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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十四話 再戦(1)
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◆◆◆
再戦
◆◆◆
(近付いてくる。始まったか)
移動を感じ取ったルイスは椅子から立ち上がった。
「どうしました?」
テーブルの対面側に座っていたクレアがその行動の理由を尋ねる。
ルイスは即座に答えた。
しかしその答えは嘘であった。
「これから用事があるのですが、付き合っていただけますか?」
そしてこの用事へのお誘いをクレアに断らせるつもりはルイスには無かった。
◆◆◆
「……!?」
その移動をアランも感じ取った。
(俺を尾けてきていた連中の仲間らしきやつらが、ここに向かって来ている……!)
一体こいつらは何なんだ。俺に何の用があるというのだ。
(いや、それはもう聞かずとも――)
明らかなことだ。自分にとって害ある存在であることは。
しかし今回は数が多い。
数百人ほどいる。一つの部隊と言える数だ。
こんなに数を揃えて何をするつもりなのか。
(まさか、こいつらは――)
それはすぐに想像がついた。
その想像が映像という形を完成させる直前、
「アラン様、御父上様がお呼びです。会議室にお越し下さい」
ドアの向こうから自分を呼ぶ声が響いた。
これにアランは、
「あ、ああ。分かった。すぐに行く」
動揺した声を返すことしか出来なかった。
◆◆◆
会議室に向かう途中、アランはクラウスと出会った。
「アラン様!」
息を少し切らしたその様子から、心を読むまでも無かった。
クラウスも感じ取ったのだ。不穏な連中が大勢で向かって来ていることを。
だから、アランは「分かっている」という意味を込めた頷きをクラウスに返した。
そして分かっているのはアランとクラウスの二人だけでは無かった。
もう一人、察知している人間が廊下に声を響かせた。
「お二人もカルロ将軍に呼ばれたようだな。……それはさておき、何か嫌な感じがしないか?」
声がした方に二人が振り向くと、そこにはクリスがいた。
◆◆◆
そして会議は奇妙な雰囲気で始まった。
その原因は温度差。
「「……」」
普段通りのカルロとアンナに対し、
「「「……っ」」」
三人の様子が異常だからだ。
強い警戒心が顔に表れている。杞憂であってほしいという思いが滲んでいる。
カルロはその重い表情から生まれる空気を払うかのように口を開いた。
「では、会議を始める。内容は今後の事について、戦力の分配をどうするか――」
そこまで述べた後、カルロはアランの閉ざされたまぶたに視線を合わせ、言葉を続けた。
「……それを話すつもりだったのだがな」
会議を始めるより先に、カルロには確認したいことがあった。
カルロはそれを言葉にし始めた。
「……最近、何かが変わった、いや、変わり始めているような気がする。潮目が変わったとでもいえばいいのか……はっきりとはしないが」
そしてカルロには確信めいたものがあった。
カルロはそれも言葉にした。
「この変化はお前が原因なのではないか? アラン」
カルロには聞きたいことがあった。
「お前には何か考えがあるのだろう? この会議と関係の無いことでもいい。話してみろ」
あの時の、妻の墓前でのやり取りの続きをしたいとカルロは思っていた。
正直なところ会議自体はそれほど重要では無い。今後の事についてはこの二週間で考え抜き、既にある程度の結論が出ているからだ。
そしてアランは問いに答えた。
「父上、私は――」
その口から紡がれ始めた内容は、ルイスに示したものと同じもの、夢で見たあの理想であった。
魔法使いと無能力者の違いは戦力的な部分がほとんどであると。
個々の生活能力、生産能力はほとんど変わらないと。
ならば、より良い形で協力しあえれば、より豊かで強固な社会が形成出来るのではないかと。
それはただの甘い理想のように聞こえた。
が、直後、アランは自ら自分の言葉に水を差した。
「ですが――」
魔法使いの方が強いという現実を利用する悪人は必ず現れるであろうと。
そしてその悪人が魔法使い特有の暴力によって上位に登り詰めれば、きっと残酷な社会が出来上がってしまうと。
「だから、」
アランを結論を述べ始めた。
「そうならないために、私はこの力を使いたい」
アランは心を繋げながら、共感させながら言葉を続けた。
心を読めるこの能力があれば、悪人の排除は不可能では無いと。
そして善人だけを社会の運営者に配置したいと。
将軍などの重要職はもちろん、公共に関わる役職の人間すべてをだ。
「そうすればきっと――」
その先をアランは言葉にはしなかったが、言わずともみな理解していた。
きっと素晴らしい社会が完成する。
「……」
そしてアランが言葉を終えると、場には静寂だけが残った。
その空気に奇妙さはもう無い。
ただ、静かであった。
そしてこの無音を破ったのは、またしてもカルロであった。
「アラン、やはりお前は……」
ルイスが抱いたものと同じ気持ちをカルロは言葉にしようとした。
が、次の瞬間、
「敵襲です!」
乱暴にドアを開く音と共に、静かな空気は引き裂かれた。
「「!」」
兵士が放ったその一声に、アンナとカルロは表情を険しくしたが、
「「「……」」」
分かっていた三人は表情を戻しただけであった。
再戦
◆◆◆
(近付いてくる。始まったか)
移動を感じ取ったルイスは椅子から立ち上がった。
「どうしました?」
テーブルの対面側に座っていたクレアがその行動の理由を尋ねる。
ルイスは即座に答えた。
しかしその答えは嘘であった。
「これから用事があるのですが、付き合っていただけますか?」
そしてこの用事へのお誘いをクレアに断らせるつもりはルイスには無かった。
◆◆◆
「……!?」
その移動をアランも感じ取った。
(俺を尾けてきていた連中の仲間らしきやつらが、ここに向かって来ている……!)
