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57.俺、安寧を望む
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シンシアは昼飯を食べ終わった後も居座ってぶちぶち文句を言い続けていた。
「だいたいさー、シャーくんもムセキニンっつーか」
「シャラウィにも事情があったんだろ? それにここで文句言っても、シンシアに雑用が回ってくるのは変わらないし」
「はー? 誰もそんなこと言ってないしー。っつーか、ミケはあたしの愚痴聞き係でしょー?」
そんな係は初耳だ、という反論をぐっと飲み込んだ。
知っている。俺は知っている。こういうときの女性は、とにかく愚痴をぶちまけてスッキリしたいだけであって、建設的な意見なんて求めていないんだってことを……!
俺は、適当な相槌を打つマシーンになりつつ、シャラウィのことを考えた。きっと、シャラウィにも事情があったんだと信じたい。もちろん、甘い感傷だっていうことは分かっている。でも、俺が無属性の魔晶石を作れたことや、エンやスイの存在はもっと早くに第一研究所に漏れててもおかしくなかった。それなのに、第一研究所のヤツらが乗り込んでくるまでに時間差があったことを考えると、シャラウィができるだけ情報を漏らすのを遅らせていたんじゃないかって――――
「ねー、ちゃんと聞いてるー?」
「聞いてるよ。マルチアが協力的じゃないんだろ?」
「そー、それでねー……」
少しぐらい、感傷に浸らせてくれてもいいじゃないか。いつまで続くか分からないシンシアの愚痴を、半分ぐらい聞き流しながら、俺は助けを求めてエンとスイを見る。だが、二人とも首を横に振って「無理」と告げていた。
「あ、そーいえばー、聞いたー?」
「うんうん、……えっ、何を?」
俺は慌てて相槌を撤回して聞き返す。突然、全然違う話題を振られるから、女性の相手は油断ができないんだよな。似たような愚痴を言ってても、こっちが話半分で聞いてないと察知するや怒り出すし、本当に勘弁して欲しい。
「両殿下にー、婚約者ができるらしーよー」
「へー……、って、婚約者? 殿下に?」
シンシアはニマニマとした笑みを浮かべて、「大変よねー」と続ける。
「そりゃ、でも、貴族とかって早めに婚約者ができるのは、珍しいことじゃない、よな?」
「まー、これまでは? トップ・オア・ダイって感じで婚約者もなかなかできなかったみたいだけどねー」
トップ・オア・ダイって……、次期魔王にならない方は、死ぬって確定かよ。やっぱり怖いな、権力者。俺は平凡な一市民で構わない。そこそこ長生きしてピンピンコロリが理想だ。
「でー、ミケは大丈夫なわけー?」
「? 何がだ?」
シンシアのニマニマとした笑みに、俺は不吉なものを感じた。
「だってー、婚約者からしたらー? 婚約相手がー、特定の同性とー、一緒のベッドで寝てるわけっしょー?」
「っ!」
それが言いたかったのか、シンシアは!
「ちょっと待てよ。俺は別に――」
「知ってるけどー、相手がどう受け取るかは、別の問題でしょー?」
元々、対抗勢力とか諸々に弱みを握られないために、秘密裏にここへ運ばれた俺のことだ。両殿下の仲が良好だと知らしめたからと言って、俺の存在を公表するわけもない。つまり俺は……
「殿下も色々考えてると思うけどー、目立たないように注意しないとねー?」
「く……っ! いや、ミモさんが離れててもどうにかできるよう研究しているはずだよな? それがあれば――」
「主席は第一研究所の後始末で、研究どころじゃないじゃん?」
「ぐはっ」
ひとまず落ち着いて厨房の主として働いていけそうだと思っていたが、どうやら、俺の受難はまだまだ続くらしい。
『お母様、大丈夫ですの?』
『ママー』
『母上、お気を確かに!』
俺に寄り添う三人を順繰りに撫でながら、俺は心の中で号泣した。
(俺に安寧の日々をくれ――っ!)
