人身御供で連れ出された俺が王子の恩人(予定)だって!?

長野 雪

文字の大きさ
上 下
42 / 57

42.俺、内部事情を知る

しおりを挟む
 まだ第一研究所の人達が居座っているのなら、夕食の仕込みをどうしようか……と悩む。さすがにそろそろ手をつけないとマズい時間なんだが。

「だから、アタシが来たのよ」
「うん?」

 どうやら、マルチアはミモさんの指示で俺を探しに来ていたらしい。

「アタシの得意なのは風魔法だから、足音や匂いといった気配を消すのはお手の物なのよ」
「つまり?」
「アンタを厨房に連れて行けって。普通、研究員は他所よその厨房なんて入らないし、安全だろうから」

 マルチアの説明によれば、無属性の魔晶石を手に入れるために、研究員のプライベートスペース――つまり、この寮にも入りかねない勢いだということだ。なんとはた迷惑な。
 俺はマルチアに手を引かれ、厨房へと歩く。俺とマルチアの周囲に風の結界とやらが張られているらしいが、まったく分からない。

「あと、精霊はできるだけ使わないで隠しておいて」
「理由を聞いてもいいか?」
「精霊がいることがバレても厄介だから。力を使うとバレる確率が上がるの。言っておくけど、奴らにとっちゃ、精霊も魔晶石と同じだから」

 誰かと契約していようがお構いなしに持っていかれるわよ、と忠告され、俺はちらりと胸ポケットの中を窺った。エンとスイが少し怯えたようすでコクコクと頷いているところを見ると、二人も危機感を感じているらしい。
 本当は今日もエンとスイに夕食の支度を協力してもらおうと思っていたんだが、無理そうだな。まぁ、自力でできないことはないので、久々に自分一人でこなすのも悪くない。

 厨房に無事到着した俺は、エンとスイにポケットの中にいるよう言い含めてから、気合いを入れるように腕まくりをした。

§  §  §

「なるほど。勉強になるな。さすがマルチア」
「ちょっと、『さすが』ってアタシを何だと思ってたのよ!」

 夕食の片付けと朝食の仕込みをする俺の隣にいるのは、本人曰く「貧乏くじを引いた」マルチアだ。
 どうやら粘り強いのが二人ほど研究室に居座っているらしく、俺は万が一にも存在を知られないようにとマルチアによって護衛されている。護衛と言っても、相手がこっちに来そうな気配を察知したら逃げたり隠れたりするだけだが。
 で、単に座っているだけで暇そうだったので――片付けの手伝いは断られたので――アウグスト殿下を取り巻く情勢についてちょろっと尋ねてみたら、すごくわかりやすく説明してくれた。正直、意外だった。もっとこう、殿下愛に溢れて身のない説明が続くんだと思ってたのに、簡潔にまとめて教えてくれたんだよ。ほんと、びっくりだ。

「だから、殿下としては、成功し過ぎてもいけないけど、かといって足下をすくわれてもいけないのよ」

 その絶妙な加減をしているからこそすごいんだと、マルチアの殿下賛美が始まる。なるほど、最初に重要なことを言って、後から絶賛するパターンだったか。俺は心の耳栓をした。

――――マルチアの話をまとめると、後継者は第一王子と確定したわけではないらしく、まだアウグスト殿下が次期王位――いや、次期魔王と言った方がいいのか――につく可能性はあるようで、権力トップにしがみつきたい方々の暗躍とか根回しとか色々あるらしい。殿下と第一王子の仲は悪くないらしいが、何しろそれぞれの支援者が二人を近付かせたがらないので、そこはマルチアにもよく分からないんだとか。
 それで、第一王子をトップに頂く第一研究所は一方的に第二研究所を敵視するだけでなく、自分たちより格下だと勝手に位置づけてあれこれ高圧的にやらかすんだとか。そこには万が一第二研究所が成果を上げれば、相対的に第一研究所の評価が下がり、連鎖的に第一王子の評価も下がるという考えもあるんだろう。
 あとは、アウグスト殿下が最近、過剰魔力の副作用もなく元気なことも、第一王子の陣営を焦らせているらしい。副作用を理由の1つに挙げて、トップに相応しくないと言っていたらしいからな。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...