Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

文字の大きさ
上 下
464 / 586
最終章

第五十二話 成す者と欲する者(1)

しおりを挟む


   ◆◆◆

  成す者と欲する者

   ◆◆◆

 三ヵ月後――

「戻ったか。それで、どうだった?」

 ある任務を終えて帰ってきたフレディに対し、サイラスは尋ねた。
 そして返ってきた答えはサイラスが予想していた通りのものだった。

「大将が言った通りになりました」

 それ以上言うことは無いらしく、フレディの報告はたったそれだけで終わった。
 だからサイラスは、

「そうか」

 と、同じように短い言葉を返した。
 それを聞いたフレディは部屋を出ようとしたが、

「待て。まだ話がある」

 サイラスは呼び止め、言葉を続けた。

「今後のことについて話したいことがある。そしてそれについて意見を聞きたい」

「言った通り」とは、何の事なのか。そしてサイラスが描いている「今後の予定」とは何なのか。
 それは――

   ◆◆◆

 フレディが見に行ったもの、それはアランとリリィの結婚式であった。
 アランがリリィを連れて自城に、元カルロの城に戻ってから一ヵ月後にそれは行われた。
 梅雨の時期であったがその日は幸運にも快晴であった。
 しかしこの結婚はディーノの時とは意味が少し違っていた。
 まず第一に、この街ではディーノが強者であるという印象がまだ薄い。ディーノの出身地であるため、無能が将軍になったという事実は既に周知されているが、強い無能力者が存在するという現実が魔法使いに受け入れられていない。ディーノがアランの親友だったから、その印象の方が勝ってしまっている。
 ゆえに、この結婚に対して魔法使い達の一部は警戒の色を見せた。
 アランが無能の女にたぶらかされたのだ、そんな勘繰りをする者がいた。
 そしてそのような者達は思った。リリィという女狐はアランを上手く利用するだろうと。
 魔法使いに復讐しようとするのでは無いか、魔法使いと無能の関係を逆転させ、我々を苦しめるつもりなのではないか、リリィの事を何も知らない者達がそのようなことを勝手に連想し、そして調べもせずにそのような事を噂して回った。
 これに対し、アランは「手っ取り早い手」を使うことにした。
 それは武神の号令。
 式の開始と同時に、アランはリリィが持つ「無条件の希望」を民に共感させたのだ。
 この後、魔法使いと無能の関係をどうするのか、という自身の考えと共に。
 魔法使い側に偏りすぎた制度を平等にするだけだと、一方が極端に不利になるようなことはしないと、その考えをアランは希望の感覚と共に放った。
 既にある魔法使いの利権については少々のいざこざが発生する可能性が高いが、それについてはアランは隠した。
 それでもアランには上手く行く自信があった。
 仕事能力という点で見れば、無能と魔法使いに差は無いからだ。
 妹に諭されて武の道から一時外れた時、アランはそれを学んだ。貧民街が馬鹿に出来ない経済力を持っていたことを。
 彼らが貧しいのは単純に魔法使いによる中間搾取が大きいからであった。貧民街にいる無能達は下請けとして十分な仕事をしていたのだ。
 それを知る上で、あの挫折は必要な過程だったのだ。
 よく考えれば当たり前である。光魔法などは戦闘以外ではほとんど役に立っていないのだから。通常の仕事で無能と魔法使いに差が出るわけがない。
 つまり、アランの狙いは雇用の自由化、人員の適切な配置による経済の活性化であった。今の無能の一部には仕事を選ぶ自由すら無い。得意不得意、経験の有無にかかわらずだ。
 アランはその考えと共に武神の号令を放った。
 これに、民の心は明るい色で染まった。
 きっと万事良くなる、何もかも上手くいく、そんな感覚に支配され舞い上がった。
 特に貧民街の熱気は異常と呼べるほどに高まった。
 その結婚が意味するもの、そこから生じる恩恵を最も享受出来るのが自分達だからだ。

「新たな時代に祝福あれぇーっ!」

 様々な家から、職場から、そして酒場からそのような声が止む事無く上がった。

 しかし当然、フレディの目的はこれを見るだけでは無かった。
 アランはリリィを使って具体的に何をやるのか、それを知ることがフレディの任務であった。
 それは――
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...