波瀾万丈なんていらない、と願う俺を、エン、スイ、アンの三人が慰めてくれた。この三人も、ある意味波瀾万丈の要素の1つなんだが。深くは考えるまい。
あぁ、どうやったら平凡な一市民として暮らせるのかなぁ……。そんなことを思いながら、遠い目になってしまったのだった。
「だいたいさー、シャーくんもムセキニンっつーか」
「シャラウィにも事情があったんだろ? それにここで文句言っても、シンシアに雑用が回ってくるのは変わらないし」
「はー? 誰もそんなこと言ってないしー。っつーか、ミケはあたしの愚痴聞き係でしょー?」
そんな係は初耳だ、という反論をぐっと飲み込んだ。
知っている。俺は知っている。こういうときの女性は、とにかく愚痴をぶちまけてスッキリしたいだけであって、建設的な意見なんて求めていないんだってことを……!
俺は、適当な相槌を打つマシーンになりつつ、シャラウィのことを考えた。きっと、シャラウィにも事情があったんだと信じたい。もちろん、甘い感傷だっていうことは分かっている。でも、俺が無属性の魔晶石を作れたことや、エンやスイの存在はもっと早くに第一研究所に漏れててもおかしくなかった。それなのに、第一研究所のヤツらが乗り込んでくるまでに時間差があったことを考えると、シャラウィができるだけ情報を漏らすのを遅らせていたんじゃないかって――――
「ねー、ちゃんと聞いてるー?」
「聞いてるよ。マルチアが協力的じゃないんだろ?」
「そー、それでねー……」
少しぐらい、感傷に浸らせてくれてもいいじゃないか。いつまで続くか分からないシンシアの愚痴を、半分ぐらい聞き流しながら、俺は助けを求めてエンとスイを見る。だが、二人とも首を横に振って「無理」と告げていた。
「あ、そーいえばー、聞いたー?」
「うんうん、……えっ、何を?」
俺は慌てて相槌を撤回して聞き返す。突然、全然違う話題を振られるから、女性の相手は油断ができないんだよな。似たような愚痴を言ってても、こっちが話半分で聞いてないと察知するや怒り出すし、本当に勘弁して欲しい。
「両殿下にー、婚約者ができるらしーよー」
「へー……、って、婚約者? 殿下に?」
シンシアはニマニマとした笑みを浮かべて、「大変よねー」と続ける。
「そりゃ、でも、貴族とかって早めに婚約者ができるのは、珍しいことじゃない、よな?」
「まー、これまでは? トップ・オア・ダイって感じで婚約者もなかなかできなかったみたいだけどねー」
トップ・オア・ダイって……、次期魔王にならない方は、死ぬって確定かよ。やっぱり怖いな、権力者。俺は平凡な一市民で構わない。そこそこ長生きしてピンピンコロリが理想だ。
「でー、ミケは大丈夫なわけー?」
「? 何がだ?」
シンシアのニマニマとした笑みに、俺は不吉なものを感じた。
「だってー、婚約者からしたらー? 婚約相手がー、特定の同性とー、一緒のベッドで寝てるわけっしょー?」
「っ!」
それが言いたかったのか、シンシアは!
「ちょっと待てよ。俺は別に――」
「知ってるけどー、相手がどう受け取るかは、別の問題でしょー?」
元々、対抗勢力とか諸々に弱みを握られないために、秘密裏にここへ運ばれた俺のことだ。両殿下の仲が良好だと知らしめたからと言って、俺の存在を公表するわけもない。つまり俺は……
「殿下も色々考えてると思うけどー、目立たないように注意しないとねー?」
「く……っ! いや、ミモさんが離れててもどうにかできるよう研究しているはずだよな? それがあれば――」
「主席は第一研究所の後始末で、研究どころじゃないじゃん?」
「ぐはっ」
ひとまず落ち着いて厨房の主として働いていけそうだと思っていたが、どうやら、俺の受難はまだまだ続くらしい。
『お母様、大丈夫ですの?』
『ママー』
『母上、お気を確かに!』
俺に寄り添う三人を順繰りに撫でながら、俺は心の中で号泣した。
(俺に安寧の日々をくれ――っ!)
波瀾万丈なんていらない、と願う俺を、エン、スイ、アンの三人が慰めてくれた。この三人も、ある意味波瀾万丈の要素の1つなんだが。深くは考えるまい。
あぁ、どうやったら平凡な一市民として暮らせるのかなぁ……。そんなことを思いながら、遠い目になってしまったのだった。
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