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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十三話 試練の時、来たる(18)
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◆◆◆
教会を出たルイスが向かった場所は、前に蜘蛛と再会したところであった。
そこは「ルイス達」がよく使う密会場であり、ルイスを呼び出した客は既にその場所で待っていた。
「久しぶりね。早速『調整』をお願いするわ」
それはシャロンであった。
彼女が放った第一声には必要なことだけ早く済ませたい、という事務的な感情しか含まれていなかった。
ゆえにルイスは少しうんざりしながら挨拶を返した。
「……久しぶりだな。調子はそんなに悪いのか? あんなに五月蝿い虫を送ってくるなんて、君にしては珍しい」
これにシャロンは正直に頷きを返し、口を開いた。
「……重要なところを、闘争心を大きくいじられたわ。しかもすぐには気付けないほど静かに、かつ速く」
その答えにルイスは「それはまずいな」と返したが、双方の感情には大きな開きがあった。
それを感じ取ったシャロンは少しイラつきながらも、
「だから今日はいつもよりもじっくりお願いするわ」
と、彼女にしては比較的に丁寧に頼み込んだ。
「分かった。じゃあ見せてくれ」
ルイスがそう言うと、シャロンはうなじを見せるようにその場に座りながら背を向けた。
ルイスは彼女の背後に立ち後頭部を凝視するように、その頭を両手で挟み込むように掴んだ。
「……」
そしてルイスは静かに目を閉じ、意識を集中させた。
ルイスはシャロンの頭の中を見ていた。
正確には脳と魂から発せられる波を、だ。
自分から適当な波を送り込んで、どう反応するかも調べている。
目星はついていた。
静かで、かつ速かったということは、手段はかなり限られるからだ。
事前にかなりの準備がされていたはず。
そしてその準備は定期的な自己点検を回避していたということ。
ならば、実行犯はある程度自由に動ける魂であるはずだ。
理性と本能は神経網である。自由に動くことが出来ないため、点検から逃れることは出来ない。
普段本能が管理している闘争心の神経回路とそれに繋がるものを魂を使って改変、または繋ぎ変えたのだろう。
ここで理性と本能と魂の関係についての説明を補足しておこうと思う。混沌を語る上で重要な情報だからだ。
先に述べられたように理性と本能は神経網である。信号は魔力と電気であり、それが脳波となる。それが魂との大きな違いである。魂も独自の波を出しており、アランはまだこれを検出していないだけである。
そして魂はその神経網に影響を及ぼすことが出来る。が、破壊は難しい。かなり魂が消耗する。ただの虫では不可能に近い。
だが神経網の代わりを務めることなら簡単だ。経路の作成、条件分岐の増加自体はそう難しく無いのである。これがシャロンに起きている問題と混沌を理解する上で重要である。
魂によって行われる理性と本能の抹殺は破壊によるものである。感覚器官と運動器官、計算や記憶を司る器官との接続を全て切断しているのである。理性と本能からすれば、全ての機能と感覚が失われることになり、それは確かに死に近い。
しかしこの破壊が実施されるのは一回目だけになることが多い。消耗が激しく、全ての接続を断とうとするとやはり手間と時間がかかるからだ。以降は神経回路の再生を待たず、接続を魂がずっと代替する場合がほとんどである。
実はあの時のリーザの魂は参戦した時点でかなり消耗していたのである。そしてリーザの本能が述べた通り、再接続の前に改造が行われることも珍しく無い。魂が表に立つことは普通の人にとっては異常事態であり、そのようなことが二度と起きないように、より上手く立ち回れるように性格や考え方を変えるのである。
つまり混沌とは、大量にある様々な部品を、状況に応じて魂で繋ぎ変えているだけなのである。
このように詳細を見れば混沌は完璧、無敵には程遠いことがよく分かる。知っていれば弱点だらけであると言っても間違いでは無い。構造を知っているのであれば外部からの破壊も可能だ。接続は魂に頼っているのだから。魂は魂で直接攻撃出来る。