一体こいつらは何なんだ。俺に何の用があるというのだ。
(いや、それはもう聞かずとも――)
明らかなことだ。自分にとって害ある存在であることは。
しかし今回は数が多い。
数百人ほどいる。一つの部隊と言える数だ。
こんなに数を揃えて何をするつもりなのか。
(まさか、こいつらは――)
それはすぐに想像がついた。
その想像が映像という形を完成させる直前、
「アラン様、御父上様がお呼びです。会議室にお越し下さい」
ドアの向こうから自分を呼ぶ声が響いた。
これにアランは、
「あ、ああ。分かった。すぐに行く」
動揺した声を返すことしか出来なかった。
◆◆◆
会議室に向かう途中、アランはクラウスと出会った。
「アラン様!」
息を少し切らしたその様子から、心を読むまでも無かった。
クラウスも感じ取ったのだ。不穏な連中が大勢で向かって来ていることを。
だから、アランは「分かっている」という意味を込めた頷きをクラウスに返した。
そして分かっているのはアランとクラウスの二人だけでは無かった。
もう一人、察知している人間が廊下に声を響かせた。
「お二人もカルロ将軍に呼ばれたようだな。……それはさておき、何か嫌な感じがしないか?」
声がした方に二人が振り向くと、そこにはクリスがいた。
◆◆◆
そして会議は奇妙な雰囲気で始まった。
その原因は温度差。
「「……」」
普段通りのカルロとアンナに対し、
「「「……っ」」」
三人の様子が異常だからだ。
強い警戒心が顔に表れている。杞憂であってほしいという思いが滲んでいる。
カルロはその重い表情から生まれる空気を払うかのように口を開いた。
「では、会議を始める。内容は今後の事について、戦力の分配をどうするか――」
そこまで述べた後、カルロはアランの閉ざされたまぶたに視線を合わせ、言葉を続けた。
「……それを話すつもりだったのだがな」
会議を始めるより先に、カルロには確認したいことがあった。
カルロはそれを言葉にし始めた。
「……最近、何かが変わった、いや、変わり始めているような気がする。潮目が変わったとでもいえばいいのか……はっきりとはしないが」
そしてカルロには確信めいたものがあった。
カルロはそれも言葉にした。
「この変化はお前が原因なのではないか? アラン」
カルロには聞きたいことがあった。
「お前には何か考えがあるのだろう? この会議と関係の無いことでもいい。話してみろ」
あの時の、妻の墓前でのやり取りの続きをしたいとカルロは思っていた。
正直なところ会議自体はそれほど重要では無い。今後の事についてはこの二週間で考え抜き、既にある程度の結論が出ているからだ。
そしてアランは問いに答えた。
「父上、私は――」
その口から紡がれ始めた内容は、ルイスに示したものと同じもの、夢で見たあの理想であった。
魔法使いと無能力者の違いは戦力的な部分がほとんどであると。
個々の生活能力、生産能力はほとんど変わらないと。
ならば、より良い形で協力しあえれば、より豊かで強固な社会が形成出来るのではないかと。
それはただの甘い理想のように聞こえた。
が、直後、アランは自ら自分の言葉に水を差した。
「ですが――」
魔法使いの方が強いという現実を利用する悪人は必ず現れるであろうと。
そしてその悪人が魔法使い特有の暴力によって上位に登り詰めれば、きっと残酷な社会が出来上がってしまうと。
「だから、」
アランを結論を述べ始めた。
「そうならないために、私はこの力を使いたい」
アランは心を繋げながら、共感させながら言葉を続けた。
心を読めるこの能力があれば、悪人の排除は不可能では無いと。
そして善人だけを社会の運営者に配置したいと。
将軍などの重要職はもちろん、公共に関わる役職の人間すべてをだ。
「そうすればきっと――」
その先をアランは言葉にはしなかったが、言わずともみな理解していた。
きっと素晴らしい社会が完成する。
「……」
そしてアランが言葉を終えると、場には静寂だけが残った。
その空気に奇妙さはもう無い。
ただ、静かであった。
そしてこの無音を破ったのは、またしてもカルロであった。
「アラン、やはりお前は……」
ルイスが抱いたものと同じ気持ちをカルロは言葉にしようとした。
が、次の瞬間、
「敵襲です!」
乱暴にドアを開く音と共に、静かな空気は引き裂かれた。
「「!」」
兵士が放ったその一声に、アンナとカルロは表情を険しくしたが、
「「「……」」」
分かっていた三人は表情を戻しただけであった。
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