Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す

第三十一話 頂上決戦(1)

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   ◆◆◆

  頂上決戦

   ◆◆◆

 翌日――

 レオン将軍が守る平原の地で二つの軍隊が対峙していた。
 双方ともかなり大規模であり、複数の部隊が合流して出来た混成軍のように見えた。
 その規模、それはかつてヨハンの軍が首都の目前まで迫った時とほぼ同等のものであった。
 双方の中央を務めるのは、

「来たか」

 一方はカルロ。
 カルロは敵の中央にいる青年を見つめながら口を開いた。

「あれが私に挑む者か。……若いな」

 もう一方はラルフ。
 カルロとラルフ、二人の視線が交錯する。
 二人はそのまましばらく見合った。
 視線を先に外したほうが負け、などという競争をしているわけでは無い。
 双方とも、相手の表情から情報を拾おうとしていた。
 先に感想を抱いたのはラルフ。

(……凄みがある)

 年季が入った顔だ。
 カルロの表情に恐怖や緊張の色は無い。感じ取れるのは静かな闘志「だけ」だ。
 カルロは睨む様にこっちを見ている。

(……)

 そこでラルフの思考は停止した。
 ラルフが読み取れたことはたったそれ「だけ」であった。
 あまりにも単純な感想である。
 が、それは仕方の無いことであった。
 今のラルフには表面しか分からない。くぐった場数が違いすぎるのだ。

 そして、その差をカルロはラルフの表情から読み取っていた。

(緊張しているな。が、それは重要では無い。問題なのはその顔に緩みがあること――)

 カルロはラルフの表情だけでは無く、顔の筋肉の状態に注目し、いくつかの情報を読み取った。
 まず、目つきからこの青年が踏んだ場数はアランとアンナよりも少ないということが分かる。
 兵士は経験を積むうちに戦場ではどういう顔をすべきなのかを自然と理解する。力強い目つきを作ること、それが微細なれど、全体の士気の維持に繋がるということを学ぶからだ。彼はそれが分かっていない。もしかしたら、彼の経験量は新兵と呼べる程度のものかもしれない。
 しかし問題なのは経験が少ないにもかかわらず、顔の筋肉の一部に緩みが見えることだ。
 それは強者の証。自分の力に絶対の自信が無ければあんな顔は出来ない。
 そして同時に世間知らずの証でもある。その背にどれだけの期待を背負っているかという自覚が薄いのだ。無表情さと姿勢の硬さから緊張していることが読み取れるが、それは私と戦うからでは無く、この戦いの勝敗に何かを賭けているからか、勝利に対する褒美への期待感からであろう。

 カルロのこの推察は当たっていた。
 その証拠に、ラルフは次のような独り言を吐いた。

「やっと会えた。僕の狙いはあなただけ。あなたを倒して、僕は望むものを手に入る」

 ラルフはこの一戦の勝敗が世をどのように変えるか、この戦いの影響力というものを全く意識していない。ラルフが見ているものは権力であり、その象徴たる王座だけ。ラルフの中にあるのは利己だけなのだ。
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