがとう」
「そっか、先週末に試験やったんだっけ。どうだった?」
「うん、地学で習ったことがたくさん出てきたから、手応えはあるよ」
むん、と両手を握って力を込めるアピールをすると、七ツ役くんは微笑んでくれた。
「それなら3級は大丈夫そうだね」
「七ツ役くんは、3級と2級併願で受けたんだよね? どうだった?」
「うーん、さすがに2級は厳しかったかな。でも、次のも受けようと思ってるし、もう一度、勉強のやり直しだよ」
「2級ってそんなに難しかったの?」
話題になっているのは、七ツ役くんが教えてくれた星空宇宙天文検定だ。なんでも、地学天文部の人たちは受けるのが風習になっているらしく、私も教えてもらうまではそんな検定があるのすら知らなかった。気象予報士とは直接関係ないけれど、地学つながりだし、何より七ツ役くんとの話題作りになるからと、受けてみることにしたのだ。
「ほら、これ問題集なんだけどさ」
書棚から引っ張り出したのは、検定を主催している協会が出しているテキストだった。
「……うん」
だめだこれ。もう色々問題からして謎が謎を呼んでる。メシエ番号って何? それに変光? 星の色が変わるの?
そんな率直な感想をぐっと心にしまい込み、私は曖昧な笑みを浮かべた。
「これは厳しいね」
「でしょ」
自分でも頑張って勉強したつもりなんだけどな、なんて笑って話す七ツ役くんに、勢いよく「つもりなんてそんなそんな! 七ツ役くんはめちゃくちゃ頑張ってるじゃん!」なんて言いたいけれど、あまりがっつくのもよくない。というのは梓ちゃんの教えだ。
「2級でこれだったら、1級はどうなっちゃうんだろうね」
「そうだね。でも、うちの部の先輩で、一人、1級に受かった人がいるんだ」
「ホントに?」
「ちなみにその人、あだ名が『変人』なんだけどね」
「ふふっ、それほど情熱がないと無理ってこと?」
「そうだね。でも『星に欲情する変態』って罵られてもいるよ」
「そこまでは、ならなくてもいいかな」
「そうだね」
やばい。鼻血出そう。
だって今、私、めっちゃ七ツ役くんと普通におしゃべりしてる。本屋だからって声量に気を遣う七ツ役くんとの距離が自然と近くなるし、何より七ツ役くんの顔がキラッキラしてるのが眩しい。あぁもう、どなたか濃度80%、偏光率99%のサングラスをお持ちの方いらっしゃいませんかー? このままだともれなく私の目が潰れる危険が危ないです。あまりの衝撃にもはや日本語崩壊だね。
「あ、ごめん。別役さんもなんか本を探しに来たんだよね」
「うぅん、面白そうな本がないかなって思っただけだから」
嘘です。本当は七ツ役くんがいないかなって思っただけだから。
「よくこの辺りで見かけるけど、やっぱり天文とか興味あるの?」
「あー。えーと」
興味あるのは七ツ役くんなんだけど、とか言えるわけがない。
「あ、もしかして、聞いたらまずい話だった?」
「うぅん、その、ちょっと恥ずかしいんだけど、ほら、来年のコース希望出したじゃない? 色々自分なりに考えて、将来は気象予報士目指してみるのもありかなーって思ったりして、ね」
ごめんなさい七ツ役くん! 今、私、めっちゃ嘘ついてる!
本当は七ツ役くんを見ていたいから同じ理系コース希望してるし、可能なら進学先も一緒になりたいから、同じように気象予報士目指す予定なんて言えない! おはようからおやすみまで七ツ役くんの暮らしを見つめ……るのはさすがに変態ちっくだから、いやでも見つめたいに決まってるじゃん!
内心の葛藤をよそに、私は「まだ決めてるわけじゃないから、内緒だよ」とできるだけ可愛く見えるように付け加えた。
「そうなんだ。それじゃ俺と一緒だな」
「え?」
もちろん知ってますよ何か?な私だけど、ここは初耳を装う必要があるのだ。だって、本人の口から聞いたわけじゃないからね。
「気象予報士目指してるんだ。もし、本気で別役さんも目指すなら……あ、これこれ」
書棚から七ツ役くんの少し節ばった指が、一冊の本を抜き出す。うん、指フェチなわけじゃないけど、七ツ役くんのものなら指だって大好きさ。
「これなら、基本的なところから丁寧に解説してあるし、オススメだよ」
どうやら気象学の入門書らしい。七ツ役くんがせっかくオススメしてくれた本だから、即決で買いたいところだけど、今月は……ぐぐぐ。いや、あの雑誌をちょっと諦めれば何とかなるかな?
渡された本をパラパラめくり、ふんふんと頷きながら中身を眺め、最後にさりげない仕草で値段を確認する。うん、サンゼンエン。
なんていうかさ、いや、専門書だから仕方ないと思うんだけど、どうしてこういうのって、可愛くない値段なんだろうね? いいよ。頑張るよ。こんなときのためにと思って金券ショップで買っておいた図書カードが火を噴く出番だよ。図書カードの次弾装填の目処は立ってないけど、本人から直接オススメされたのに、買わないって選択肢はないよね。ない。買う一択でしょ!
「へぇ、分かりやすそうだね。買って勉強してみようかな」
「……ぷっ」
ん? 七ツ役くん、いま、吹き出さなかった?
