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12.俺、絶賛される
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「なぁ、ミケーレ。味見してもいいかねぃ」
「ぜひお願いしたいところだ。何しろ、人間の好みで作ってしまったからな」
俺は教わった通りにオーブンを温め始めながら、パン生地を手のひらサイズの円に伸ばし、そこに切っておいた具材を乗せていく。その作業をしていたせいで、シャラウィの表情を見ることはできなかった!
「んんんんまぁぁぁぁいっっ!」
「そうか?」
「この白いのは芋だよねぃ? 芋なのにすごく美味いんだねぃ。それにスープも甘みとしょっぱみが丁度良くて、僕の好みなんだねぃ」
「そりゃ良かった」
パンを天板にできるだけ並べ、オーブンに突っ込む。時間設定は、あぁ、このツマミだっけ。
「シャラウィ、この食事は――――」
「ミケーレっっ!」
配膳とかはどうするのか確認しようと思った俺の手を、シャラウィが強く握りしめてきた。それこそ、ガシッと音がするぐらいに。
「僕はミケーレを厨房担当に推薦するんだねぃ! 単なるモルモットで終わらせるなんてとんでもない! 毎日僕のために料理を作って欲しいんだねぃ!」
「え、いや……?」
モルモットで俺の人生は終わらせたくないが、だからと言ってプロポーズめいた言葉には素直に頷けない。
興奮するシャラウィを宥め、配膳について尋ねてみると、なんと作った後は適当にめいめいが取りに来るんだそうだ。それで一定以上の時間が経つか、全て料理がなくなったら片付ける、というなんとも緩い運用だった。
「あ、ジジさんが呼んでたんだねぃ。時間になったから計測するんだって息巻いてたんだねぃ。回復してたらまた魔晶石を作るって鼻息も荒かったんだねぃ」
「……おぅ」
俺はオーブンをシャラウィに頼むと、重い足取りで研究室の方へと向かった。
ジジさんは悪い人じゃないと思うんだけどなぁ。ただ沸点が低いのが難点だと思うんだよなぁ……。
とぼとぼと歩いて行くと、研究室の入り口で仁王立ちするおっさんがいた。いや、ジジさんなんだけど。横にも大きいジジさんが、ついでに耳のすぐ上に生えた角が楕円を描くように湾曲して伸びているジジさんが、ただ立っているだけですごい威圧感だ。
「モル、測定したらすぐ魔晶石を作るぞ。一休みして感覚もリセットされただろう」
「……ガンバリマス」
一休みどころかせっせと掃除と料理をしていたのだけど、それを言い出す勇気もなく、俺は測定器に触れた。
「あぁん?」
測定結果を見たジジさんの顔が一層険しくなる。怖くて結果を聞きたくないが、たぶん聞かないと話が進まないんだろうなぁ。俺としては、とっとと用事を済ませて料理に戻りたいんだが。
「モル、お前あれから魔晶石作ったか?」
「え? いや、ほとんど厨房にいたから、作ってないけど」
俺の答えに、ジジさんの眉間の皺がいっそう深まった。
「どうしたんだ、ジジ」
「エンツォ、これを見ろ」
心配そうに近づいてきたエンツォさんも、測定結果に眉根を寄せた。
「確か、8まで削ったって言ってたよな」
「あぁ、間違いない。魔晶石を作らせ終えた後にも念のために計測したからな」
二人で顔を寄せ合ってうーんと唸る。え、なんか測定結果がそんなに問題だったのか?
「えぇと、俺も結果を聞いていいか?」
「あぁ。ミケーレ、お前の魔力量が8だったんだ」
「それはさっき魔晶石を作った後の話じゃないのか?」
「今も8のままだ。つまり、全く回復してないってことだ。っていうか、魔族だったら一桁なんざ昏倒してるレベルなんだが、お前、本当に体調に問題ないんだろうな?」
「至っていつもと変わらないよ……」
心配されているんだろうけれど、瀕死判定されているのかと思うと、ちょっぴり傷つく。
まぁ、それはそれとして、いったいどういうことなんだろう。驚くほどの魔力量上昇を見せたかと思えば停滞。そりゃ、ジジさんでなくとも困惑するわけだ。
「あー……、とりあえず厨房に戻っていいか? パンが途中だったんだ」
「ん? ミケーレ、お前パンまで焼けるのか?」
「昼飯みたいにふっくらしたパンじゃないぞ? まぁ、炊事洗濯掃除に帳簿つけは散々やらされてたからな」
「へー、じゃぁ試しに今日の夕食はここで食べてみるかな」
エンツォの言葉に「期待外れだったらすまないな」と予防線を張っておく。相変わらず唸っているジジさんに厨房に戻ることを伝えて、俺はそそくさと研究室を背にした。
何にしろ、パンの焼き加減が気になるんだ。
「ぜひお願いしたいところだ。何しろ、人間の好みで作ってしまったからな」
俺は教わった通りにオーブンを温め始めながら、パン生地を手のひらサイズの円に伸ばし、そこに切っておいた具材を乗せていく。その作業をしていたせいで、シャラウィの表情を見ることはできなかった!
