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最終話 二人の未来は(2)

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   ◆◆◆

「朝だよ起きて!」

 月曜日の朝、俺は彼女の声で飛び起きた。
 寝過ごしてしまったのか?! 思わず時計を見る。
 ……大丈夫だった。少し寝坊した程度。
 これなら急ぐ必要は無い。余裕で間に合う。そもそも、目覚ましの設定が早すぎなのだ。
 だから俺はのんびりと立ち上がり、背伸びをしながら朝食の準備にかかった。
 彼女は既に台所に立っていた。
 シャツ一枚だけというラフな格好。以前の俺だったら確実に目の毒だっただろう。そういう俺も下着だけだが。

 進学後、俺達は同棲を開始した。
 学生寮に入ったら会いにくくなるかもしれない、そう思ったから話し合いの末、こうなった。
 先に言った「準備」というのはこれのことだ。
 住居のことだけじゃない。学科は何を取るかとか、そういうことも話し合った。
 彼女は大学院に進むかもしれないと言った。
 その点については俺ははっきりとは答えられなかった。俺は就職するような気がする。研究生になりたいという気持ちがまったく無いからだ。
 近場で職を探し、彼女の学院生活を支える、そうなるような気がする。
 そう、俺と彼女では目指すものが違うのだ。当たり前のことだが。
 ゆえに取っている講義も違う。
 俺はそれを尋ねた。

「俺は今日は午前中だけだけど、そっちは午後も何かあったよな?」

 これに彼女は卵を焼きながら答えた。

「うん。物性とドイツ語。……ドイツ語を選んだのは失敗だったかなあ」

 外国語は英語以外でなにかを選択することが必須となっている。彼女はドイツを選んでいた。
 だが不服だったらしく、彼女は愚痴を言い始めた。

「ドイツ語ぜんぜん面白くないよう……あの教授の声、なんか眠くなっちゃうし。エイジくんはフランス語だったよね? そっちはどう?」

 俺は同じ愚痴を返した。

「こっちも似たようなもんだよ。わけわからん。男性名詞とか女性名詞だとか、ややこしくてしょうがない」
「一緒だね。ドイツ語にも名詞に性別があるよ」

 そんなことを言い合っているうちに朝食は完成した。
 同じテーブルに並んで座り、

「「いただきます」」

 手を合わせて同じ言葉を響かせる。

 俺は食べている時の彼女が好きであった。
 彼女は食べるという行為自体が好きなようで、その顔は幸せそうなものになるのだ。
 見ていて飽きない。

 そして思う。
 大学を卒業しても、いまと変わらない幸せな食卓を彼女と囲み続けたいなあ、と。
 そのためならば俺は体も張るつもりだ。
 なにより、明るい彼女と一緒であれば大抵の困難は乗り越えられるだろう。そんな気がするのだ。

   Fin
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