人身御供で連れ出された俺が王子の恩人(予定)だって!?

長野 雪

文字の大きさ
上 下
55 / 57

55.俺、深く考えたくない

しおりを挟む
「仕方ない、もう少し泳がせていても良かったが、動くとするか。今回のことで兄上殿もご立腹のようだ」
「そうなさった方がよろしいかと」
「アレの身柄は?」
「既に確保済みです」

 俺の頭の上で、なんだか真剣な話がされている。会話をしているのは、無事に回復したアウグスト殿下と、第二研究所の主席研究員でもあるミモさんだ。
 ただし、寝台に腰掛けたアウグスト殿下は、まるで人形のように俺を膝の上に乗せて抱きしめている。そこが問題だ。大問題だろう。
 なお、余剰魔力を俺が吸い取ったことで意識を取り戻した殿下は、常備薬――火傷薬を肌に塗りたくっていた。薬なのに魔力が籠もっているというその薬の効果はてきめんで、あれだけ酷かった火傷痕が、今ではうっすらとした痕が残るだけになっている。魔族の薬って凄すぎる、と唖然としていたら、魔族の間でも、すごく希少で高価なものなんだとか。ただ、無属性の魔晶石があればかなり楽に作れるとは言っていたけど。

「あのー……、俺、厨房に行っても?」
「そうだな。アレの確保が終わっているならば……いや、お前、身体に変調はないか?」
「いえ、特には。強いて挙げるなら、エンが――」

 俺の視線の先にいるエンをちらりと見て、殿下は「あれはいい」とさらりと無視した。いや、無視できる状況か?

「随分と俺の魔力を吸い取った筈だが、本当に何もないんだな?」
「? はい、いつも通りですけど」

 俺の答えに、何故か殿下がため息をついた。ついでにミモさんも呆れた様子で俺を見ている。別にいつも通りで変わらないと思うんだけどなぁ。

『気にしたところで仕方がないぜ。ミケっちはこういうもんだって割り切らねぇとな』
「そうだな。だが、魔力量だけは計測しておくがよい。今後の解析の足しになるやもしれん」
「はぁ……」

 そんなに言うほど殿下の魔力を吸い取ったのかな。いや、エンを見れば予想はつくけれど。
 俺の中でされた火属性を吸収したエンは、劇的なパワーアップを遂げていた。率直に言うなら、手のひらサイズだったその身体が、両手で抱えるほどのサイズになっている。丸っこい体型は変わっていないので、かわいらしいことはかわいらしいが、その体格差に、スイとアンは複雑そうな表情を浮かべている。
 とりあえず、許可は貰えたようなので、俺は所長室を出て、まず研究室に向かう。それぞれが勝手に研究を続けている、いつも通りの風景なんだが、つい、その人影を探してしまった。確保した、と言っていたから、いないと分かっているはずなのに、俺はまだどこかで信じたくないと思っていた。

「エンツォ、ミモさんから魔力量を測定しておくように言われたんだが、ちょっと頼んでもいいかな」
「あぁ、別に構わない」

 俺一人では計測ができないので、一番頼みやすいエンツォに声を掛ける。いつも通りに測定器を引っ張り出し、俺は測定器の水晶に触れる。

「はぁ!?」

 エンツォが測定結果に目を丸くした。そういえば殿下も心配していたっけ。そんなにたくさん吸い取ったのかな。

「ミケーレの身体はどうなってるんだ?」
「どうなってるって、普通だけど……」

 少なくとも普通の人間のはずだ、と思いながら、俺も測定結果を確認する。

「おぉ、随分とぶっちぎってる。改めて殿下ってすごいんだな」

 初めて5桁の数値を見た。余剰魔力だけで5桁とか、本当に殿下の魔力量は半端ない。

「いや、1桁でも5桁でも変わらず平然としてるミケーレも、すごいというか、おかしいからな?」
「ひどいな」

 俺の測定結果をこっそり盗み見していた他の研究員の中からは、「やっぱり次は火の精霊に違いない」なんて声を挙げている人もいる。変に驚かれないようにとエンを含む三人を先に厨房に向かわせておいて良かった。……って、賭けの結果出てるじゃん。ただ、それを喋っていいのかどうかは、一応ミモさんと殿下に確認してからにしよう。
 俺はエンツォに礼を言うと、厨房に向かう。残念なことに、夕食まで時間はあまりない。色々ぶっこんで煮込んだ麺類で何とか凌ごう。
 俺はエン・スイ・アンに手伝ってもらいながら、夕食の支度に集中した。他の余計なことを考えない時間が過ごせるのは、少しだけ、助かった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...