人身御供で連れ出された俺が王子の恩人(予定)だって!?

長野 雪

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30.俺、なんか吐き出す

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「どうしたんだねぃ?」
「いや……、なんか」

 胸のあたりがなんだかムカムカする。なんだか熱いような冷たいような、変な塊が胸の辺りで渦を巻いているようだ。

「ぐっ……!?」

 俺は立っていられずに膝をついた。慌てるシャラウィの声が聞こえるが、それに応える余裕もない。
 なんだこれ。俺、なんか悪いものでも食べたか? いや、いつも通りだし、悪いものを食ったとしたら、同じものを食べた研究員だって……もしかして、魔族は大丈夫でも、人間には毒とかいう食材があったのか? いや、そんな見覚えのない食材はなかった。っていうか、超!気持ち悪い! ってか吐きそう。

「ミケーレ!?」

 これはエンツォさんの声か? 身体を支えてくれてるのは誰だ? 背中をさすってくれているのは……?

「ぐ、お、おっ」

 やばい、もしかして、俺、死ぬ? こんなところで? っていうか、俺が死んだら、殿下はどうなるんだ? せっかく――――

「おげぇぇぇぇっっ!」

 胸から喉にこみ上げてきたものを、必死に上へ押し上げる。とにかく吐いてしまえ。研究所の中だけど、始末のことは後で考えればいい。とにかく、このせり上がってきた塊をなんとかしないと。

「おぼぉっ」

 自分のものとは思えない声が出た。喉の奥から、何かが出ていったのは分かる。っていうか、すっきりした。うまく吐き出せたらしい。

「あー、スッキリした。……って、あれ?」

 俺を心配してくれたのだろう研究員たちが、俺の周囲に集まっていた。ただ、その全員が俺ではなく、俺の足下を凝視している。ガン見だ。
 そういえば俺は何を吐き出したんだろう、と足下に目をやり、目を見開いた。

「は!?」

 真っ赤な球が転がっている。外側が濡れているように見えるのは、俺の唾か? いや、そんなことはどうでもいいんだが。……ナニコレ?
 俺や研究員たちが、見守る中、その球はぷるぷると震え、ポンッと音を立てて変化した。真っ赤に燃える炎に包まれた人型の何かは、拳大の大きさはそのままに、周囲をきょろきょろと見回すような仕草をした。そして、何故か一直線に俺の口めがけてジャンプしてくる!

「おぉっと!」

 思わず避けた俺は悪くない。だって火傷とか嫌だ。なのに、その炎の人型は諦めずに俺の口に飛び込もうと方向転換する。火傷覚悟で俺は自分の口の前に手をかざして塞ぎ――――

「あ、あれ……? 熱くない……?」

 思わず掴んでしまった炎の人型は、全く熱さなんて感じさせなかった。というか、掴んだ手の感触もなんか頼りなくて、目で見ていなければ、ちゃんと掴んでいるかどうかも分からないぐらいあやふやだった。

「え、と、これ、どうすれば……?」
『ハナセ! カエル! モトノ、バショ!』

 俺の手の中の人型がじたばたと叫ぶ。ってか、こいつ喋れるんじゃん。

「精霊……?」
「まさか、生まれたて?」
「生んだっていうのか? 人間が?」

 え、何その目。ちょっと研究員たち皆の目が怖いんだけど。

『ミケっち、それがなんだか分かってるのか?』
「いや、さっぱり分からないんだけど」

 俺の答えに、ネズミ氏を肩に乗せたミモさんが、すごく険しい顔をした。

『それは精霊だ。おそらくは火の精霊。お前、そんなものをどこで食べたんだよ』
「いや、食べてないし! っていうか、精霊ってそもそも食べられるのかよ!」

 俺の反論に、手の中の人型(精霊?)がびくっと身体を震わせたような気がする。まぁ、自分のことを食べる食べないと言われれば、そりゃ怯えるわな。

『タベル、ナイ!』
「あー、分かってる。食べないって」
『カエル! ソコ!』

 人型は、何故か俺の口を指差して「帰る」と言い張る。いや、食べないって言ったじゃん。
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