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Ep.2 基地から回収された記録(13)
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「……」
女は返事をしなかったが、男はかまわず同じ話題を続けることにした。
「たしか、宇宙を漂っていた緊急脱出ポッドから回収されたんだろ? どんな容態だった?」
「……特に問題は無かった」
そのありえない答えに、男は事務作業をしている女のほうに向き直って再び尋ねた。
「おいおい、ちゃんと答えてくれよ。問題が無かったわけないだろう。最初の診断書には栄養失調の他に、血液検査にも明らかな異常が出ていたと書かれていたじゃないか。その診断書を書いたのは君だろう?」
「……」
だが女は答えなかった。
淡々と指を動かして端末を操作している。
男の視線はその指使いに向けられた。
動作がどこかぎこちないのだ。
以前の彼女はそうじゃ無かった。
突然不器用になった、そんな感じだ。
そして女はその不器用さを直後に発揮した。
ふとした動作で、机の上にあるコップに手をぶつけ、中のコーヒーを派手にぶちまけてしまった。
男はそんな女のそばに駆け寄り、女が始めた掃除を手伝いながら再び声をかけた。
「やっぱり今日はもう帰れ。なんなら、精密検査を受けられるように手配してやるぞ」
「大丈夫」
そのオウム返しの言葉に、少しイラついた男は口を開いた。
「いいや、大丈夫にはまったく見えない」
男は言いながら女から離れ、端末をいじり始めた。
「君には検査を受けてもらう。これは上司としての命令だ」
端末に精密検査の予約画面が映る。
が、操作する男の指はそこで止まった。
女が突然掃除をやめ、近づいてきたからだ。
「!? おい、なんだ?!」
男の中に恐怖が湧き上がり、本能が警鐘を鳴らす。
しかしそれは手遅れだった。
女は返事をしなかったが、男はかまわず同じ話題を続けることにした。
「たしか、宇宙を漂っていた緊急脱出ポッドから回収されたんだろ? どんな容態だった?」
「……特に問題は無かった」
そのありえない答えに、男は事務作業をしている女のほうに向き直って再び尋ねた。
「おいおい、ちゃんと答えてくれよ。問題が無かったわけないだろう。最初の診断書には栄養失調の他に、血液検査にも明らかな異常が出ていたと書かれていたじゃないか。その診断書を書いたのは君だろう?」
「……」
だが女は答えなかった。
淡々と指を動かして端末を操作している。
男の視線はその指使いに向けられた。
動作がどこかぎこちないのだ。
以前の彼女はそうじゃ無かった。
突然不器用になった、そんな感じだ。
そして女はその不器用さを直後に発揮した。
ふとした動作で、机の上にあるコップに手をぶつけ、中のコーヒーを派手にぶちまけてしまった。
男はそんな女のそばに駆け寄り、女が始めた掃除を手伝いながら再び声をかけた。
「やっぱり今日はもう帰れ。なんなら、精密検査を受けられるように手配してやるぞ」
「大丈夫」
そのオウム返しの言葉に、少しイラついた男は口を開いた。
「いいや、大丈夫にはまったく見えない」
男は言いながら女から離れ、端末をいじり始めた。
「君には検査を受けてもらう。これは上司としての命令だ」
端末に精密検査の予約画面が映る。
が、操作する男の指はそこで止まった。
女が突然掃除をやめ、近づいてきたからだ。
「!? おい、なんだ?!」
男の中に恐怖が湧き上がり、本能が警鐘を鳴らす。
しかしそれは手遅れだった。
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