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第二話 そしてエイジは男になる(2)

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 勝利の女神を振り向かせるために必死で足を前に出す。
 およそ200メートルのところで抜ける、彼女を振り向かせられる、そう見えた。
 だが、

「っ!」

 その200メートル地点でそれは起きた。
 突然相手が後ろから抜き去ろうとした俺のほうに倒れるようによろめいた、はた目からはきっとそう見えただろう。
 しかし実際は違った。
 みぞおちに鋭いものを叩き込まれた、俺の体に走った痛みはそれによるものだった。
 何が起きたのか、それはすぐに分かった。
 だから叫んだ。

(この野郎!)

 前から肘を入れてきやがった!
 ちゃんとした審判がいないことを利用した汚い手。
 ふざけやがって! 俺は心の中でそう叫んだ。
 この時は彼女のことは頭から消えていた。
 このクソ野郎に勝つ、勝ちたい、それしか無かった。

「おおらああぁっ!」

 人生で初めて、男として吼えた。
 叫ぶことで有利になるという科学的根拠があるのかどうかは知らないが、その叫びは勝手に俺の口から飛び出した。
 しかしこの時はこれで正解だった。
 叫びは俺の体から痛みと苦しみを一時的に消してくれたからだ。
 そして俺はその勢いで相手を抜き去り、勝利を手にした。

「よっしゃあぁっ!」
「ナイスラン!」
「やったー!」

 同じクラスの男女がそれぞれに歓声を上げる。
 だが、俺はその中から一人だけを探した。
 そして俺はすぐに安心した。
 彼女もみなと同じ笑顔だったからだ。
 いや、この時の俺には彼女の笑顔は他の誰よりも眩しく見えていた。
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