人身御供で連れ出された俺が王子の恩人(予定)だって!?

長野 雪

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20.俺、寂しがられる

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「そうか、それは寂しくなるな」
「寂しい……って、むしろ殿下は寝床を取り戻せて安心するんじゃないですか?」

 書類作業にやってきた殿下に、とりあえず寝床を確保したことを伝えたところ、惜しむような台詞を吐かれた。何故だ。

「なに、オレがここで仕事に励んでいる間、仮眠室から誰かの寝息が聞こえるのが新鮮だったのだが」
「いやホント勘弁してください。というか、俺、変な寝言を口にしたりとかイビキかいたりとかしてませんでしたよね?」
「……さて、どうだろう」
「すっぱり否定して欲しかったんですけど」

 俺が恨めしそうに呟くのを、アウグスト殿下はくすくすと笑いながら眺めていた。いいんだ。どうせ殿下に勝てないし。

「厨房の方は慣れたのか?」
「そうですね。便利な魔道具があるので、随分と楽ができるなぁ、と。……そういえば、氷室の食材ってどうなってるんですか?」
「温度や湿度管理だけでなく、時間経過による劣化を防ぐ術式もあったはずだが」
「時間経過!? なんかすごいですね。想像以上に……って、違う。食材の補充ですよ。今日、見慣れない肉があったので気になって」

 そうなのだ。昨日まではなかった肉がころんと置いてあったので、使ってもいいか迷ったのだ。

「定期的に注文したものが納品される手筈になっていたと思うが。ただ、注文書はどうなっていたかな。変更を加えなければ前回と変わらぬものを持ってくることになっていたと思うぞ。――――そうだな、ミモに確認すると良い」
「ミモ……」

 どの研究員だろうか。少なくとも、今まで食事当番に当たった人でないことだけは確かだ。

「あぁ、そうそう。言い忘れておった。なかなかの美味であったぞ」
「ありがとうございます。……と言っても、話に聞くこれまでの料理と比べられても複雑なんですけど」
「まぁ、そう斜めに考えるな。純粋に美味であった。ただ、パンを作るのが苦手なのかは気になるが」

 殿下の言うことも最もだ。麺類が多かったもんな。

「パンは美味しいパンが焼ける自信がないというか、パンをふっくらさせるのに必要な――酵母って言ってたかな、それが氷室に見当たらなかったんで、避けてるんですよ」
「それもミモに確認すると良い。食材については、あれが詳しいゆえな」
「はぁ……」

 とりあえず、明日のミッションはそのミモさんを探すことだな、と思いながら、俺は殿下の前から辞去した。
 殿下は権力争いだか跡継ぎ争いで、毒物混入の心配なく食事できるのはここぐらいだとマルチアが言っていたし、それなら俺はできるだけ美味しい料理を食べて欲しいからな。
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