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Ep.1 調査隊の船から回収した記録(8)
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小型艇に生存者を運んだ後、ランベルトとレイモンドの二人は指示通りバリケードの前に戻ってきた。
レイモンドがドローンを隙間の前に置き、起動させる。
直後、それは響いた。
「ヘールプッ!」
何者かの、どこからかの助けを求める声。
「ヘーールプッ!」
必死さが感じられる張りつめた叫び声。
これにランベルトは声を上げた。
「バリケードの奥からだ! レイモンド、ドローンを進ませろ!」
言われるまでもなくレイモンドは既に動かしていた。
バリケードを抜け、声がした方向にドローンを走らせる。
しかしその移動はスムーズでは無かった。なぜなら、
「くそ、散らかってるな」
直後にレイモンドの口からこぼれた愚痴のとおり、通路にはバリケードに積まれているものと同じ備品や資材の類が散乱していた。
暗視カメラの映像が鮮明では無いゆえに、余計にわずらわしい。
声がした方向だけを頼りに通路を曲がる。
その時、レイモンドはふと思った。
なぜ、照明が全て落ちているんだ、と。
電源は生きているはずだ、と。
しかしその疑問は、目の前の作業への集中によって意識の奥に沈み、そして消えてしまった。
そして直後、
「!」
カメラに映った『それ』を見たレイモンドは思わず操作する手を止めてしまった。
そこら中に散乱した血痕、それはそう見えた。
暗視カメラの映像ゆえに色の判別は出来なかったが、壁などに描かれたその紋様は映画などで何度も見た血しぶきにそっくりだった。
だが、その血を流した者の姿は見当たらない。攻撃者の気配もだ。
「ヘーールプッ!」
まるで催促しているかのように救助を求める叫び声が再び響く。
それは距離感がわかるほどに鮮明な響きであった。
「そこを曲がった先だ!」
ランベルトの指示通り、トイレに続く通路へとドローンを滑らせる。
直後、思ったとおりそれはそこにいた。トイレの入り口の横に足を伸ばして座り、壁に背を預けていた。
第二の生存者。
前に垂れている長い髪のせいで顔は確認出来ないが、体型から女性だと判別出来る。
そしてその衣服には血がべっとりとついていた。
だが、衣服自体に損傷は見られない。
返り血だろうか? そう思えるものが彼女の右手に握られていた。
包丁だ。使用したと思われる色がべっとりとついている。
ゆえにランベルトは指示を仰いだ。
「隊長! どうします!?」
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