「んんんんまぁぁぁぁいっっ!」
「そうか?」
「この白いのは芋だよねぃ? 芋なのにすごく美味いんだねぃ。それにスープも甘みとしょっぱみが丁度良くて、僕の好みなんだねぃ」
「そりゃ良かった」
パンを天板にできるだけ並べ、オーブンに突っ込む。時間設定は、あぁ、このツマミだっけ。
「シャラウィ、この食事は――――」
「ミケーレっっ!」
配膳とかはどうするのか確認しようと思った俺の手を、シャラウィが強く握りしめてきた。それこそ、ガシッと音がするぐらいに。
「僕はミケーレを厨房担当に推薦するんだねぃ! 単なるモルモットで終わらせるなんてとんでもない! 毎日僕のために料理を作って欲しいんだねぃ!」
「え、いや……?」
モルモットで俺の人生は終わらせたくないが、だからと言ってプロポーズめいた言葉には素直に頷けない。
興奮するシャラウィを宥め、配膳について尋ねてみると、なんと作った後は適当にめいめいが取りに来るんだそうだ。それで一定以上の時間が経つか、全て料理がなくなったら片付ける、というなんとも緩い運用だった。
「あ、ジジさんが呼んでたんだねぃ。時間になったから計測するんだって息巻いてたんだねぃ。回復してたらまた魔晶石を作るって鼻息も荒かったんだねぃ」
「……おぅ」
俺はオーブンをシャラウィに頼むと、重い足取りで研究室の方へと向かった。
ジジさんは悪い人じゃないと思うんだけどなぁ。ただ沸点が低いのが難点だと思うんだよなぁ……。
とぼとぼと歩いて行くと、研究室の入り口で仁王立ちするおっさんがいた。いや、ジジさんなんだけど。横にも大きいジジさんが、ついでに耳のすぐ上に生えた角が楕円を描くように湾曲して伸びているジジさんが、ただ立っているだけですごい威圧感だ。
「モル、測定したらすぐ魔晶石を作るぞ。一休みして感覚もリセットされただろう」
「……ガンバリマス」
一休みどころかせっせと掃除と料理をしていたのだけど、それを言い出す勇気もなく、俺は測定器に触れた。
「あぁん?」
測定結果を見たジジさんの顔が一層険しくなる。怖くて結果を聞きたくないが、たぶん聞かないと話が進まないんだろうなぁ。俺としては、とっとと用事を済ませて料理に戻りたいんだが。
「モル、お前あれから魔晶石作ったか?」
「え? いや、ほとんど厨房にいたから、作ってないけど」
俺の答えに、ジジさんの眉間の皺がいっそう深まった。
「どうしたんだ、ジジ」
「エンツォ、これを見ろ」
心配そうに近づいてきたエンツォさんも、測定結果に眉根を寄せた。
「確か、8まで削ったって言ってたよな」
「あぁ、間違いない。魔晶石を作らせ終えた後にも念のために計測したからな」
二人で顔を寄せ合ってうーんと唸る。え、なんか測定結果がそんなに問題だったのか?
「えぇと、俺も結果を聞いていいか?」
「あぁ。ミケーレ、お前の魔力量が8だったんだ」
「それはさっき魔晶石を作った後の話じゃないのか?」
「今も8のままだ。つまり、全く回復してないってことだ。っていうか、魔族だったら一桁なんざ昏倒してるレベルなんだが、お前、本当に体調に問題ないんだろうな?」
「至っていつもと変わらないよ……」
心配されているんだろうけれど、瀕死判定されているのかと思うと、ちょっぴり傷つく。
まぁ、それはそれとして、いったいどういうことなんだろう。驚くほどの魔力量上昇を見せたかと思えば停滞。そりゃ、ジジさんでなくとも困惑するわけだ。
「あー……、とりあえず厨房に戻っていいか? パンが途中だったんだ」
「ん? ミケーレ、お前パンまで焼けるのか?」
「昼飯みたいにふっくらしたパンじゃないぞ? まぁ、炊事洗濯掃除に帳簿つけは散々やらされてたからな」
「へー、じゃぁ試しに今日の夕食はここで食べてみるかな」
エンツォの言葉に「期待外れだったらすまないな」と予防線を張っておく。相変わらず唸っているジジさんに厨房に戻ることを伝えて、俺はそそくさと研究室を背にした。
何にしろ、パンの焼き加減が気になるんだ。
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