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31.俺、ママになる
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「帰れない。お前は既に顕現している」
久々に聞いたミモさんの声に、俺の体中に鳥肌が立った。自分に向けられた声じゃないと分かっていても、すごくぞわぞわする。
『ケン、ゲン……?』
「お前はもう外界に生まれたのだ。そこに戻ることはできない」
『モドレ、ナイ?』
人型が俺を見上げてぷるぷるしている。よくよく見れば、頭でっかちの二頭身の体型は、なんだか可愛らしい。見た目に反して熱くないし。
「そうだ。単独で自由に動けることと引き換えに、お前は戻れなくなった」
『……』
なんか、こいつ、泣いてないか? 大丈夫か?
迷子のように途方に暮れた様子の人型を、俺は思わず頭を撫でた。
「すげぇ、触れるんだ」
「っていうか、宥めてる?」
「人間って鈍感なのかな」
「いや、ミケから生まれたからじゃないのか? ということは、ミケがママ!」
「なるほど、ママか!」
周囲の囁きあう声が、だんだん不穏な方向に向かってる。待て、色々待て。俺はママじゃないし、そもそも俺から生まれたってなんなんだ。
『ママ?』
「ぐふぉっ!」
あーこら! とうとうこの人型が真似しちまったじゃないか! どうするんだよ!
「そうだな、ミケーレから飛び出たのは間違いない。ママと呼んでおけ」
『ママ! ママ!』
ミモさんの承認により、ママ認定された俺は、がっくりと項垂れた。親って認定されるなら、せめてパパが良かったよ。
§ § §
「で、結局、これ、なんなんですか」
周囲の目があるとやりにくい、という理由で、主のいない執務室に連れて来られた俺は、目の前に座ったミモさんに尋ねた。
『なんなんですかじゃねぇよ。これは立派な火の精霊だぜ?』
「火の精霊?」
確かに燃えているが、全然熱くなかったぞ?
ちなみに今は、無属性の魔晶石を小さな腕で抱えて座っている。……俺の膝の上で。
『詳しいことはこれから調査してみねぇと、さっぱりだぜ。ま、お前が希有な人間ってことだけはバッチリだがな!』
ネズミ氏はそのちっちゃい手で俺を指差す。俺は思わずミモさんに視線を移したが、ミモさんもしっかりと頷いた。そうだよな。ネズミ氏はミモさんの代弁者だもんな。否定して欲しかったよ……。
「とりあえず、こいつをどうすれば?」
『ポケットにでも入れて持ち歩くしかねぇな。何しろ懐いてるんだからよ』
「精霊って、人に懐くものなのか?」
『滅多にないな。普通は何らかの代償と引き換えに使役契約を結ぶもんなんだぜ?』
ネズミ氏が詳しく説明してくれたことによると、精霊と契約するためには、その精霊が気に入ってくれることと、精霊の望む代償が必要らしい。精霊が気に入るかどうかは、本当に相性の問題らしく、そのメカニズムは解明されていないんだとか。求める代償も、契約内容や精霊次第で変わるらしく、規則性がないらしい。
単純な話、精霊がすごく気に入った相手なら、毎日クッキーを焼いてくれるだけで一生一緒にいてくれる、的なメルヘンな関係もあれば、術者の腕一本を代償に大魔法の手伝いをする、という殺伐な関係もあるらしい。っていうか、腕一本もらって使い道あるんだろうか。
『ってわけで、そもそも生まれるところに立ち会うのも希有なことなら、そこまで懐かれるのも珍しいってこった』
「うーん? 分かったような、分からないような」
ちなみに火の精霊は、無属性の魔晶石を抱えたまま、眠ってしまったようだ。っていうか、精霊って眠るんだ?
『生まれたてだから、外界に慣れてねぇんだろうぜ。ま、魔晶石と一緒にポケットにでも入れとけ』
「え、ポケットが燃えないか?」
『触っても熱くなかったんだろ? ちゃんと燃やす対象は制御できてるみたいだから、大丈夫だろ』
なんともふわっとした「大丈夫」だが、ネズミ氏――というよりミモさんがそう判断するのなら、大丈夫なんだろう。
『くれぐれもここの研究員以外の目に触れさせるなよ?』
「それだけ面倒なことって、いうことか?」
ミモさんが重々しく頷くのに、俺はがっくりと項垂れた。なんつーか、俺の人生急転直下が多すぎて困る。ここへ連れて来られたときも、あれよあれよという間だったし、ようやく自分の居場所を確保できたと思ったら、また問題発生。どうなってるんだよ。
久々に聞いたミモさんの声に、俺の体中に鳥肌が立った。自分に向けられた声じゃないと分かっていても、すごくぞわぞわする。
『ケン、ゲン……?』
「お前はもう外界に生まれたのだ。そこに戻ることはできない」
『モドレ、ナイ?』
人型が俺を見上げてぷるぷるしている。よくよく見れば、頭でっかちの二頭身の体型は、なんだか可愛らしい。見た目に反して熱くないし。
「そうだ。単独で自由に動けることと引き換えに、お前は戻れなくなった」
『……』
なんか、こいつ、泣いてないか? 大丈夫か?
