26 / 57
26.俺、備品扱いされる
しおりを挟む
罰ゲームのように殿下と一緒に寝ること数日、いつの間にか俺についてのルールが研究員の間で定められていたらしい。
『1、殿下の魔力で作った魔晶石は順番に従って支給される
2、追加で魔晶石が欲しい場合は、自分の魔力を渡した上で魔晶石を作り、それを使用する(他研究グループ1名以上の立ち会い必須)』
正しくは俺についてのルールというよりも、俺が作る魔晶石についてのルールだ。普通、魔晶石を作ると作成者の持つ属性を含む魔晶石が作られるが、どの属性も持たない魔晶石というのは使い勝手の良いものらしく、引く手あまたらしい。俺がじゃなくて、俺が作る魔晶石が。
詳しい説明を聞けば納得する話だ。以前、シンシアが口にしていた『魔力反発』の件と同じだ。生物から空気中に漏れた余剰魔力が属性の相性によっては大爆発を起こすことがあるらしい。研究所は保有魔力の多い者ばかりなので、余計にその危険度は増す。普通はしっかり魔力制御できているから問題ないそうだが、口論など感情の高ぶりで制御が甘くなると、やっぱり漏れてしまうものらしい。
研究所の危険度の話は置いておいて、要は研究員がおのおの進めている研究の中でも、同じく属性がネックになっているものがかなりあるらしい。例えば、水を浄化する仕組みを試行錯誤している研究員の魔力が火に偏っていた場合、どうしてもその属性が邪魔をして研究が進まない。かといって、試行のたびに水属性の他人の手を借りるのも煩わしい。そんなところに俺が作る無属性の魔晶石があれば、万事解決というわけだ。
(俺、どう考えても濾過装置だよな……)
実験動物よりは昇格したと喜ぶべきか、それとも完全に研究所の備品になったことを嘆くべきか、どっちだろうか。
それでも悲観的にならないのは、厨房を預かるという仕事があることと、殿下の件がある限り身体の安全が保障される確信があるからか。
「ミケー、またよろしくー!」
追加の魔晶石が欲しくて声を掛けてくる研究員はだいたい決まっている。その一人がこのシンシアだ。ちなみに今日の爪の色は黄緑。
「毎日塗り分けるのは、大変じゃないのか?」
「ん? あぁ、これー? 萌葱色でさわやかっしょ?」
うっかり黄緑色とか言わなくて良かったと、内心で胸をなで下ろす。お屋敷のメイドたちにも共通するが、俺にとっては些細な違いでも、彼女たちにとっては大きな違いらしいのだ。服の色とかレース模様だとか、うかつなことを口走れば、彼女たちの怒りゲージはあっという間にMAXになる。恐ろしい。
「そうだな。シンシアは爪の先まで気を遣っているんだな」
「分かってるじゃーん。ってことで、魔晶石よろしく!」
研究室の隅に放置されていた戸棚を拭いていた俺は、容赦なく測定器の方へと引きずられる。この「引きずられる」というのは比喩じゃない。魔族だからなのか、シンシアは力が強いんだ。
「じゃ、シャラウィ、確認よろ!」
「了解なんだねぃ」
もはや慣れたこのパターン。シンシアに顎で使われるシャラウィは俺の魔力を測る。そしてシンシアに魔力を注がれて、再び魔力を測る。その差分だけ魔晶石を作るってわけだ。
「……なぁ、疑問に思ったんだが」
「何?」
「シンシアは研究のために無属性の魔晶石を使ってるけど、それだと最終的にできあがるのって、無属性の魔晶石が前提のものにならないのか?」
俺の疑問に何か問題があったのか、シンシアはシャラウィを見た。
「そ、それは……」
「あー……、これは予想外だねぃ」
「ちょっとシャーくん?」
シンシアは肩をすくめたシャラウィを睨むように見ている。
「方向性に問題ないかどうかの基礎実験に使うならともかく、実用化を目指す段階で乱用するのはあまりよくないんだねぃ。そこはミケーレの指摘通りなんだねぃ」
「な、なんだってシャーくんがそんなこと言うのよ!」
おや、これはもしかして、シンシアより年下のシャラウィの方が優秀とかそういうフラグか?
