9 / 70
第一話 太陽に照らされて目覚めるエイジ(9)
しおりを挟む◆◆◆
だが、その日から何かが変わった。
「なあ、アレやってきたか?」
いつも通りのある休み時間、前の席の男友達がまるで何かの探りを入れるかのように話しかけてきた。
いや、実際のところ探りをいれていたのだろう。自分と同じ仲間がいないか探しているのだ。
しかし何のことを言っているのかわからなかった俺は素直に聞き返した。
「アレってなんのことだ?」
これに、友達は少し嬉しそうな顔で答えた。
「数学の宿題のことだよ! 今日の五限目に提出だぞ!」
しまった、俺はそう思った。そしてそれは顔に出てたと思う。
だから俺は正直に白状した。
「ヤバい。完っ全に忘れてた」
その期待していたであろう俺の答えに、友人はやはり嬉しそうな顔をした。
しかし俺はそれどころでは無かった。
「昼休みにやるしかないか」
憂鬱だ。俺は心の中でため息を吐いた。
が、直後、
「影野くん」
なんと、彼女が声をかけてきた。
そして彼女はお見舞いの時と同じように、ノートを差し出しながら言った。
「これ使っていいわよ」
それはつまり、宿題を写させてくれるということか? などと俺はまぬけな質問をしそうになったが、彼女はそんな俺のまぬけ顔を、違う意味で受け止めていた。
だから彼女は言った。
「この前のお礼。だから気にしないで」
何のお礼だ? 危うく俺は聞き返しそうになった。
その言葉は彼女なりの自己防衛なのだ。
周りから変な目で見られたくない、そのための予防線なのだ。
それに気付いた俺は、ただ一言、
「おう、サンキュー」
とだけ返した。
このように彼女と話す機会が増えた。彼女から話しかけてくることが多くなった。
いまのような宿題の写し合いや、先輩からもらった過去問の共有なんてことも自然にやるようになった。
そしてただの雑談までするようになった。
女子と雑談したことなんて無かったが、特に緊張はしなかった。
そう、普通で自然だ。それが当時の俺にはとても素晴らしいことに感じられた。
腐ってた自分が普通になれた、その実感が嬉しくてしょうがなかった。
そして同時に知った。互いに敬意を払い合える、そんな関係を築くことが何よりも重要で素晴らしいことなのだと。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
らぶこめ! わたしのツンが消える時
稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
恋愛
ある出来事をきっかけに離れることになった二人が再びくっつくお話です。
青春時代ならでは心の変化と成長を主軸に描いた物語です。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
二十歳の同人女子と十七歳の女装男子
クナリ
恋愛
同人誌でマンガを描いている三織は、二十歳の大学生。
ある日、一人の男子高校生と出会い、危ないところを助けられる。
後日、友人と一緒にある女装コンカフェに行ってみると、そこにはあの男子高校生、壮弥が女装して働いていた。
しかも彼は、三織のマンガのファンだという。
思わぬ出会いをした同人作家と読者だったが、三織を大切にしながら世話を焼いてくれる壮弥に、「女装していても男は男。安全のため、警戒を緩めてはいけません」と忠告されつつも、だんだんと三織は心を惹かれていく。
自己評価の低い三織は、壮弥の迷惑になるからと具体的な行動まではなかなか起こせずにいたが、やがて二人の関係はただの作家と読者のものとは変わっていった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる