上 下
34 / 53

Ep.2 基地から回収された記録(16)

しおりを挟む

   ◆◆◆

 そこからはあっという間だった。
 防衛力と通信を封じ込まれた住人に成す術は無かった。

「うわあああぁっ!」

 基地は悲鳴で包まれた。

「来るな、来るなあっ!」

 蠢く虫の群れに襲われた男の悲鳴がある部屋に響く。

「やめて、お願い……! いやああぁっ! 誰かぁ! 助けてぇ!」

 ある所では、大男に組み伏せられた女の悲鳴が通路に何度も響いていた。
 馬乗りになった大男は、まるで口付けをしようとしているかのように、その顔を女の顔に近づけている。
 それを手で押し返して、必死で拒む女。
 だが、体力が違いすぎた。

「~~~っっっ!」

 その最もおぞましいと言える粘膜接触は、無残にも実行されてしまった。

   ◆◆◆

 それからしばらくして基地は再び静けさを取り戻した。
 もう、まともに抵抗できる者も、悲鳴を上げることができる者もいなかった。
 いや、まだ数名だけいた。
 運の良い者、機転が利く者、逃げ足の速い者などが上手く逃げ延び、粘っていた。
 彼らのうち、いまだ絶望していない者は外部への連絡を狙っていた。
 だが、残念ながらそのチャンスは訪れなかった。
 勇気ある者は数の暴力に屈し、悲鳴を残して消えていった。
 そして、最後には臆病な者だけが残った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

呪部屋の生贄

猫屋敷 鏡風
ホラー
いじめっ子のノエルとミエカはミサリをターゲットにしていたがある日ミサリが飛び降り自殺をしてしまう。 10年後、22歳になったノエルとミエカに怪異が襲いかかる…!? 中2の時に書いた訳の分からん物語を一部加筆修正して文章化してみました。設定とか世界観が狂っていますが悪しからず。

FLY ME TO THE MOON

如月 睦月
ホラー
いつもの日常は突然のゾンビ大量発生で壊された!ゾンビオタクの格闘系自称最強女子高生が、生き残りをかけて全力疾走!おかしくも壮絶なサバイバル物語!

その瞳には映らない

雨霧れいん
ホラー
裏の世界で生きる少年達の壮絶な殺し合いの話し ___ こっちも内容たいして決まってません。

凶兆

黒駒臣
ホラー
それが始まりだった。

没考

黒咲ユーリ
ホラー
これはあるフリーライターの手記である。 日頃、オカルト雑誌などに記事を寄稿して生計を立てている無名ライターの彼だが、ありふれた都市伝説、怪談などに辟易していた。 彼独自の奇妙な話、世界を模索し取材、考えを巡らせていくのだが…。

雪山のペンションで、あなたひとり

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ホラー
あなたは友人と二人で雪山のペンションを訪れたのだが……

冀望島

クランキー
ホラー
この世の楽園とされるものの、良い噂と悪い噂が混在する正体不明の島「冀望島(きぼうじま)」。 そんな奇異な存在に興味を持った新人記者が、冀望島の正体を探るために潜入取材を試みるが・・・。

ヒナタとツクル~大杉の呪い事件簿~

夜光虫
ホラー
仲の良い双子姉弟、陽向(ヒナタ)と月琉(ツクル)は高校一年生。 陽向は、ちょっぴりおバカで怖がりだけど元気いっぱいで愛嬌のある女の子。自覚がないだけで実は霊感も秘めている。 月琉は、成績優秀スポーツ万能、冷静沈着な眼鏡男子。眼鏡を外すととんでもないイケメンであるのだが、実は重度オタクな残念系イケメン男子。 そんな二人は夏休みを利用して、田舎にある祖母(ばっちゃ)の家に四年ぶりに遊びに行くことになった。 ばっちゃの住む――大杉集落。そこには、地元民が大杉様と呼んで親しむ千年杉を祭る風習がある。長閑で素晴らしい鄙村である。 今回も楽しい旅行になるだろうと楽しみにしていた二人だが、道中、バスの運転手から大杉集落にまつわる不穏な噂を耳にすることになる。 曰く、近年の大杉集落では大杉様の呪いとも解される怪事件が多発しているのだとか。そして去年には女の子も亡くなってしまったのだという。 バスの運転手の冗談めかした言葉に一度はただの怪談話だと済ませた二人だが、滞在中、怪事件は嘘ではないのだと気づくことになる。 そして二人は事件の真相に迫っていくことになる。

処理中です...