ならばすなわち、一度天に至った人間は理性と本能にある共通の弱点を抱いていることも、察しの良い方は気付いたはずだ。接続の位置さえ知っていれば容易に攻撃出来る。利点と欠点は表裏一体であることが多い。
話を元に戻そう。
教会を出たルイスが向かった場所は、前に蜘蛛と再会したところであった。
そこは「ルイス達」がよく使う密会場であり、ルイスを呼び出した客は既にその場所で待っていた。
「久しぶりね。早速『調整』をお願いするわ」
それはシャロンであった。
彼女が放った第一声には必要なことだけ早く済ませたい、という事務的な感情しか含まれていなかった。
ゆえにルイスは少しうんざりしながら挨拶を返した。
「……久しぶりだな。調子はそんなに悪いのか? あんなに五月蝿い虫を送ってくるなんて、君にしては珍しい」
これにシャロンは正直に頷きを返し、口を開いた。
「……重要なところを、闘争心を大きくいじられたわ。しかもすぐには気付けないほど静かに、かつ速く」
その答えにルイスは「それはまずいな」と返したが、双方の感情には大きな開きがあった。
それを感じ取ったシャロンは少しイラつきながらも、
「だから今日はいつもよりもじっくりお願いするわ」
と、彼女にしては比較的に丁寧に頼み込んだ。
「分かった。じゃあ見せてくれ」
ルイスがそう言うと、シャロンはうなじを見せるようにその場に座りながら背を向けた。
ルイスは彼女の背後に立ち後頭部を凝視するように、その頭を両手で挟み込むように掴んだ。
「……」
そしてルイスは静かに目を閉じ、意識を集中させた。
ルイスはシャロンの頭の中を見ていた。
正確には脳と魂から発せられる波を、だ。
自分から適当な波を送り込んで、どう反応するかも調べている。
目星はついていた。
静かで、かつ速かったということは、手段はかなり限られるからだ。
事前にかなりの準備がされていたはず。
そしてその準備は定期的な自己点検を回避していたということ。
ならば、実行犯はある程度自由に動ける魂であるはずだ。
理性と本能は神経網である。自由に動くことが出来ないため、点検から逃れることは出来ない。
普段本能が管理している闘争心の神経回路とそれに繋がるものを魂を使って改変、または繋ぎ変えたのだろう。
ここで理性と本能と魂の関係についての説明を補足しておこうと思う。混沌を語る上で重要な情報だからだ。
先に述べられたように理性と本能は神経網である。信号は魔力と電気であり、それが脳波となる。それが魂との大きな違いである。魂も独自の波を出しており、アランはまだこれを検出していないだけである。
そして魂はその神経網に影響を及ぼすことが出来る。が、破壊は難しい。かなり魂が消耗する。ただの虫では不可能に近い。
だが神経網の代わりを務めることなら簡単だ。経路の作成、条件分岐の増加自体はそう難しく無いのである。これがシャロンに起きている問題と混沌を理解する上で重要である。
魂によって行われる理性と本能の抹殺は破壊によるものである。感覚器官と運動器官、計算や記憶を司る器官との接続を全て切断しているのである。理性と本能からすれば、全ての機能と感覚が失われることになり、それは確かに死に近い。
しかしこの破壊が実施されるのは一回目だけになることが多い。消耗が激しく、全ての接続を断とうとするとやはり手間と時間がかかるからだ。以降は神経回路の再生を待たず、接続を魂がずっと代替する場合がほとんどである。
実はあの時のリーザの魂は参戦した時点でかなり消耗していたのである。そしてリーザの本能が述べた通り、再接続の前に改造が行われることも珍しく無い。魂が表に立つことは普通の人にとっては異常事態であり、そのようなことが二度と起きないように、より上手く立ち回れるように性格や考え方を変えるのである。
つまり混沌とは、大量にある様々な部品を、状況に応じて魂で繋ぎ変えているだけなのである。
このように詳細を見れば混沌は完璧、無敵には程遠いことがよく分かる。知っていれば弱点だらけであると言っても間違いでは無い。構造を知っているのであれば外部からの破壊も可能だ。接続は魂に頼っているのだから。魂は魂で直接攻撃出来る。
ならばすなわち、一度天に至った人間は理性と本能にある共通の弱点を抱いていることも、察しの良い方は気付いたはずだ。接続の位置さえ知っていれば容易に攻撃出来る。利点と欠点は表裏一体であることが多い。
話を元に戻そう。
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