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35.俺、演技する
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シンシアの作った首輪のおかげで魔族っぽい外見に見えるようになった俺は、第一研究所の人が来ようが逃げ隠れする必要がなくなりましたとさ(※前回のあらすじ)。
「へっへっへっ……」
『ママ?』
おっと、エンを怯えさせてしまった。悪い悪い。
俺は目の前の上等な肉を前に、ニヤニヤが止まらない。これまで散々ここの食材を我が物顔で荒らしていった第一研究所のコックに仕返しができるかと思うと、そりゃもう……
『ママ、かお、わるい』
うん、たぶん人相が悪いと言いたいんだろうけど、エンの拙いしゃべり方は、たまに俺の心を抉るな。
「しばらくエンに手伝ってもらうことはないから、ここで休んでな」
『はーい』
俺の胸ポケットに入ってごそごそするエンに癒されながら、俺は再び手を動かす。
ここまで来るのに、どれだけの辛酸を嘗めたことか。第一研究所のコックの顔を思い出せば、そりゃもう殺意しか湧かない。こっちがしっかり食材の在庫管理をしてるっていうのに、勝手に持ってくし勝手に置いてくという横暴ぶり。苦情を言っても「次期魔王の管理する第一研究所の命令に逆らうつもりか」と虎の威を借る狐っぷり。さらにうちの食材注文書を書き換えて高額食材を第二研究所の予算で買わせるとかいう離れ業には、長年お邸で虐げられていた俺も顎が外れるかと思った。わけわかんねー。
なお、ミモさんの指示によって、コックがうちの氷室に出入りする様子は魔道具で記録されているし、注文書の改竄についても誰から連絡があって注文内容をどう変更したのか納品業者にウラを取ってるし、食材を勝手に持ち出したり放置することに苦情を入れた際の反論も録音されている。ちょっとミモさんが怖かったのはナイショだ。まぁ、ミモさんもご立腹なんだろう。ようやく殿下の「そろそろやってよし」のゴーサインが出たので、地道な証拠集めも報われるというもんだ。俺が来る前から証拠集めはやってたみたいだし。
「はっはっはーっ! 第一研究所のコック様なんだから、この調理法ぐらい知ってるだろうな?」
俺がやっているのは、勝手に第二研究所の予算で買わされた高級肉をとある葉っぱで包む作業だ。この葉で包んで置いておけば、どんな固く筋張った肉でもとろとろになるのだ。もちろん、ちょっと難点もあるが、対処法を知っていれば大した問題じゃない。
「どっちかっつーと、庶民の知恵的な調理法なんだけどなー? まぁ、天下の第一研究所のコック様だし? 知らないはずはないよなー?」
食材の納品時にこの肉の存在を確認し、速攻でミモさんに許可を取り、仕返しのこの下準備に至っている。いつ第一研究所のコックが取りに来るか分からないので、結構、時間勝負かもしれない。
包み終えた肉を氷室に戻し、俺は本日の昼食の下準備に取りかかる。今日はちょっと冷え込んでいるから温かい麺類だ。麺はもう寝かせてあるから、具沢山の汁を作るだけと簡単なものだ。
無心で根菜を乱切りにしていると、どすどすと聞き覚えのある足音が近づいて来るのに気付いた。
「おい! こっちに発注ミスの肉があるだろう! うちで使ってやるから、すぐに出せ!」
はい来ましたー。第一研究所のコック様、名前は忘れた。アンタどんだけ味見好きなん?って感じの丸い体型の魔族だ。
そもそもね、どうして発注ミスの肉があるって知ってるのか、っていうのは、もうツッコむ気力もないよ。どうせ隠す気もないんだろうし。
だが、今日の俺は演技派だ。
「発注ミスの肉ですか? それならもう、割り切って使ってしまおうと思って、下拵えを終えたところです」
「なんだと! 貴様、何を余計なことをしとるんだ!」
「えぇ……!? 余計な、と言われましても、発注ミスとはいえ届いてしまったものですから、使わなければ勿体ないでしょう?」
なお、以前「発注ミス」で届いた品を返品したところ、こいつが謎のゴネ方をして、最終的に何故かうちの氷室からごっそり食料を持ち出される、という悲劇があったらしいので、返品という選択肢は既にない。
「ふざけるな! いいからすぐに出せ!」
「は、はい」
俺の役どころは、気弱な料理人だ。これまでも、目に見えるような反論や抵抗はしていないので、きっとそう思い込んでいるに違いない……というのはミモさんの言だ。
さて、『下拵え』の済んだ肉を見て、こいつはどう反応するかな?
