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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく

第三十八話 軍神降臨(10)

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   ◆◆◆

“クラウス!”

 その声に、クラウスは目を覚ました。

「っ……うっ」

 今のはアラン様の声だったような、そんな事を考えながら痛む体を無理矢理起こす。

「……?」

 そして目に入ったのは、その場に膝をついてひざまずき、うつむいているリーザの姿。

「……げほっ! げほっ!」

 リーザは吐いていた。
 垂れている髪に汚物がはねていることに気付かないほどに、苦しんでいる。
 それを見たクラウスの心に最初に浮かんだのは安堵感。
 自分が気を失っていた間に追撃されなかった理由が分かった。
 そして次に心の中に浮かんだのは疑惑と理解。
 なぜ? と思ったのとほぼ同時に答えが分かった。
 今のリーザは酔っている。
 彼女の動きを制御している神経が混乱を起こしているのだ。
 視覚や聴覚から得られる情報と、自分の動きの感覚が一致していないからだ。
 しかしなぜそんな事が彼女に身に起きているのか。

(……多分、私のせいなのだろうな)

 リーザとの線は繋がったままだ。
 無意識のうちに、私はこの線を使ってリーザに何かしたのだろう。

「……」

 師は「線」では無いといった。
 では本当の姿はなんなのか。
 それどころか、まだ使い方がはっきりとわかっていない。
 他人と精神を共有することが出来るようだが……

(いや、この説明は何かが違う……というより言葉が不足している?)

 それだけではリーザが酔っている理由がよく分からない。

「……くっ」

 考えながら、体を軋ませながら立ち上がる。
 クラウスの動きに気付いたのか、リーザも立ち上がり始めた。
 その動きはふらついている。
 クラウスの方が体勢を整えるのが速い。
 はずであったが、

「っ!?」

 突如、右ひざに走った痛みに、クラウスは身を硬直させた。

(……膝が割れている?)

 見ると、右ひざはひどく腫れていた。
 力を込めようとしても、ガクガクと揺れるばかりで、力が入らない。
 すねも青黒い。折れてはいないが、ヒビが入っているようだ。
 右足指は何本か折れている感覚。
 先の回避で右足を後ろに残すように跳んだせいだろう。それで右足は爆風の影響を強く受けてしまったのだ。
 目の前でリーザが攻撃態勢を整える。
 爆発魔法が来る、と思ったのと同時に台本が開く。
 この足で避けられるのか?
 だが選択肢は無い。クラウスは比較的無事な左足を使って右へ跳んだ。
 それは簡単に目で追えるほどの回避速度であったが、

「ぐっ!」

 なんとか回避することが出来た。
 爆風に煽られたクラウスの体が地の上を滑る。
 五体が無事ですんだのはリーザが外してくれたおかげだ。
 台本が示した射線より「左」にそれていた。
 次に備えてすぐに体を起こす。
 立ち上がったのとほぼ同時にリーザが次弾を発射。
 台本に従い、クラウスは左に跳んだ。

「っぁぐ!」

 クラウスの口から再び悲鳴が漏れる。
 衝撃波がクラウスの体を軋ませ、吹き飛ばす。

「がはっ!」

 背中が地面に叩きつけられたことで押し出された肺の空気も悲鳴に変わった。

「……う、ぅあ」

 よろよろと立ち上がる。
 しかし五体はいまだ健在。ヒビは増えたような気がするが。

(まただ)

 また、台本と違っていた。
 射線がずれている。
 今度は「右」にそれていた。

(なんで――)

 考えながら気付く。
 耳鳴りがひどい。
 その耳鳴りが消えつつある。
 しかし聴覚が回復している感じはしない。
 それどころか、何も聞こえなくなってきている。

「……?」

 リーザは既に次の攻撃態勢に入っている。
 しかしその動作がゆっくりだ。
 そして色が無い。全てが白黒だ。
 まさか、これもアラン様の能力なのか。
 アラン様はこんなに静かで、そしてゆっくりとした世界で戦っていたのか。
 しかもアラン様には台本がある。
 道理で強いわけだ。

(……マズいな)

 しかしこの能力を持ってしても、恐怖をぬぐえない。
 次の攻撃は連射だ。
 三発、余力次第で四発の攻撃が来る。
 初撃でこちらの動きを見てから、偏差射撃の二発目でこちらの足を止め、三発目で狙ってくる。

(……剣に)

 夢で言われたあの言葉が沸きあがる。

(剣に……身をゆだねる)

 刀身に体重を乗せろという意味ではあるまい。
 あの夢は、この言葉は私の能力と関係があるはずだ。
 他人と精神を共有することが出来る私のこの能力と――

(! ……共有する?)

 ふと気付く。
 まさか出来るのか。
 剣と繋がることが、出来るというのか!?
 思わず刀身に目を向ける。
 呆けたような顔で刀身に映った自分の顔を見つめる。

(? ……何?)

 それを見たリーザも発射寸前のところで動きを止めた。
 しかしそれは一瞬。
 相手が妙な動きをしているがどうでもいい。かまうものかと、爆発魔法を発射。
 初撃で相手の回避方向を見て、二発目で偏差射撃。三発目で狙う。
 そして戦場に響く三度の爆発音。
 結果は――

(え? ……あ、……え?)

 その結果はリーザにはよくわからなかった。
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