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06.俺、実験動物扱いされる
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「じゃ、こっち来てー。あとこれ朝ごはんー」
俺を迎えにやって来たのは、昨日俺を案内した白髪ツインテールのお嬢さんだった。ただ、昨日は虹色だった爪は、なぜか黒一色になっている。わからん。
「あの、俺の名前はモルモットじゃなくて、ミケーレ……」
「面倒だから、みんな揃ったところで言ってくんないー?」
ねぇ、お願いだから名前の訂正ぐらいすぐにさせてくれないかな。俺、泣きそう。
渡された朝ごはんは、慣れ親しんだ黒パンと、出涸らしもここまでくればいっそ見事というほどに薄い紅茶の入ったカップだった。行儀が悪いとは思いながら、もっきゅもっきゅと黒パンを噛み続けては紅茶でふやかすことを繰り返しながら歩く。
パンを全て胃に流しこむ頃には、昨日、目を覚ました部屋に到着していた。
「ちゅーもーく」
案内のお嬢さんの声に、広い一室のあちこちにいた魔族たちが視線を向けてくる。
「これが例の殿下のモルモットー。今日の午前は基礎データの収集でー、午後からはー、くじ引きで決めた順番通りに各チーム個別で実験ねー」
(は!?)
ゆるい喋り方で、危うく聞き流しそうになったが、とんでもない!
「あの、実験というのは……」
「名前はえーと、ミケ?」
「ミケーレです」
「だってー。ミケは分かんないことあれば、適当に捕まえて聞いてー」
慌てて訂正したのに、なんだか猫の子につけるような名前で呼ばれてしまったので、がっくりと肩を落とす。
だが、俺の落胆に同情したのかどうかは分からないが、集まっていた魔族の何人かが、ちゃんと俺の名前を呼んだ上で「よろしくな」と言ってくれた。それだけで涙が出そうになったのは秘密だ。
――――午前中の『基礎データ収集』を担当したのは、エンツォという名の魔族だった。熊のようなデカい身体で額のちょっと上の方に赤毛に隠れそうなぐらいの小さい一本角を持った男で、その真面目そうな雰囲気に少しだけ親近感を抱く。
エンツォの傍らには子供のような体格の魔族がいたが、自己紹介もしてくれなければ、ぶ厚い眼鏡と伸ばした前髪で顔を隠す徹底ぶりで、顔もよく分からない。声も蚊の鳴くような小さいもので、性別さえ判別できない有り様だった。
エンツォはテキパキと俺の身長体重胸囲など諸々のデータをとっていく。それを小柄な方が手元のボードに書き込んでいた。お互いほとんど言葉を交わしていないのに、役割分担ができているってすごいな、と全く別の方向で感心した。
――――何事もなく淡々と過ぎていた『基礎データ収集』とやらに問題が発生したのはその後だった。
対象の持つ魔力と属性を数値化するという測定器を前に、俺の手はじんわりと汗を滲ませていた。
無理もない。何しろ朝イチで紹介された魔族のほとんどが集まっていたのだ。エンツォによると、この第二研究所の研究員のほとんどが居合わせているらしい。つまり、それだけ俺の持つ魔力のデータが重要なものだということだ。
気張ったところで結果が変わるわけではないが、それでも緊張しない、なんて難しい。研究員が何人いるのかは知らないが、集まった魔族から注視されているのだ。衆人環視の中で計測を受けるというのも拷問に近い。
「では、その水晶に触れてくれ」
「あ、あぁ」
俺が水晶に触れると、研究員たちがどよめいた。
俺を迎えにやって来たのは、昨日俺を案内した白髪ツインテールのお嬢さんだった。ただ、昨日は虹色だった爪は、なぜか黒一色になっている。わからん。
「あの、俺の名前はモルモットじゃなくて、ミケーレ……」
「面倒だから、みんな揃ったところで言ってくんないー?」
ねぇ、お願いだから名前の訂正ぐらいすぐにさせてくれないかな。俺、泣きそう。
渡された朝ごはんは、慣れ親しんだ黒パンと、出涸らしもここまでくればいっそ見事というほどに薄い紅茶の入ったカップだった。行儀が悪いとは思いながら、もっきゅもっきゅと黒パンを噛み続けては紅茶でふやかすことを繰り返しながら歩く。
パンを全て胃に流しこむ頃には、昨日、目を覚ました部屋に到着していた。
「ちゅーもーく」
案内のお嬢さんの声に、広い一室のあちこちにいた魔族たちが視線を向けてくる。
「これが例の殿下のモルモットー。今日の午前は基礎データの収集でー、午後からはー、くじ引きで決めた順番通りに各チーム個別で実験ねー」
(は!?)
ゆるい喋り方で、危うく聞き流しそうになったが、とんでもない!
「あの、実験というのは……」
「名前はえーと、ミケ?」
「ミケーレです」
「だってー。ミケは分かんないことあれば、適当に捕まえて聞いてー」
慌てて訂正したのに、なんだか猫の子につけるような名前で呼ばれてしまったので、がっくりと肩を落とす。
だが、俺の落胆に同情したのかどうかは分からないが、集まっていた魔族の何人かが、ちゃんと俺の名前を呼んだ上で「よろしくな」と言ってくれた。それだけで涙が出そうになったのは秘密だ。
――――午前中の『基礎データ収集』を担当したのは、エンツォという名の魔族だった。熊のようなデカい身体で額のちょっと上の方に赤毛に隠れそうなぐらいの小さい一本角を持った男で、その真面目そうな雰囲気に少しだけ親近感を抱く。
エンツォの傍らには子供のような体格の魔族がいたが、自己紹介もしてくれなければ、ぶ厚い眼鏡と伸ばした前髪で顔を隠す徹底ぶりで、顔もよく分からない。声も蚊の鳴くような小さいもので、性別さえ判別できない有り様だった。
エンツォはテキパキと俺の身長体重胸囲など諸々のデータをとっていく。それを小柄な方が手元のボードに書き込んでいた。お互いほとんど言葉を交わしていないのに、役割分担ができているってすごいな、と全く別の方向で感心した。
――――何事もなく淡々と過ぎていた『基礎データ収集』とやらに問題が発生したのはその後だった。
対象の持つ魔力と属性を数値化するという測定器を前に、俺の手はじんわりと汗を滲ませていた。
無理もない。何しろ朝イチで紹介された魔族のほとんどが集まっていたのだ。エンツォによると、この第二研究所の研究員のほとんどが居合わせているらしい。つまり、それだけ俺の持つ魔力のデータが重要なものだということだ。
気張ったところで結果が変わるわけではないが、それでも緊張しない、なんて難しい。研究員が何人いるのかは知らないが、集まった魔族から注視されているのだ。衆人環視の中で計測を受けるというのも拷問に近い。
「では、その水晶に触れてくれ」
「あ、あぁ」
俺が水晶に触れると、研究員たちがどよめいた。
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