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43.俺、またツンツンされる
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殿下を取り巻く状況をマルチアから聞いた俺に、とある疑問が去来する。
「殿下は、王座に就きたかったりとかするのかな」
「はぁ!?」
思わずこぼした小さな呟きを、アウグスト殿下エンドレス賛美祭を絶賛開催中だったマルチアが拾い上げた。
「アンタ、何を勝手に殿下の心中を慮ろうとしてるわけ!?」
「いや、他人の心情を慮るのは別に悪いことじゃないだろう?」
「アンタごときに殿下の深謀遠慮を察しようなんて、無茶にも程があるわよ! せいぜいペンペン草の一生にでも思いを馳せてなさい!」
なんか、すごい酷いことを言われてる気がするんだけど。え、俺ってそんなに他人のことを思いやれないのか? 鈍感だったりするのか?
「アンタなんかが殿下の考えることを知ろうなんて無理だし無茶だし無謀にも程があるわ。せいぜい自分ができることだけを考えてなさい」
あ、違う。これ、マルチア流の励ましだな。相変わらずツンツンしてわかりにくい。余計なことを考えず、自分のできることから進めていけって忠告だ。
「マルチアは……」
「なによ」
「もうちょっと自分の考えを素直に表現できれば、もっと可愛くなるんだろうに」
「はぁ!?」
はい、二度目の「はぁ!?」いただきました。詰め寄ってくるマルチアの眉間の皺が深いし、何よりこっちに向けられた角が怖い。
「アンタなんかに言われる筋合いはないわよ! もうあいつらも帰ったから、アタシも帰るわ!」
「え。もう帰ったのか?」
「殿下が戻って来たのよ。あの程度の小物、殿下に楯突けるはずもないでしょ」
「お、おぅ……」
相変わらず清々しいほどの殿下至上発言。聞いてるこっちも、なんだかさっぱりする。
「マルチア、ありがとな。厨房についててくれて」
「べ、別に、アンタのためなんかじゃないんだからねっ!」
いつもと変わらずツンツンしてるマルチアを見送り、俺は、大きく息を吐いて壁に寄りかかった。
「なんつーか、無駄に気ぃ張って、疲れたな」
『ママ、大丈夫?』
「あぁ……、って、エン?」
俺は慌ててポケットを覗き込んだ。目を閉じて眠っているようすのスイの隣で、エンが大きく手を振っている。
ポケットからエンを引っ張り出し、手のひらに乗せて、俺はじっとエンを凝視する。
『ママ? 何か変?』
「エン、お前、しゃべるの上手になってないか?」
拙かった口調が、随分と流暢になっている。もたもたと喋る様子は可愛くてささやかな癒しでもあったんだが、まぁ、成長の証だからいいのか?
『ママの中から、力をもらったの。だから、かな?』
こてり、と首を傾げる様は、やっぱり可愛い。そういえば、先日、二人目の火属性の精霊は生じないって話を聞いたばかりだったな。俺の中に溜まってく火属性は、こうしてエンが吸収してくれるってことか。
「うん、ありがとうな」
『ママ、どうしてお礼?』
「だって、エンが俺の中に溜まってく火属性を吸い取ってくれるってことは、またあんな苦しい思いをして吐き出さなくて済むってことだろ?」
すると、何故かエンは考え込むように両腕を組んだ。そして、徐に俺を見上げる。
『ママ、苦しかった?』
「うん?」
『エンが出るとき、苦しかったの?』
エンの問いかけの意図が分かり、俺の中に猛烈な勢いで「うちの精霊は本当にいい子過ぎる!」と叫びたくなる衝動があふれ出す。これはさ、あれだよな。自分が出てくるときのことを謝ろうとか、そういうやつだよな。やばい、涙が出そう。
「苦しかったよ。でも、いいんだ。そのおかげでエンと出会えたわけだろ?」
『でも……』
「気にするな。あー……でも、どうしても気になるっていうなら、今後もそうやって俺の中の属性ってやつを吸い取ってくれるか?」
『うん!』
コクコクと勢いよく頷くエンを、俺はポケットの中のスイを起こさないように気をつけながら、それでもできる限り激しく頬ずりをした。不思議と熱くない。ぽかぽかしている程度のものだ。もちろん、これはエンが俺に危害を加えないように制御しているおかげだ。うん、うちの精霊はやっぱりいい子!
