Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十話 稲光る舞台(16)

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 魂だけで動けるケビンは少数の仲間と共に路地に入っていた。
 しかし単身の突撃。
 恐怖ですくんだ仲間は誰もついてきていない。
 それでも、シャロンの背後を突く形になってはいる。
 しかしそれが有利に働いているとケビンは思っていない。だから叫んでいる。
 そして接近戦ならば有利になれるとも思っていない。
 彼の頭に勝算など無い。
 サイラスはそれを感じ取った。
 しかし、サイラスの目はその姿に釘付けになった。
 それは、その姿は、サイラスが心のどこかで求めていたものであった。
「圧倒的なもの」ではない。が、この状況を打破出来る可能性を持つものだ。
 そして、今のケビンには誰かがこれをやらなければならないという思いがあった。
 その役目がたまたま自分に巡ってきただけなのだ、ケビンはそう思っていた。
 死ぬかもしれない。そんな考えがケビンの脳裏によぎる。
 しかしケビンは本能が発したその警告を無視した。
 雑念を振り払うように、シャロンに向かって剣を振り下ろす。
 これに対しシャロンが選んだ選択肢は回避。
 ケビンの剣に強力な思念が込められているのを感じ取ったからだ。
 後方に向かって強く地を蹴る。
 鋭く後方に流れ始めるシャロンの影。
 あっという間に剣が届かない距離まで離れる。
 しかし、ケビンは剣を止めなかった。
 ケビンは振り下ろしたその勢いのまま、発光する刀身を石畳の地面に叩き付けた。

「!」

 直後、シャロンは目を細めた。
 甲高い衝突音と共に溢れた光が、ケビンを、シャロンを、そして戦場を包み込んだ。
 が、シャロンはその眩さに目を細めたわけでは無い。
 忌々しさからだ。
 剣から溢れた光に込められていた思念は一つでは無かった。
 大半は「俺を見ろ」というものであったが、隠し切れない恐怖、そしてそれを消すために振り絞った勇気など、漠然としたものも含まれていた。
 そしてその中に、シャロンに向けて放たれたものがあった。
 それは声となってシャロンの頭に響いた。
「魅せてやる」、と。
 その啖呵にシャロンは目を細めたのだ。
 ケビンのこの行動は見事であると、認めたくないから目を細めたのだ。
 しかしシャロンは自分の心を隠しきれなかった。

「……いいわ、」

 自然と口から言葉がこぼれた。

「ならば来い! 私を楽しませて魅せよッ!」

 同時にシャロンの魂は再び吼えた。
 恐怖は含まれていない。純粋な咆哮。
 しかし、空気が震えたかのような威圧感。
 それを肌で感じながら、ケビンは地を蹴った。
 意外なことに、その振動はケビンにとって心地良かった。
 雑念が咆哮で吹き飛ばされていく。
 そしてあとに残った思念は一つだけ。
 ケビンはそれを叫んだ。

「参るッ!」

 振り下ろした剣を引きずりながら駆ける。
 地面と擦れた剣先から火花が散るほどの勢いで。
 シャロンの目が見開き、迫るその像を映す。
 シャロンの顔に笑みが再び戻る。
 ケビンはその緩んだ顔を切り裂かんと、

「でぇやッ!」

 火花と共に剣を振り上げた。
 火の粉が弧を描き、銀色の三日月が描かれる。
 刹那遅れて鮮やかな赤色が銀色に滲む。
 しかしその赤色はシャロンから漏れたものでは無かった。

「……ぁ、ぐ」

 それはケビンの胸に突き立てられた針から垂れたものであった。
 半身分、体をずらす回避行動とともに放たれた反撃の一突き。
 骨の隙間を通した見事な一撃である。
 しかしそれは心の臓にはわずかに達していなかった。
 咄嗟に動いたケビンの左手が針を掴んでいた。
 なんで掴めたのかケビン自身分かっていない。
 避けられる、と感じた次の瞬間には無意識のうちに動いていた。
 運が良かった。ケビンの心に安堵の色がわずかに滲んだ直後、

「!」

 強烈な悪寒がケビンの背中を駆け上がった。
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