人身御供で連れ出された俺が王子の恩人(予定)だって!?

長野 雪

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19.俺、ややデレされる

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「そうだ、マルチア。ミートミンサーがあるって聞いたんだが、どこにあるか分かるか?」
「……ここよ」

 昨日教えてもらった空気清浄魔道具が置いてある棚から、マルチアがハンドルのついた機械を取り出す。うーむ、一度分解洗浄しないと怖いな。

「俺がこれ洗ってる間に、氷室から肉を取ってきてもらえるか?」
「……分かったわ」

 なんかすっかり元気をなくしてしまったマルチアが、とぼとぼと氷室の方へ歩いていく。殿下の名前、恐るべし。だが、しょげているマルチアを見ていると、なんだか悪いことした気分になるな。
 ミンサーを分解してみると、予想に反してきれいなものだった。よく考えれば、あの研究員たちがミンサーを作るとは思えない。まだ料理番を雇っていた頃に使われていたんだろうな。だから綺麗なまましまわれてたんだろう。
 戻ってきたマルチアから肉を受け取ると、そのままミンサーのハンドル係に指名する。最初こそ簡単な作業過ぎると文句を言っていたが、もりもり挽肉が出てくるのが楽しかったらしく、俺が切って渡すぶつ切りをニコニコと挽いていた。
 それから挽肉と湯むきしたトマトを使ったソースの作り方を簡単にレクチャーすると、マルチアはそういう作業を待っていたとばかりに目を輝かせた。朝も手際は悪くなかったし、きっと簡単な料理ならできるんだろう。
 俺はと言えば、ベーコンとキャベツ、オニオンを使ったスープを作りつつ、蒸し上がったジャガイモを潰して小麦粉と卵でまとめる。スープの方は塩味をベースにガーリックスライスと鷹の爪少量でアクセントを加えただけのシンプルなものだ。

「それ、何?」

 トマトソースが一段落したマルチアが、まとめられたジャガイモ生地を指差す。

「半分渡すから、細長く伸ばしてくれるか?」
「分かったわ」

 細長く伸ばした生地を、今度は輪切りにする。それをフォークの背を使って平たくして見せた。

「これを茹でて、作ってもらったトマトソースに絡めるんだ」
「ジャガイモよね?」
「ジャガイモは嫌いか?」
「別に。ただ、みんな茹でて終わらせるから」
「あぁ、聞いたよ。なかなか手抜きだよな」

 あはは、と笑うと、笑い事じゃない、と怒られた。どうやらマルチアにとって、不味い食事は大問題だったらしい。

「……アンタ」
「ん?」
「いつまで殿下に迷惑かけるつもりよ」
「迷惑?」

 何のことだろう。思い当たるふしはない。俺が魔力を感知できないせいで研究が進まないという話ぐらいか。

「アンタが殿下の仮眠室を占領しているせいで、殿下がこっちで寝られないじゃない!」
「あー」

 そっちか、という言葉はかろうじて飲み込んだ。

「やっぱり、問題だよな、それ」
「当たり前でしょ! あそこは殿下がゆっくり休める数少ない場所なのよ! それを毎晩入り浸るなんてっ!」
「待て。なんか誤解を生みそうな言葉を使わないでくれ」

 まるで俺が好んであそこで寝てるみたいじゃないか。そりゃまぁ、確かに寝心地はいいけど。小市民な俺にとっては恐縮しまくりで、起きてすぐ汚してないか確認しちゃうんだぞ。

「あー、でもなぁ。だからといって殿下と一緒に寝るわけにもいかないだろうし」
「論外よ! 料理だけでなく夜伽までする気なの!?」
「それはない!」

 とんでもない単語が出てきたのですぐさま否定する。同じ男性相手にそんなことできるもんか。

「だったら別の場所で寝なさいよ!」

 ダンッ!とフォークが強く叩きつけられ、生地がペタンコに……どころではなく、フォークが曲がった。

「いや、俺もできればそうしたいんだが、着の身着のままでここに連れて来られて、手持ちの金もないから毛布一枚調達できない状況だし」
「……アンタの事情は分かる。だからといって殿下に迷惑かけてるのは許せないのよ」

 分かった。分かったからその曲がったフォークを置いてくれないかな。なんか殺意とか芽生えたらそれでザクッと一突きされそうで恐ろしい。

「あー、だから俺も、研究員のみんなみたく寝袋とかあれば、厨房の隅っことかでごろ寝したいっての」
「はァ!? 寝袋の方が殿下の仮眠室より快適だっていうの!?」

 もーやだ。マルチアめんどいな。どう答えれば正解だったんだよ。

「……待ちなさい。アンタ今、寝袋とかあればって言ったわよね?」
「あ? あぁ」
「お下がりで良ければあるわ。それで今日から寝なさい」
「え?」

 お下がり? 今、マルチアはお下がりって言ったか?

「な、何よ」

 俺の真っ直ぐな視線に気付いたのか、マルチアが少し怯んだ様子を見せた。

「マルチア……、お前、いいやつだったんだな」
「お、おだてたって何も出ないんだから! というか、これは仕方なくよ! 殿下のために仕方なくお下がりをあげるんだからね!」
「あぁ、ありがとう。正直なところ、俺も殿下の仮眠室を使わせてもらってるのは正直なところ気が引けてたし、本当に助かった」

 目を見てお礼を言って、しっかりと頭を下げる。すると、頭の上から「殿下のためだからよ!」とツンツンした声が落ちてきた。
 うん、やっぱりいいやつだ。
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