迷子のように途方に暮れた様子の人型を、俺は思わず頭を撫でた。
「すげぇ、触れるんだ」
「っていうか、宥めてる?」
「人間って鈍感なのかな」
「いや、ミケから生まれたからじゃないのか? ということは、ミケがママ!」
「なるほど、ママか!」
周囲の囁きあう声が、だんだん不穏な方向に向かってる。待て、色々待て。俺はママじゃないし、そもそも俺から生まれたってなんなんだ。
『ママ?』
「ぐふぉっ!」
あーこら! とうとうこの人型が真似しちまったじゃないか! どうするんだよ!
「そうだな、ミケーレから飛び出たのは間違いない。ママと呼んでおけ」
『ママ! ママ!』
ミモさんの承認により、ママ認定された俺は、がっくりと項垂れた。親って認定されるなら、せめてパパが良かったよ。
§ § §
「で、結局、これ、なんなんですか」
周囲の目があるとやりにくい、という理由で、主のいない執務室に連れて来られた俺は、目の前に座ったミモさんに尋ねた。
『なんなんですかじゃねぇよ。これは立派な火の精霊だぜ?』
「火の精霊?」
確かに燃えているが、全然熱くなかったぞ?
ちなみに今は、無属性の魔晶石を小さな腕で抱えて座っている。……俺の膝の上で。
『詳しいことはこれから調査してみねぇと、さっぱりだぜ。ま、お前が希有な人間ってことだけはバッチリだがな!』
ネズミ氏はそのちっちゃい手で俺を指差す。俺は思わずミモさんに視線を移したが、ミモさんもしっかりと頷いた。そうだよな。ネズミ氏はミモさんの代弁者だもんな。否定して欲しかったよ……。
「とりあえず、こいつをどうすれば?」
『ポケットにでも入れて持ち歩くしかねぇな。何しろ懐いてるんだからよ』
「精霊って、人に懐くものなのか?」
『滅多にないな。普通は何らかの代償と引き換えに使役契約を結ぶもんなんだぜ?』
ネズミ氏が詳しく説明してくれたことによると、精霊と契約するためには、その精霊が気に入ってくれることと、精霊の望む代償が必要らしい。精霊が気に入るかどうかは、本当に相性の問題らしく、そのメカニズムは解明されていないんだとか。求める代償も、契約内容や精霊次第で変わるらしく、規則性がないらしい。
単純な話、精霊がすごく気に入った相手なら、毎日クッキーを焼いてくれるだけで一生一緒にいてくれる、的なメルヘンな関係もあれば、術者の腕一本を代償に大魔法の手伝いをする、という殺伐な関係もあるらしい。っていうか、腕一本もらって使い道あるんだろうか。
『ってわけで、そもそも生まれるところに立ち会うのも希有なことなら、そこまで懐かれるのも珍しいってこった』
「うーん? 分かったような、分からないような」
ちなみに火の精霊は、無属性の魔晶石を抱えたまま、眠ってしまったようだ。っていうか、精霊って眠るんだ?
『生まれたてだから、外界に慣れてねぇんだろうぜ。ま、魔晶石と一緒にポケットにでも入れとけ』
「え、ポケットが燃えないか?」
『触っても熱くなかったんだろ? ちゃんと燃やす対象は制御できてるみたいだから、大丈夫だろ』
なんともふわっとした「大丈夫」だが、ネズミ氏――というよりミモさんがそう判断するのなら、大丈夫なんだろう。
『くれぐれもここの研究員以外の目に触れさせるなよ?』
「それだけ面倒なことって、いうことか?」
ミモさんが重々しく頷くのに、俺はがっくりと項垂れた。なんつーか、俺の人生急転直下が多すぎて困る。ここへ連れて来られたときも、あれよあれよという間だったし、ようやく自分の居場所を確保できたと思ったら、また問題発生。どうなってるんだよ。
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