ちょっと俺はわくわくしながら成り行きを見守ることにした。
『1、殿下の魔力で作った魔晶石は順番に従って支給される
2、追加で魔晶石が欲しい場合は、自分の魔力を渡した上で魔晶石を作り、それを使用する(他研究グループ1名以上の立ち会い必須)』
正しくは俺についてのルールというよりも、俺が作る魔晶石についてのルールだ。普通、魔晶石を作ると作成者の持つ属性を含む魔晶石が作られるが、どの属性も持たない魔晶石というのは使い勝手の良いものらしく、引く手あまたらしい。俺がじゃなくて、俺が作る魔晶石が。
詳しい説明を聞けば納得する話だ。以前、シンシアが口にしていた『魔力反発』の件と同じだ。生物から空気中に漏れた余剰魔力が属性の相性によっては大爆発を起こすことがあるらしい。研究所は保有魔力の多い者ばかりなので、余計にその危険度は増す。普通はしっかり魔力制御できているから問題ないそうだが、口論など感情の高ぶりで制御が甘くなると、やっぱり漏れてしまうものらしい。
研究所の危険度の話は置いておいて、要は研究員がおのおの進めている研究の中でも、同じく属性がネックになっているものがかなりあるらしい。例えば、水を浄化する仕組みを試行錯誤している研究員の魔力が火に偏っていた場合、どうしてもその属性が邪魔をして研究が進まない。かといって、試行のたびに水属性の他人の手を借りるのも煩わしい。そんなところに俺が作る無属性の魔晶石があれば、万事解決というわけだ。
(俺、どう考えても濾過装置だよな……)
実験動物よりは昇格したと喜ぶべきか、それとも完全に研究所の備品になったことを嘆くべきか、どっちだろうか。
それでも悲観的にならないのは、厨房を預かるという仕事があることと、殿下の件がある限り身体の安全が保障される確信があるからか。
「ミケー、またよろしくー!」
追加の魔晶石が欲しくて声を掛けてくる研究員はだいたい決まっている。その一人がこのシンシアだ。ちなみに今日の爪の色は黄緑。
「毎日塗り分けるのは、大変じゃないのか?」
「ん? あぁ、これー? 萌葱色でさわやかっしょ?」
うっかり黄緑色とか言わなくて良かったと、内心で胸をなで下ろす。お屋敷のメイドたちにも共通するが、俺にとっては些細な違いでも、彼女たちにとっては大きな違いらしいのだ。服の色とかレース模様だとか、うかつなことを口走れば、彼女たちの怒りゲージはあっという間にMAXになる。恐ろしい。
「そうだな。シンシアは爪の先まで気を遣っているんだな」
「分かってるじゃーん。ってことで、魔晶石よろしく!」
研究室の隅に放置されていた戸棚を拭いていた俺は、容赦なく測定器の方へと引きずられる。この「引きずられる」というのは比喩じゃない。魔族だからなのか、シンシアは力が強いんだ。
「じゃ、シャラウィ、確認よろ!」
「了解なんだねぃ」
もはや慣れたこのパターン。シンシアに顎で使われるシャラウィは俺の魔力を測る。そしてシンシアに魔力を注がれて、再び魔力を測る。その差分だけ魔晶石を作るってわけだ。
「……なぁ、疑問に思ったんだが」
「何?」
「シンシアは研究のために無属性の魔晶石を使ってるけど、それだと最終的にできあがるのって、無属性の魔晶石が前提のものにならないのか?」
俺の疑問に何か問題があったのか、シンシアはシャラウィを見た。
「そ、それは……」
「あー……、これは予想外だねぃ」
「ちょっとシャーくん?」
シンシアは肩をすくめたシャラウィを睨むように見ている。
「方向性に問題ないかどうかの基礎実験に使うならともかく、実用化を目指す段階で乱用するのはあまりよくないんだねぃ。そこはミケーレの指摘通りなんだねぃ」
「な、なんだってシャーくんがそんなこと言うのよ!」
おや、これはもしかして、シンシアより年下のシャラウィの方が優秀とかそういうフラグか?
ちょっと俺はわくわくしながら成り行きを見守ることにした。
0
お気に入りに追加
145
あなたにおすすめの小説
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる