上 下
22 / 53

Ep.2 基地から回収された記録(4)

しおりを挟む

   ◆◆◆

「あー、もしもし? 失礼するよ?」

 自動では無いドアをノックしたが、返事が無かったゆえに、清掃員はおそるおそるドアを開けてみた。

「誰かいないのか?」

 室内に声を響かせる。
 しかしやはり返事は無い。
 それほど広い部屋では無い。誰もいないことは見ればわかる。

「ハロー?」

 だが、なにかがおかしい、そう思った男は呼びかけながら足を前に進ませた。
 そして直後に男はそれを見つけた。
 壁に背を預けるように、男が倒れていた。
 それは帰ったはずの受付の男だった。

「おい、どうした!?」

 駆け寄って声をかけてみる。
 だが、やはり反応は無い。
 肩を掴んで揺すってみる。
 すると、まるで糸の切れた人形であるかのように、「ぐにゃり」と壁に預けられていた上半身は前に倒れた。
 体に力がまったく無い。
 まるで筋肉が異常にゆるんでいるような、そんな柔らかさ。
 何かの突発的な病気だろうか? なんにしてもこれは自分にはどうにも出来ない、そう思った男は立ち上がり、

「待ってろ」

 後ろポケットに入っている携帯端末に手を伸ばそうとしたが、

「!」

 驚きに、男の手は止まった。
 いつのまにかドアが開いており、そこに知らない男が立っていたからだ。
 何の音もしなかったからびっくりした。だが助かった、そう思った清掃員はそいつに声をかけた。

「おいあんた! 人が倒れてたんだ、手を貸してくれ!」

 が、

「……」

 その男は反応を示さなかった。

「……おい、どうした?」

 怖くなりながら、清掃員が再び声をかける。

「……」

 しかし男はやはり何も答えない。
 直後、清掃員は気付いた。
 男の目線が変なのだ。
 こっちを視界の中心にとらえていない、焦点が合っていない、そのように見えた。
 そもそも、この異常事態を前にしてなぜなにも言わない?!
 清掃員の恐怖は頂点に達しようとしていた。
 ゆえに清掃員はその恐怖に抗うように叫びだした。

「おい、あんた! いったい、」

 が、

「! うあぁっ!?」

 直後に突然体当たりを仕掛けてきたそれに対し、清掃員の精一杯の虚勢はただの悲鳴に変わった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

呪詛人形

斉木 京
ホラー
大学生のユウコは意中のタイチに近づくため、親友のミナに仲を取り持つように頼んだ。 だが皮肉にも、その事でタイチとミナは付き合う事になってしまう。 逆恨みしたユウコはインターネットのあるサイトで、贈った相手を確実に破滅させるという人形を偶然見つける。 ユウコは人形を購入し、ミナに送り付けるが・・・

雪山のペンションで、あなたひとり

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ホラー
あなたは友人と二人で雪山のペンションを訪れたのだが……

狙われた女

ツヨシ
ホラー
私は誰かに狙われている

友達アプリ

せいら
ホラー
絶対に友達を断ってはいけない。友達に断られてはいけない。 【これは友達を作るアプリです。ダウンロードしますか?→YES NO】

マネキンの首

ツヨシ
ホラー
どこかの会社の倉庫にマネキンがあった。

山を掘る男

ツヨシ
ホラー
いつも山を掘っている男がいた

村の愛玩動物

ツヨシ
ホラー
営業で走り回っていると小さな村に着いた。

敗者の街 Ⅱ ― Open the present road ―

譚月遊生季
ホラー
※この作品は「敗者の街 ― Requiem to the past ―」の続編になります。 第一部はこちら。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/33242583/99233521 イギリスの記者オリーヴ・サンダースは、友人ロデリック・アンダーソンの著書「敗者の街」を読み、強い関心を示していた。 死後の世界とも呼べる「敗者の街」……そこに行けば、死別した恋人に会えるかもしれない。その欲求に応えるかのように、閉ざされていた扉は開かれる。だが、「敗者の街」に辿り着いた途端、オリーヴの亡き恋人に関する記憶はごっそりと抜け落ちてしまった。 新たに迷い込んだ生者や、外に出ようと目論む死者。あらゆる思惑が再び絡み合い、交錯する。 オリーヴは脱出を目指しながらも、渦巻く謀略に巻き込まれていく…… ──これは、進むべき「現在」を切り拓く物語。 《注意書き》 ※記号の後の全角空白は私が個人的にWeb媒体では苦手に感じるので、半角にしております。 ※過激な描写あり。特に心がしんどい時は読む際注意してください。 ※現実世界のあらゆる物事とは一切関係がありません。ちなみに、迂闊に真似をしたら呪われる可能性があります。 ※この作品には暴力的・差別的な表現も含まれますが、差別を助長・肯定するような意図は一切ございません。場合によっては復讐されるような行為だと念頭に置いて、言動にはどうか気をつけて……。 ※特殊性癖も一般的でない性的嗜好も盛りだくさんです。キャラクターそれぞれの生き方、それぞれの愛の形を尊重しています。

処理中です...