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最終章
第五十二話 成す者と欲する者(1)
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成す者と欲する者
◆◆◆
三ヵ月後――
「戻ったか。それで、どうだった?」
ある任務を終えて帰ってきたフレディに対し、サイラスは尋ねた。
そして返ってきた答えはサイラスが予想していた通りのものだった。
「大将が言った通りになりました」
それ以上言うことは無いらしく、フレディの報告はたったそれだけで終わった。
だからサイラスは、
「そうか」
と、同じように短い言葉を返した。
それを聞いたフレディは部屋を出ようとしたが、
「待て。まだ話がある」
サイラスは呼び止め、言葉を続けた。
「今後のことについて話したいことがある。そしてそれについて意見を聞きたい」
「言った通り」とは、何の事なのか。そしてサイラスが描いている「今後の予定」とは何なのか。
それは――
◆◆◆
フレディが見に行ったもの、それはアランとリリィの結婚式であった。
アランがリリィを連れて自城に、元カルロの城に戻ってから一ヵ月後にそれは行われた。
梅雨の時期であったがその日は幸運にも快晴であった。
しかしこの結婚はディーノの時とは意味が少し違っていた。
まず第一に、この街ではディーノが強者であるという印象がまだ薄い。ディーノの出身地であるため、無能が将軍になったという事実は既に周知されているが、強い無能力者が存在するという現実が魔法使いに受け入れられていない。ディーノがアランの親友だったから、その印象の方が勝ってしまっている。
ゆえに、この結婚に対して魔法使い達の一部は警戒の色を見せた。
アランが無能の女にたぶらかされたのだ、そんな勘繰りをする者がいた。
そしてそのような者達は思った。リリィという女狐はアランを上手く利用するだろうと。
魔法使いに復讐しようとするのでは無いか、魔法使いと無能の関係を逆転させ、我々を苦しめるつもりなのではないか、リリィの事を何も知らない者達がそのようなことを勝手に連想し、そして調べもせずにそのような事を噂して回った。
これに対し、アランは「手っ取り早い手」を使うことにした。
それは武神の号令。
式の開始と同時に、アランはリリィが持つ「無条件の希望」を民に共感させたのだ。
この後、魔法使いと無能の関係をどうするのか、という自身の考えと共に。
魔法使い側に偏りすぎた制度を平等にするだけだと、一方が極端に不利になるようなことはしないと、その考えをアランは希望の感覚と共に放った。
既にある魔法使いの利権については少々のいざこざが発生する可能性が高いが、それについてはアランは隠した。
それでもアランには上手く行く自信があった。
仕事能力という点で見れば、無能と魔法使いに差は無いからだ。
妹に諭されて武の道から一時外れた時、アランはそれを学んだ。貧民街が馬鹿に出来ない経済力を持っていたことを。
彼らが貧しいのは単純に魔法使いによる中間搾取が大きいからであった。貧民街にいる無能達は下請けとして十分な仕事をしていたのだ。
それを知る上で、あの挫折は必要な過程だったのだ。
よく考えれば当たり前である。光魔法などは戦闘以外ではほとんど役に立っていないのだから。通常の仕事で無能と魔法使いに差が出るわけがない。
つまり、アランの狙いは雇用の自由化、人員の適切な配置による経済の活性化であった。今の無能の一部には仕事を選ぶ自由すら無い。得意不得意、経験の有無にかかわらずだ。
アランはその考えと共に武神の号令を放った。
これに、民の心は明るい色で染まった。
きっと万事良くなる、何もかも上手くいく、そんな感覚に支配され舞い上がった。
特に貧民街の熱気は異常と呼べるほどに高まった。
その結婚が意味するもの、そこから生じる恩恵を最も享受出来るのが自分達だからだ。
「新たな時代に祝福あれぇーっ!」
様々な家から、職場から、そして酒場からそのような声が止む事無く上がった。
しかし当然、フレディの目的はこれを見るだけでは無かった。
アランはリリィを使って具体的に何をやるのか、それを知ることがフレディの任務であった。
それは――
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