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05.俺、爆睡する
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「オレはアウグスト・レオ・ゲッツィ。お前らの言う魔族を治める王の第二子、まぁ第二王子ってところだ」
ひぃ。
俺の喉がごくりと鳴った。悲鳴をなんとか心の中だけに留められたのだけが幸いだ。
「オレの方に事情があってな。それを解決する方法を神問いした結果、託宣されたのがこれだ」
男――アウグスト殿下は、ぺらりと俺に1枚の紙を見せた。そこには銀器を磨いている俺の姿が黒一色のインクながら写実的に描かれていた。託宣というから曖昧な言葉なのかと思えば、どう見ても俺だった。
「明らかに人間の男だったから、持っている銀器に刻印された家紋を辿って所属している国を特定し、ちょっとトップに交渉した」
「……交渉」
俺が見た王と宰相からは、むしろ脅えが見えたんだが。交渉という名の脅迫だったんじゃなかろうか。
「お前がどう役に立つのか分からんのでな、オレの研究所で一通り調べることにした」
「は!?」
やばい、正直な声が出てしまった。相手は王子だし、これって不敬にあたるのか?
「安心しろ。お前の命に関わるような研究はしない。代えがきかないからな」
安心できるんだろうか、それ。でも、さっきの彼女が言っていたモルモットという言葉が理解できた気がする。言葉通りの意味だったってわけか。
「とりあえず、今日はもう遅い。研究員には明日の朝に引き合わせる。お前はその扉の先にある仮眠室で寝ろ。ひどい顔をしているぞ」
「……はぁ」
魔族からお前はモルモット確定だと聞かされて、ひどい顔にならない人間がいるだろうか。いや、いないだろ。
しいて言うなら、命が保障されているということだけが救い……いや、死ぬより恐ろしい実験が待っている可能性だってある。
示された扉に向かいながら、俺はとても寝れないだろうな、と確信していた。
――――結局、仮眠室のベッドが快適過ぎて、即・爆睡した。
§ § §
目を覚まして、まず驚いたのは自分の図太さだ。何も聞かされないまま魔族だらけの場所へ問答無用で連れて来られたというのに、仮眠室のベッドで爆睡。疲れていたからとかそういう問題じゃないと思うんだ。
魔族というのは、魔力はもとより膂力や俊敏性など、人間より総じて能力の高い種族を指す言葉だ。外見は似ているものの、角や尻尾などを持ち、肌の色は灰色もしくは浅黒をしているのが特徴だというのが一般的に流布している知識だ。古代遺跡の埋もれる幻霧の森を隔てているため、人間の国との交流はないと言われているが、俺が引き渡された経緯を考えると、それも嘘なのかもしれない。
基本的に人間からは恐れられ怖がられる存在なので、小さい子のしつけに「悪いことをすると、魔族が連れ去って食べてしまうよ」なんて決まり文句を使ったりする。
そんな魔族の中に放りこまれた俺、爆睡。
(……よくも悪くも普通にしか見えなかったんだよな)
思い出すのは、俺を殿下の部屋に案内する者を決めるのに繰り広げられたジャンケン大会だ。この言い方が正しいのかどうかは分からないが、なんだか人間臭くて拍子抜けした。
コンコン
ノックの音に、俺はまとまらない思考を打ち消し、慌てて返事をする。
「モルモットー。起きてるー?」
「……モルモットじゃないです」
訂正。人を実験動物扱いするのは、やっぱり恐ろしい魔族だからかもしれない。
ひぃ。
俺の喉がごくりと鳴った。悲鳴をなんとか心の中だけに留められたのだけが幸いだ。
「オレの方に事情があってな。それを解決する方法を神問いした結果、託宣されたのがこれだ」
男――アウグスト殿下は、ぺらりと俺に1枚の紙を見せた。そこには銀器を磨いている俺の姿が黒一色のインクながら写実的に描かれていた。託宣というから曖昧な言葉なのかと思えば、どう見ても俺だった。
「明らかに人間の男だったから、持っている銀器に刻印された家紋を辿って所属している国を特定し、ちょっとトップに交渉した」
「……交渉」
俺が見た王と宰相からは、むしろ脅えが見えたんだが。交渉という名の脅迫だったんじゃなかろうか。
「お前がどう役に立つのか分からんのでな、オレの研究所で一通り調べることにした」
「は!?」
やばい、正直な声が出てしまった。相手は王子だし、これって不敬にあたるのか?
「安心しろ。お前の命に関わるような研究はしない。代えがきかないからな」
安心できるんだろうか、それ。でも、さっきの彼女が言っていたモルモットという言葉が理解できた気がする。言葉通りの意味だったってわけか。
「とりあえず、今日はもう遅い。研究員には明日の朝に引き合わせる。お前はその扉の先にある仮眠室で寝ろ。ひどい顔をしているぞ」
「……はぁ」
魔族からお前はモルモット確定だと聞かされて、ひどい顔にならない人間がいるだろうか。いや、いないだろ。
しいて言うなら、命が保障されているということだけが救い……いや、死ぬより恐ろしい実験が待っている可能性だってある。
示された扉に向かいながら、俺はとても寝れないだろうな、と確信していた。
――――結局、仮眠室のベッドが快適過ぎて、即・爆睡した。
§ § §
目を覚まして、まず驚いたのは自分の図太さだ。何も聞かされないまま魔族だらけの場所へ問答無用で連れて来られたというのに、仮眠室のベッドで爆睡。疲れていたからとかそういう問題じゃないと思うんだ。
魔族というのは、魔力はもとより膂力や俊敏性など、人間より総じて能力の高い種族を指す言葉だ。外見は似ているものの、角や尻尾などを持ち、肌の色は灰色もしくは浅黒をしているのが特徴だというのが一般的に流布している知識だ。古代遺跡の埋もれる幻霧の森を隔てているため、人間の国との交流はないと言われているが、俺が引き渡された経緯を考えると、それも嘘なのかもしれない。
基本的に人間からは恐れられ怖がられる存在なので、小さい子のしつけに「悪いことをすると、魔族が連れ去って食べてしまうよ」なんて決まり文句を使ったりする。
そんな魔族の中に放りこまれた俺、爆睡。
(……よくも悪くも普通にしか見えなかったんだよな)
思い出すのは、俺を殿下の部屋に案内する者を決めるのに繰り広げられたジャンケン大会だ。この言い方が正しいのかどうかは分からないが、なんだか人間臭くて拍子抜けした。
コンコン
ノックの音に、俺はまとまらない思考を打ち消し、慌てて返事をする。
「モルモットー。起きてるー?」
「……モルモットじゃないです」
訂正。人を実験動物扱いするのは、やっぱり恐ろしい魔族だからかもしれない。
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