上 下
45 / 70

第五話 そしてエイジはついに勇気を出す(4)

しおりを挟む

   ◆◆◆

 映画鑑賞は楽しかった。ハズレは無かった。
 それは間違い無い。だが、

「「……」」

 三本目の中盤にさしかかる頃には、部屋の空気は奇妙なものになっていた。
 原因は全ての映画にあった。
 あるシーンのせいだ。
 その問題のシーンが、いま再び画面に映っていた。
 それは男女の愛を表現をしたシーンであった。
 キスなどのソフトなものでは無い。
 つまりそういうことだ。

「「……」」

 このシーンを見るのは三度目。
 つまり、これまで見たすべてが大当たりなのだ。
 一本目のヒーローアクションではヒロインとのシーンがあった。二本目はラブロマンスだったのであっても不思議ではなかったが、三本目は避けるためにミステリーを選んだのだ。
 なのに大当たりだ。

「「……」」

 当たり前のように気まずい。
 しかもよりにもよってこの三本目のシーンが一番悩ましい。
 そこまで描写しなくていい、というところまで攻めてくる。
 登場人物の関係性を掘り下げてミスリードを誘うためだろうが、こんなに頑張らないでほしい。
 しかも長い。早く終わってくれ!
 さすがにこの空気には彼女も耐えられなかったのか、

「飲み物いれなおしてくるね。またコーヒーでいい?」

 などと、親切を装った逃亡宣言を放った。
 だが当然責めることは出来ない。俺も逃げ出したいのだから。
 そして何より、その宣言は俺にとってもありがたかった。一人のほうが気楽だからだ。
 だから俺が「うん」と答えると、彼女はカップを乗せたトレイを持って気持ち早めに部屋から出ていった。

「……」

 そうして一人になった俺はシーンを淡々と眺めた。
 やはり一人のほうが邪念を消しやすい。
 そして予想通り、彼女はシーンが終わってから戻ってきた。
 しかしその手のトレイには、コーヒー以外のものが乗っていた。

「初めて作ったものだから、あまり自信無いんだけど……」

 そう言いながら出されたそれはプリンであった。
 渡されたスプーンでぱくりと一口。

「どうかな?」

 おいしい、俺が素直な感想を返すと、彼女は素敵な笑顔を見せてくれた。

 思えば、彼女の手料理を食べたのはこの時が初めてだったはず。
 なのにこの時の俺にはそれに対しての感動は薄かった。
 やはりあのシーンが強烈すぎたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

らぶこめ! わたしのツンが消える時

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
恋愛
ある出来事をきっかけに離れることになった二人が再びくっつくお話です。 青春時代ならでは心の変化と成長を主軸に描いた物語です。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

その傘をはずして

みたらし
恋愛
高校三年生の夏。 クラスメイトの悪ふざけで行内一の美女、雅田伊織に告白することになった月島歩。 告白は何故か快諾されたが、そこには伊織のある思惑があった――。 ※小説家になろう、エブリスタでも公開中。

処理中です...