「へっへっへっ……」
『ママ?』
おっと、エンを怯えさせてしまった。悪い悪い。
俺は目の前の上等な肉を前に、ニヤニヤが止まらない。これまで散々ここの食材を我が物顔で荒らしていった第一研究所のコックに仕返しができるかと思うと、そりゃもう……
『ママ、かお、わるい』
うん、たぶん人相が悪いと言いたいんだろうけど、エンの拙いしゃべり方は、たまに俺の心を抉るな。
「しばらくエンに手伝ってもらうことはないから、ここで休んでな」
『はーい』
俺の胸ポケットに入ってごそごそするエンに癒されながら、俺は再び手を動かす。
ここまで来るのに、どれだけの辛酸を嘗めたことか。第一研究所のコックの顔を思い出せば、そりゃもう殺意しか湧かない。こっちがしっかり食材の在庫管理をしてるっていうのに、勝手に持ってくし勝手に置いてくという横暴ぶり。苦情を言っても「次期魔王の管理する第一研究所の命令に逆らうつもりか」と虎の威を借る狐っぷり。さらにうちの食材注文書を書き換えて高額食材を第二研究所の予算で買わせるとかいう離れ業には、長年お邸で虐げられていた俺も顎が外れるかと思った。わけわかんねー。
なお、ミモさんの指示によって、コックがうちの氷室に出入りする様子は魔道具で記録されているし、注文書の改竄についても誰から連絡があって注文内容をどう変更したのか納品業者にウラを取ってるし、食材を勝手に持ち出したり放置することに苦情を入れた際の反論も録音されている。ちょっとミモさんが怖かったのはナイショだ。まぁ、ミモさんもご立腹なんだろう。ようやく殿下の「そろそろやってよし」のゴーサインが出たので、地道な証拠集めも報われるというもんだ。俺が来る前から証拠集めはやってたみたいだし。
「はっはっはーっ! 第一研究所のコック様なんだから、この調理法ぐらい知ってるだろうな?」
俺がやっているのは、勝手に第二研究所の予算で買わされた高級肉をとある葉っぱで包む作業だ。この葉で包んで置いておけば、どんな固く筋張った肉でもとろとろになるのだ。もちろん、ちょっと難点もあるが、対処法を知っていれば大した問題じゃない。
「どっちかっつーと、庶民の知恵的な調理法なんだけどなー? まぁ、天下の第一研究所のコック様だし? 知らないはずはないよなー?」
食材の納品時にこの肉の存在を確認し、速攻でミモさんに許可を取り、仕返しのこの下準備に至っている。いつ第一研究所のコックが取りに来るか分からないので、結構、時間勝負かもしれない。
包み終えた肉を氷室に戻し、俺は本日の昼食の下準備に取りかかる。今日はちょっと冷え込んでいるから温かい麺類だ。麺はもう寝かせてあるから、具沢山の汁を作るだけと簡単なものだ。
無心で根菜を乱切りにしていると、どすどすと聞き覚えのある足音が近づいて来るのに気付いた。
「おい! こっちに発注ミスの肉があるだろう! うちで使ってやるから、すぐに出せ!」
はい来ましたー。第一研究所のコック様、名前は忘れた。アンタどんだけ味見好きなん?って感じの丸い体型の魔族だ。
そもそもね、どうして発注ミスの肉があるって知ってるのか、っていうのは、もうツッコむ気力もないよ。どうせ隠す気もないんだろうし。
だが、今日の俺は演技派だ。
「発注ミスの肉ですか? それならもう、割り切って使ってしまおうと思って、下拵えを終えたところです」
「なんだと! 貴様、何を余計なことをしとるんだ!」
「えぇ……!? 余計な、と言われましても、発注ミスとはいえ届いてしまったものですから、使わなければ勿体ないでしょう?」
なお、以前「発注ミス」で届いた品を返品したところ、こいつが謎のゴネ方をして、最終的に何故かうちの氷室からごっそり食料を持ち出される、という悲劇があったらしいので、返品という選択肢は既にない。
「ふざけるな! いいからすぐに出せ!」
「は、はい」
俺の役どころは、気弱な料理人だ。これまでも、目に見えるような反論や抵抗はしていないので、きっとそう思い込んでいるに違いない……というのはミモさんの言だ。
さて、『下拵え』の済んだ肉を見て、こいつはどう反応するかな?
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