「そっか、先週末に試験やったんだっけ。どうだった?」
「うん、地学で習ったことがたくさん出てきたから、手応えはあるよ」
むん、と両手を握って力を込めるアピールをすると、七ツ役くんは微笑んでくれた。
「それなら3級は大丈夫そうだね」
「七ツ役くんは、3級と2級併願で受けたんだよね? どうだった?」
「うーん、さすがに2級は厳しかったかな。でも、次のも受けようと思ってるし、もう一度、勉強のやり直しだよ」
「2級ってそんなに難しかったの?」
話題になっているのは、七ツ役くんが教えてくれた星空宇宙天文検定だ。なんでも、地学天文部の人たちは受けるのが風習になっているらしく、私も教えてもらうまではそんな検定があるのすら知らなかった。気象予報士とは直接関係ないけれど、地学つながりだし、何より七ツ役くんとの話題作りになるからと、受けてみることにしたのだ。
「ほら、これ問題集なんだけどさ」
書棚から引っ張り出したのは、検定を主催している協会が出しているテキストだった。
「……うん」
だめだこれ。もう色々問題からして謎が謎を呼んでる。メシエ番号って何? それに変光? 星の色が変わるの?
そんな率直な感想をぐっと心にしまい込み、私は曖昧な笑みを浮かべた。
「これは厳しいね」
「でしょ」
自分でも頑張って勉強したつもりなんだけどな、なんて笑って話す七ツ役くんに、勢いよく「つもりなんてそんなそんな! 七ツ役くんはめちゃくちゃ頑張ってるじゃん!」なんて言いたいけれど、あまりがっつくのもよくない。というのは梓ちゃんの教えだ。
「2級でこれだったら、1級はどうなっちゃうんだろうね」
「そうだね。でも、うちの部の先輩で、一人、1級に受かった人がいるんだ」
「ホントに?」
「ちなみにその人、あだ名が『変人』なんだけどね」
「ふふっ、それほど情熱がないと無理ってこと?」
「そうだね。でも『星に欲情する変態』って罵られてもいるよ」
「そこまでは、ならなくてもいいかな」
「そうだね」
やばい。鼻血出そう。
だって今、私、めっちゃ七ツ役くんと普通におしゃべりしてる。本屋だからって声量に気を遣う七ツ役くんとの距離が自然と近くなるし、何より七ツ役くんの顔がキラッキラしてるのが眩しい。あぁもう、どなたか濃度80%、偏光率99%のサングラスをお持ちの方いらっしゃいませんかー? このままだともれなく私の目が潰れる危険が危ないです。あまりの衝撃にもはや日本語崩壊だね。
「あ、ごめん。別役さんもなんか本を探しに来たんだよね」
「うぅん、面白そうな本がないかなって思っただけだから」
嘘です。本当は七ツ役くんがいないかなって思っただけだから。
「よくこの辺りで見かけるけど、やっぱり天文とか興味あるの?」
「あー。えーと」
興味あるのは七ツ役くんなんだけど、とか言えるわけがない。
「あ、もしかして、聞いたらまずい話だった?」
「うぅん、その、ちょっと恥ずかしいんだけど、ほら、来年のコース希望出したじゃない? 色々自分なりに考えて、将来は気象予報士目指してみるのもありかなーって思ったりして、ね」
ごめんなさい七ツ役くん! 今、私、めっちゃ嘘ついてる!
本当は七ツ役くんを見ていたいから同じ理系コース希望してるし、可能なら進学先も一緒になりたいから、同じように気象予報士目指す予定なんて言えない! おはようからおやすみまで七ツ役くんの暮らしを見つめ……るのはさすがに変態ちっくだから、いやでも見つめたいに決まってるじゃん!
内心の葛藤をよそに、私は「まだ決めてるわけじゃないから、内緒だよ」とできるだけ可愛く見えるように付け加えた。
「そうなんだ。それじゃ俺と一緒だな」
「え?」
もちろん知ってますよ何か?な私だけど、ここは初耳を装う必要があるのだ。だって、本人の口から聞いたわけじゃないからね。
「気象予報士目指してるんだ。もし、本気で別役さんも目指すなら……あ、これこれ」
書棚から七ツ役くんの少し節ばった指が、一冊の本を抜き出す。うん、指フェチなわけじゃないけど、七ツ役くんのものなら指だって大好きさ。
「これなら、基本的なところから丁寧に解説してあるし、オススメだよ」
どうやら気象学の入門書らしい。七ツ役くんがせっかくオススメしてくれた本だから、即決で買いたいところだけど、今月は……ぐぐぐ。いや、あの雑誌をちょっと諦めれば何とかなるかな?
渡された本をパラパラめくり、ふんふんと頷きながら中身を眺め、最後にさりげない仕草で値段を確認する。うん、サンゼンエン。
なんていうかさ、いや、専門書だから仕方ないと思うんだけど、どうしてこういうのって、可愛くない値段なんだろうね? いいよ。頑張るよ。こんなときのためにと思って金券ショップで買っておいた図書カードが火を噴く出番だよ。図書カードの次弾装填の目処は立ってないけど、本人から直接オススメされたのに、買わないって選択肢はないよね。ない。買う一択でしょ!
「へぇ、分かりやすそうだね。買って勉強してみようかな」
「……ぷっ」
ん? 七ツ役くん、いま、吹き出さなかった?
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる