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第一話 太陽に照らされて目覚めるエイジ(2)

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 しかしそれよりも自分に影響を与えたのは、彼女が部活をやっていて、そこそこ良い成績を出しているのを知った時だ。
 そして俺は陸上部に入った。
 動機はその時はよくわからなかった。カッコつけたかっただけなのかもしれない。優しい彼女に変な対抗心を燃やしたのかもしれない。
 陸上部にした理由は、俺は運動が苦手だったからだ。でも走るくらいならば、そんな軽い考えで入った。
 後悔はすぐに訪れた。かなりキツかった。俺はサボることが多くなった。
 モヤモヤした。サボりへの罪悪感かと思ったが、違うように思えた。
 そしてその答えは意外な記憶から手に入った。
 それはノートを借りた時のことだ。
 俺はまともなお礼を言ってなかったのだ。
 はっきりとは覚えていないが、「ああ」とか「おう」とかそんな返事しかしていなかったと思う。

 だから気付いたんだ。これは憧れだと。

 彼女は優しい。俺は冷たい。
 彼女は面倒見がいい。俺は違う。
 彼女は努力家だ。しかし俺には根気が無い。

 そうだ。彼女は俺に無いものを色々持っていたのだ。彼女と比べれば俺は影のような存在だった。
 まったくもって滑稽で馬鹿な話だ。他人を通じてようやく自分を知ることが出来たのだから。

 その日から俺は変わろうとした。
 部活をサボらず、他人に気を配り、温和な態度を取るように心がけた。

 それからしばらくの間、彼女のことが意識に入らなくなった。
 自分を今よりマシな人間にする、それしか頭に無かった。

 そして俺は二年生になった。
 彼女とはまた同じクラスだった。

 それは奇妙な縁に感じられた。だからまた彼女のことが意識に入るようになった。
 しかし自分を今よりマシな人間にするという意識は変わらなかった。むしろそれが一番重要だった。
 奇妙な縁だが、結局は一年の時と変わらない、同じ距離感のまま同じ一年が過ぎる、そう思っていた。

 しかしこれはやはり奇妙な縁だった。
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