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25.俺、掃除機扱いされる
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罰ゲームの一夜をなんとか乗り越えて、俺はなんともいえない気分で研究室の方へ向かう。殿下はまだ寝ていたので、そーっとそーっと抜け出してきた。相手が異性であれば、もっと甘酸っぱいような気持ちでいられたんだろうけどなぁ。本当にそれだけが残念でならない。殿下の固い胸板や鍛え上げられた二の腕では、本当に罰ゲームにしかならない。
研究室に入ると、早めの時間にも関わらず、エンツォとミモさんがスタンバイしていた上に、しっかり起きていたマルチアに睨まれた。また殿下の仮眠室を使って、とかそんな気持ちなんだろう。不可抗力だって分かってるはずなのに、ひどい。
「さっそく計測するぞ」
「はい」
何度もやっていれば、慣れたもんだ。俺は水晶に手を置く。すると、結果を見たエンツォとミモさんが目を大きく見開いた。
「えっと……?」
何度も俺の計測結果を見ているはずなのに、エンツォさんが絶句するというのは、よほどなんだろう。
エンツォさんは、ミモさんと目で会話し、互いにうなずき合った。
「ミケーレ」
「はい」
「後で殿下にも説明して協力を願うが、殿下の都合がつく限りは、昨晩と同じな」
「え゛」
それはつまり、あのいたたまれない一夜をまた過ごせと……。
『お前っちの掃除機っぷりは見事なもんってことだ。あとは殿下の計測で、ちゃんと余剰分が吸い取れてるってことが分かりゃ万々歳ってもんよ』
ミモさんの肩にいるネズミ氏は俺を褒めているのかいないのか。掃除機って、埃を吸い込むあの魔道具のことだよな。すごい便利だったけど、ちょっと音が大きかったんだよ。俺、そんなに騒がしくないよな?
「オレも計測するのであろう?」
研究室に入ってきたその姿に、研究員たちがどよめいた。慌てて身だしなみを整える者、寝起きの姿を見られまいと陰に隠れる者、逆にその姿を近くで見ようと駆け寄る者……さすが殿下、慕われてる、と思っていいんだよな?
「なぜオレを起こさなかった」
「いや、ちょっと早いかなって思ったんですよ。俺はこの後、朝食の準備があるんで」
「別に構わぬ。計測に時間差を作らない方が大事であろう」
殿下の計測結果に、ミモさんは頷いた。
『身体の調子はいかがですか』
「特に問題はないな。ここしばらく処置をしていない割に弊害も出ていない」
『それは重畳』
俺はできるだけ顔に出さないよう努めながら驚いていた。あのネズミ氏が、すごく丁寧な言葉遣いをしている!
『不調があればすぐご連絡ください』
「それよりも、測定結果はどうだったのだ」
『予想の範囲内です。やはり、殿下の有り余る魔力を吸い取っていることは間違いありません』
「そうか」
そのやりとりを眺めながら、俺はこそっとエンツォに厨房に行っていいかと声を掛ける。エンツォは俺の方に違和感などないか確認すると、魔力量の半分ほどを魔晶石に換えてからなら、とOKを出してくれた。
俺としては、研究が少しなりとも前進したようで、それを祝いたい気持ちもあるんだが、それが殿下との同衾を継続するとなると、ちょっと素直に歓迎できない。
(殿下が仕事とかでこっちに戻ってこれないといいんだが)
実験動物の俺には拒否権はなさそうだからな。
研究室に入ると、早めの時間にも関わらず、エンツォとミモさんがスタンバイしていた上に、しっかり起きていたマルチアに睨まれた。また殿下の仮眠室を使って、とかそんな気持ちなんだろう。不可抗力だって分かってるはずなのに、ひどい。
「さっそく計測するぞ」
「はい」
何度もやっていれば、慣れたもんだ。俺は水晶に手を置く。すると、結果を見たエンツォとミモさんが目を大きく見開いた。
「えっと……?」
何度も俺の計測結果を見ているはずなのに、エンツォさんが絶句するというのは、よほどなんだろう。
エンツォさんは、ミモさんと目で会話し、互いにうなずき合った。
「ミケーレ」
「はい」
「後で殿下にも説明して協力を願うが、殿下の都合がつく限りは、昨晩と同じな」
「え゛」
それはつまり、あのいたたまれない一夜をまた過ごせと……。
『お前っちの掃除機っぷりは見事なもんってことだ。あとは殿下の計測で、ちゃんと余剰分が吸い取れてるってことが分かりゃ万々歳ってもんよ』
ミモさんの肩にいるネズミ氏は俺を褒めているのかいないのか。掃除機って、埃を吸い込むあの魔道具のことだよな。すごい便利だったけど、ちょっと音が大きかったんだよ。俺、そんなに騒がしくないよな?
「オレも計測するのであろう?」
研究室に入ってきたその姿に、研究員たちがどよめいた。慌てて身だしなみを整える者、寝起きの姿を見られまいと陰に隠れる者、逆にその姿を近くで見ようと駆け寄る者……さすが殿下、慕われてる、と思っていいんだよな?
「なぜオレを起こさなかった」
「いや、ちょっと早いかなって思ったんですよ。俺はこの後、朝食の準備があるんで」
「別に構わぬ。計測に時間差を作らない方が大事であろう」
殿下の計測結果に、ミモさんは頷いた。
『身体の調子はいかがですか』
「特に問題はないな。ここしばらく処置をしていない割に弊害も出ていない」
『それは重畳』
俺はできるだけ顔に出さないよう努めながら驚いていた。あのネズミ氏が、すごく丁寧な言葉遣いをしている!
『不調があればすぐご連絡ください』
「それよりも、測定結果はどうだったのだ」
『予想の範囲内です。やはり、殿下の有り余る魔力を吸い取っていることは間違いありません』
「そうか」
そのやりとりを眺めながら、俺はこそっとエンツォに厨房に行っていいかと声を掛ける。エンツォは俺の方に違和感などないか確認すると、魔力量の半分ほどを魔晶石に換えてからなら、とOKを出してくれた。
俺としては、研究が少しなりとも前進したようで、それを祝いたい気持ちもあるんだが、それが殿下との同衾を継続するとなると、ちょっと素直に歓迎できない。
(殿下が仕事とかでこっちに戻ってこれないといいんだが)
実験動物の俺には拒否権はなさそうだからな。
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