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第七章 アランが父に代わって歴史の表舞台に立つ

第四十七話 炎の紋章を背に(8)

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   ◆◆◆

 その後――

「さて、それでは話してくれるか、アラン?」

 城の応接間に戻った王は興奮冷めやらぬまま、アランに尋ねた。
 一体何が起きているのかを。
 アランは王の問いに頷きを返しながら口を開いた。

「もちろんですとも王よ。ですが、私の口からよりも、彼の口から聞いたほうがよろしいでしょう」

 言いながら、アランは視線を入り口の方に移した。
 言われるがまま王がそちらに目を向けると、そこには一人の異人が、雲水が立っていた。
 雲水は王に向かって一礼し、

「お初にお目にかかる王よ。私は和の国から来た雲水と申す者に候」

 挨拶を済ませた後、アランにうながされるまま椅子に腰を下ろした。
 そして王は雲水と目を合わせながら尋ねた。

「和の国からわざわざ? どうしてこの国に?」

 雲水は答えた。

「お話しましょう。私がこの国に来た理由、私の国で、和の国で何があったのか、そしてこの国で何が起きているのかを」

 雲水は順に説明した。
 和の国が魔王と呼ばれる者から攻撃を受けたことを。
 自分はこの国と魔王の関係を調べに来たことを。
 そして分かったこと、それはこの国は和の国と同じ被害者であり、その攻撃は今もなお続いていることを。

   ◆◆◆

「……」

 雲水からの話が終わった後、王は考え込む様子を見せた。
 王にも心当たりがあったのだ。妙なことが何度かあったのだ。
 それらが外部からの介入によるもの、しかもアランのような神秘的な力によるものであると考えれば、すべて納得がいくものであった。
 だからまずどうすべきかはすぐに思い付いた。
 王はそれをアランに尋ねた。

「民には?」

 これにアランは頷きを返し、答えた。

「この街の住人には既に周知済みです。街に潜んでいた毒の排除には民にも協力してもらいました。目は多い方が有利ですので」

 やって然るべき対応が既に成されていたことに王は安堵の頷きを返した後、口を開いた。

「では、この街は良いとして、この後はどうする?」

 これにもアランは当然の答えを返した。

「当然、他の町にも周知を徹底し、警戒と防御の網を広げていくべきでしょう」

 アランはそう言った後、「ですが、」と言葉を繋げ、クリスの方に顔を向けた。
 クリスはアランの視線に頷きを返し、言葉の続きを述べた。

「……同時にやるべきことがあります」

 王が「それは何だ?」と尋ねると、クリスは答えた。

「反乱軍がサイラス軍と旧ガストン軍の二つに分裂したことは既にご存知でしょうが、ガストン側の動きがきな臭いのです」

 これに、王が「というと?」と言葉の続きを促すと、クリスは口を開いた。

「ガストン軍は平原側に陣取りましたが、なぜかその部隊の中に、明らかにこちらに矛先を向けている連中がいるのです」

 そしてクリスは王が「なぜだ?」と問うよりも早く、答えた。

「連中は我々に攻撃されたと思っているようです。確かに戦闘があったのは事実ですが、仕掛けたのは我々ではありません。第三者が我々に偽装して動いているようです」

 方向が分からない突然の奇襲などは、感知能力が無ければ敵の判別は見た目でしか行えない。敵はそれを利用していた。
 クリスは話を続けた。

「感の良い使者に伝書を持たせて使いに走らせましたが、目覚めていない彼らが信じてくれるかどうかは難しいところです。私かアラン将軍のような大きな波を出せる、先ほどの行事で見せたものと同じ規模の現象を起こせる人間が直接乗り込んで、派手に目覚めさせでもしない限り、見込みは薄いですね」

 そしてクリスは「問題はそれだけではありません」と言葉を続けた。

「我が国の南側、商人達の方でも妙な動きが起きています。カルロ将軍の死が既に周知されており、その情報を悪い方に利用されています」

 その言葉の続きはすぐに察しがついた。
 直後、クリスは王が思った通りの言葉を述べた。

「……南の商人達とガストン軍が同じ毒に振り回されているのは明らか。そのうち連携を取り始めるでしょう」

 クリスが言い終えた後、今度はアランが口を開き、言葉を繋げた。

「その矛先のほとんどはこちらに向けられる可能性が高いと見ております」

 なぜか。そう尋ねるまでも無くアランはその理由を述べた。

「サイラス軍には恐ろしく強力な二人の魔法使いが、ラルフとリーザがいます。この二人を止めることは、よほどの地の利が無い限り難しいでしょう。
 なのでガストン軍は北から迫るサイラス軍に押しこまれる形になります。……彼らの逃げ道は南側、我々の領地しかありません」

 アランは「そして、」と言葉を続けた。

「自分の領地を捨てて進軍する以上、ガストン軍が真っ先に狙うのは生産力の高い商人側でしょう。そして彼ら商人達は我々にとっても生命線です」

 そう言った後、アランは「なので、」と言いながら立ち上がり、口を開いた。

「これより私は南側に進軍します。こちらの軍を先に駐留させてしまえば、向こう側もうかつには手を出せなくなりますから」

 既に準備は出来ていることが、軍隊が外で整列して待っていることが心の声で伝わってきた。
 が、それでも王は一つ聞きたいことがあった。

「待て、ここの守りはどうするつもりだ?」

 その質問に、アランはドアの方に向けていた足を止めた。

「……」

 そして即答出来なかった。
 痛い質問だったからだ。
 南側を完全に占領されれば大規模な軍隊が維持出来なくなる。ゆえに南側の完全確保は勝利への必須条件であった。
 平原はレオンの部隊が今だに駐留している。
 が、何故か、最近そのレオンの部隊が数を減らしているのだ。
 戦闘があったわけでは無い。部隊が勝手に解散されているのだ。
 ただの予想であるが、レオン将軍の指示では無いだろうとアランは思っていた。
 レオン将軍は元々南側の貴族。そしてレオン将軍の騎馬隊は全てが直属のものというわけでは無い。様々な家から派遣された混成軍だ。すなわち、本家の方で、南の方で何か問題が起きた可能性が高い。
 だからアランは軍を動かさざるを得なくなった。
 そして、それはガストン軍の全力を受け止められる戦力でなくてはならない。
 なのでこの場には、カルロの城には大きな戦力を置いていけないのだ。
 これは全てガストン軍が南に注力する前提の話。
 首都側に乗り込まれれば裏を突かれる形になる。
 しかしこればかりはアランの感知を持ってしても読めない。ガストン側はアラン達の動きを見てから後出しが出来るからだ。
 最悪の場合、首都機能を移転することになるだろうと、アランは考えていた。
 それはやはり言いにくい答え。
 だが、いつかは伝えなければならないものであった。
 なので、アランは意を決して口を開こうとした。
 が、その瞬間、

「私が残りましょう」

 クリスが声を上げた。
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