「殿下は、王座に就きたかったりとかするのかな」
「はぁ!?」
思わずこぼした小さな呟きを、アウグスト殿下エンドレス賛美祭を絶賛開催中だったマルチアが拾い上げた。
「アンタ、何を勝手に殿下の心中を慮ろうとしてるわけ!?」
「いや、他人の心情を慮るのは別に悪いことじゃないだろう?」
「アンタごときに殿下の深謀遠慮を察しようなんて、無茶にも程があるわよ! せいぜいペンペン草の一生にでも思いを馳せてなさい!」
なんか、すごい酷いことを言われてる気がするんだけど。え、俺ってそんなに他人のことを思いやれないのか? 鈍感だったりするのか?
「アンタなんかが殿下の考えることを知ろうなんて無理だし無茶だし無謀にも程があるわ。せいぜい自分ができることだけを考えてなさい」
あ、違う。これ、マルチア流の励ましだな。相変わらずツンツンしてわかりにくい。余計なことを考えず、自分のできることから進めていけって忠告だ。
「マルチアは……」
「なによ」
「もうちょっと自分の考えを素直に表現できれば、もっと可愛くなるんだろうに」
「はぁ!?」
はい、二度目の「はぁ!?」いただきました。詰め寄ってくるマルチアの眉間の皺が深いし、何よりこっちに向けられた角が怖い。
「アンタなんかに言われる筋合いはないわよ! もうあいつらも帰ったから、アタシも帰るわ!」
「え。もう帰ったのか?」
「殿下が戻って来たのよ。あの程度の小物、殿下に楯突けるはずもないでしょ」
「お、おぅ……」
相変わらず清々しいほどの殿下至上発言。聞いてるこっちも、なんだかさっぱりする。
「マルチア、ありがとな。厨房についててくれて」
「べ、別に、アンタのためなんかじゃないんだからねっ!」
いつもと変わらずツンツンしてるマルチアを見送り、俺は、大きく息を吐いて壁に寄りかかった。
「なんつーか、無駄に気ぃ張って、疲れたな」
『ママ、大丈夫?』
「あぁ……、って、エン?」
俺は慌ててポケットを覗き込んだ。目を閉じて眠っているようすのスイの隣で、エンが大きく手を振っている。
ポケットからエンを引っ張り出し、手のひらに乗せて、俺はじっとエンを凝視する。
『ママ? 何か変?』
「エン、お前、しゃべるの上手になってないか?」
拙かった口調が、随分と流暢になっている。もたもたと喋る様子は可愛くてささやかな癒しでもあったんだが、まぁ、成長の証だからいいのか?
『ママの中から、力をもらったの。だから、かな?』
こてり、と首を傾げる様は、やっぱり可愛い。そういえば、先日、二人目の火属性の精霊は生じないって話を聞いたばかりだったな。俺の中に溜まってく火属性は、こうしてエンが吸収してくれるってことか。
「うん、ありがとうな」
『ママ、どうしてお礼?』
「だって、エンが俺の中に溜まってく火属性を吸い取ってくれるってことは、またあんな苦しい思いをして吐き出さなくて済むってことだろ?」
すると、何故かエンは考え込むように両腕を組んだ。そして、徐に俺を見上げる。
『ママ、苦しかった?』
「うん?」
『エンが出るとき、苦しかったの?』
エンの問いかけの意図が分かり、俺の中に猛烈な勢いで「うちの精霊は本当にいい子過ぎる!」と叫びたくなる衝動があふれ出す。これはさ、あれだよな。自分が出てくるときのことを謝ろうとか、そういうやつだよな。やばい、涙が出そう。
「苦しかったよ。でも、いいんだ。そのおかげでエンと出会えたわけだろ?」
『でも……』
「気にするな。あー……でも、どうしても気になるっていうなら、今後もそうやって俺の中の属性ってやつを吸い取ってくれるか?」
『うん!』
コクコクと勢いよく頷くエンを、俺はポケットの中のスイを起こさないように気をつけながら、それでもできる限り激しく頬ずりをした。不思議と熱くない。ぽかぽかしている程度のものだ。もちろん、これはエンが俺に危害を加えないように制御しているおかげだ。うん、うちの精霊はやっぱりいい子!
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