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第四話 恋と衝撃の秋(13)

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「「……」」

 微妙な空気が漂ったのを俺は感じ取った。
 だから俺は、

「まあいいか。そこまで寒くないし」

 などと強がりながら、持つ手が痛くなりそうなコーヒーを取り出した。
 冷たさを意識しないようにしながら蓋を開け、口をつける。

「……」

 味の感想は言えなかった。
 そんな俺が哀れになったのか、

「やっぱり冷たいんでしょ? 変に我慢しなくていいよ」

 そしてやはり今日の彼女は少し浮かれすぎているらしく、

「はいどうぞ」

 とんでもないおすそ分けを提案してきた。
 いや、間違い無くそれを飲めば温まるとは思う。
 でもそれには口をつけなければいけないわけで。
 でも断ると逆に意識して気まずくなりそうだ、そう思った俺は意を決して口をつけた。
 ……暖かい。でも、味はよく分からなかった。
 彼女はこういうことが気にならない性格なのだろうか? そんなことを考えながら俺がコーンポタージュを返すと、彼女は戸惑うことなく口をつけた。

「……」

 何事も無いかのようにポタージュを飲むその姿を見ていると、自分がバカのように思えてきた。
 だから俺は気を取り直してコーヒーに口をつけなおした。
 だが、やはり勢いよくは飲めなかった。
 だから彼女のほうが先に飲み終えた。
 そして何もせずに俺が飲み終えるのを待つのが退屈だったのか、彼女は口を開いた。

「でも、本当によく頑張ったよね、影野くんは」

 これに俺は「え?」などと間の抜けた言葉を返してしまったが、彼女は気にもせずに言葉を続けた。

「影野くんのおかげで良い文化祭になったんだと思うよ。あの綺麗な外装とか、先生に褒められたし」

 あれは板宮がすごいんであって、俺は大したことはしてないと答えたが、彼女はそんな俺の言葉を否定した。

「ううん、影野くんがやる気を見せたから板宮くんも、みんなも真面目に手伝ってくれたんだよ。影野くんが頑張って無かったら、私も手を抜いてたと思う」

 その言葉は嬉しかったが、同時にむずがゆかった。
 だから俺は残ったコーヒーを一気に飲み干し、

「そろそろ帰ろう」

 照れていることを隠したまま逃げるために、話を打ち切った。
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