人身御供で連れ出された俺が王子の恩人(予定)だって!?

長野 雪

文字の大きさ
上 下
8 / 57

08.俺、愚痴られる

しおりを挟む
「それにしても……こういうもんなのかな」

 改めて研究所の広い部屋を眺めた俺の口から、そんな言葉が自然と漏れた。

「何がだ?」
「いや、俺の勝手なイメージかもしれないけど、研究所って言うとそれぞれ個室が与えられて、そこでひっそり自分の研究に没頭するものなのかな、って」

 そうなんだ。この広い部屋は身長程度の間仕切り板で区切られてはいるものの、研究員たちは引きこもることなく、時には同僚に相談をふっかけながら、おのおのの研究を進めているらしいのだ。ちなみに相談を「ふっかける」という表現はおそらく正しい。だって、ケンカ腰になってる研究員の方が多いから。それだけ気の置けない関係を作れているのかもしれないけど。

「第一研究所はお前の言うような作りになっているな。第二研究所ここは良くも悪くも無法地帯フリーダムであるからな」
「へー……」

 なんか、自由フリーダムという言葉が全然別の意味に聞こえたんだけど、不思議だなぁ? いや、そもそも俺は誰に質問してたんだっけ?

「って、殿下ぁ!?」

 俺の隣に立って、俺の素直な疑問に答えてくれたのは、ここの最高責任者であらせられるアウグスト殿下だった。

「まっ、誠に失礼いたしましたっ! 俺、殿下がいらっしゃっているなんて存じ上げなくて……っ!」
「あぁ、よいよい。構わぬ。ここは確かにオレの研究所だが、別に何をしているわけでもないし、単に避難所にしているだけだからな」
「避難所、ですか?」

 俺の疑問にアウグスト殿下は曖昧に笑うだけで、詳しいことは語らなかった。まぁ、普通にここの研究員の人たちとは仲が良さそうだし、権力闘争に疲れて、とかそんな感じだろうか。

「それにしても……」

 殿下はその深い緋色の瞳を俺の手元に向けた。そこには楕円形のパンにチシャの葉と腸詰めを挟んだ俺の昼食がある。

「いい加減にそっちの問題もなんとかせねばな」
「そっちの問題、ですか?」

 なんだろう。俺の昼食に何か問題があるんだろうか。まさか、魔族と人間では食べるものが全然違って、俺の食事を用意するのが大変とか? げ、それは困る。一日三食用意されているこの素晴らしい環境を手放したくはない。

「それを用意したのはエンツォあたりだろう? 本来ならば研究所の厨房で食事を用意すべきところだが、いろいろと問題があってな」

 ごくり、と俺は唾を飲み込んで殿下の言葉の続きを待った。

「なかなかに不味いものばかりになるので、ほとんどの研究員は利用していないのが現状だ」
「……はぁ」

 愚痴るように殿下が詳しい経緯について語ってくれたところによると、元々料理番が雇われていたが、研究費に回したいとの研究員の大多数の意見を元に解雇、料理は研究員の当番制となった。ところが、ここの研究員は基本的に研究バカばかりで料理なんて作れるもんじゃない。結果として、料理当番は適当に具材を切って茹でただけの謎スープを作ったり、焦げ肉を量産したりと散々なものなんだとか。一部の研究員はそれに嫌気がさして外に買いに行っているのだとか。俺のこれまでのご飯も買いに行ってくれたものらしい。

「えぇと、研究に熱心なんですね」
「ものは言い様だな。――――ところで、先ほど測定結果を聞いたが、特筆すべきものはなかったようだな」
「そのようですね。ただ、子供の頃に計測したときと比べて、魔力量が段違いに伸びていたのには驚きました」
「ほう? それは報告に上がっていなかったな」
「十年ぐらい前に15しかなかったのが123って、俺はびっくりしたんですけど、魔族から見たら誤差レベルなんですかね」
「ふむ……?」

 殿下が不思議そうな声を上げたので、何か問題でもあったんだろうかと隣に顔を向けると、突然、両手でがしりと両頬を掴まれた。至近距離に殿下の顔、もといご尊顔。その血を垂らしたような不吉な赤色の瞳で覗き込まれ、俺の背筋がぞわぞわとうすら寒くなった。突然の殿下の行動に対する驚きよりも、絶対強者に心の奥底まで見透かされるような恐怖の方が強かった。

「そのような成長見込みなどない、平々凡々とした顔にしか見えんが」

 ひどくないですかその評価、とは流石に口に出せなかった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...