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最終章

最終話 おとぎ話の続き(10)

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 巨大な光の刃が巨大な光の壁と混じり、ねじれ、そして爆発する。
 生じた嵐は全てをなぎ払い、アランまで届くと思えたが、

「!」

 直後、前方で生じた轟音と閃光に、ヴィクトルは目を細めた。
 そして気付いた。
 先ほどの叫びに、別の誰かの声が重なっていたことを。
 同じ技で相殺されたのだ。
 だからヴィクトルはまたあいつか、と思った。
 が、

「?!」

 違った。
 嵐が消え去った後、そこに立っていたのはあの男では、バージルでは無かった。
 それは自分にそっくりだった。
 違うのは右手にある得物だけ。
 だからヴィクトルは参謀の言葉を思い出した。
 敵の中に同じ特徴を持つ者がいることを。
 しかしその情報は間違っているように見えた。
 光魔法は使えないはずであった。
 が、

「……!」

 その答えもすぐにわかった。
 男の両手が光っているのだ。大量の虫が張り付いているのだ。
 これがバージルが一時離脱した理由。
 バージルは吹き飛ばされた後、そのまま戦闘不能になったわけでは無かったのだ。
 到着したディーノを引き止め、自身の虫を移植させたのだ。
 これはアランの指示。
 ぶつかり合うことは避けられない。ならば、その前に不利を消さなくてはならないと考えたのだ。
 そしてディーノはその成果を見せ付けるように、槍斧と大盾を輝かせながら叫んだ。

「お前の相手はこの俺だ!」

 その叫びが合図となった。
 双方同時に地を蹴る。
 そして二人は輝かせた得物を、

「「破ッ!」」

 同じ気勢でぶつけあった。
 金属の衝突音と光魔法の炸裂音が混じったものが場に響き渡る。
 その衝撃に、鏡合わせのように双方が同じく姿勢を崩す。
 瞬間、脳裏に浮かんだ言葉はやはり同じであった。

((互角!))

 ならばもう一撃、と、ディーノが槍斧を切り返す。
 これに対し、ヴィクトルの選択は横に鋭く跳んでの回避。
 ディーノの斬撃と、背後から光の戦士が放った三日月を同時に避ける。
 そしてヴィクトルの両足が同時に地に着いた瞬間、

「疾ッ!」

 その着地の硬直に、別の光の戦士が突進突きを放つ。

「ぐぁっ!」

 その戦士の一撃はヴィクトルが振るった大盾の一撃で吹き飛ばされるが、

「斬!」

 直後に別の戦士が切りかかる。
 その気勢と勢いに、

「雄ォッ!」

 追いついてきたディーノの声が重なる。

「でぇやっ!」「せぇやっ!」

 次々と、四方八方から光の戦士が襲い掛かる。
 折り重なる気勢が激しさを増す金属音と炸裂音の中に消え始める。
 視界が閃光で埋まるほどの激しい攻め。

「……っ!」

 その苛烈さにヴィクトルの顔が歪む。
 光の戦士はいずれも精鋭級、多勢に無勢。
 このままでは――そんな言葉が脳裏に滲む。
 なんとかしなくては――そんな言葉が先の言葉を払い消す。
 その直後、ヴィクトルは一つのひらめきを得た。
 この男と一対一の状態にもちこめれば、そんな願望に本能が一つの答えを示したのだ。
 ヴィクトルは即座にそれを叫んだ。

「ギガース・インペトゥス!」

 耳に響いた声はヴィクトルのそれだけ。
 が、心にはまったく同じ言葉でディーノの声が響いていた。
 ヴィクトルの狙いを感知をしたディーノは同じ手で応えたのだ。
 双方の武器が輝きを増し、振動する。
 されど、その形は同じでは無かった。
 ただ太く真っ直ぐ伸びるだけのヴィクトルの技に対し、ディーノのそれは斧頭の部分で曲がり、膨らんでいた。
 まるで斧頭が巨大化したような形。
 そしてその膨張が止まり、輝きが安定した瞬間、

「「雄雄雄ォッ!」」

 双方はそれをぶつけ合った。
 膜が破れ、金属音が響き、巨人の技がその形を失い、嵐に転じて広がる。
 分厚い膜と鎧を身にまとっていなければ近づきがたい規模。
 ヴィクトルの狙いはまさにそれ。
 常に嵐の中に身を置くようにすれば、光の戦士達は近づきにくくなるからだ。
 この眩い暴風の中で相対することが出来る者は自分と同じこの男だけ、そう考えたのだ。
 なのでこの嵐を維持する必要がある。巨人の太刀を何かに叩き付け続ける必要がある。
 その相手はこの男が好都合。
 ディーノはその狙いを読み取れているがゆえに、すばやく後方に地を蹴ったが、

(逃がさん!)

 と、ヴィクトルは心の叫びと共に、輝く盾を前面に押し出しながら、ディーノに体当たりを仕掛けた。
 双方の盾がぶつかり合い、互いの足が止まる。
 その硬直の中で双方は再び巨人の太刀を生み出し、

「「でぇえやっ!」」

 再びぶつけ合った。
 二人の姿が再び嵐の中に消える。
 しかしその激突には先とは違う部分があった。
 それは、鋭い何かで引っかいたかのような金属音。
 蛇が鎧を撫でる音。
 膜の再生が間に合っていないのだ。
 ゆえに、

「「せぇやっ!」」

 次の激突を合図に、その耳障りな音はさらに大きくなった。

「ぬぅんっ!」「雄応ッ!」

 されど二人は腕を止めない。

「雄雄りゃあっ!」「破ァァッ!」

 蛇が鎧を引っかく音が、悲鳴のようなものに変わる。

「「でりゃああっ!」」

 それでも二人は止まらない。
 なぜなら、その先を望んでいるからだ。
 しかしその望みは、どちらの鎧が先に限界を迎えるか、では無かった。
 それはこの技の、ギガースインペトゥスの弱点。今の二人が共有する弱点。
 やや博打めいた選択肢。
 ゆえにヴィクトルの心には焦燥感が滲んでいる。
 が、ディーノの方はまったく違っていた。
 ディーノは感動していた。
 大規模な共感と共有に、自分がその中心にされていることに、ただ圧倒されていた。

(これが……!)

 これがアランの力、あいつが作り上げた神秘なのか、と。
 まるで万華鏡。
 台本が提示する様々な可能性が、映像で、時に感覚で、時に結果だけ流れてくる。
 相手がどう動くか、自分はどうすべきか、その後は、そのような様々な可能性と未来予測の映像が、脳裏に重なって流れ続けている。
 時に、自分が分身したのかと勘違いしてしまうことすらあるほど。それほどの迫力と現実感。
 されど混乱はしない。
 多くの仲間達が、魂が計算を補助してくれている。
 自分が間違いを犯しても、即座に誰かが助けてくれる。
 数え切れないほどの声が聞こえる。とんでもない数の意識が重なっている。
 自分という存在がちっぽけに感じられるほどの規模。
 時に、消えてしまいそうなほど。自分という存在を見失いそうなほど。
 しかし恐怖は無い。
 むしろ心地良い。
 そして流れ続けている未来予測はその数を減らし始めている。一つの未来に向けて収束し始めている。
 その未来を手繰り寄せるためにはあと一つ、やらなければいけないことがある。
 ディーノはそれを叫んだ。

「みんな行くぞ!」

 その号令には、「雪月花」という声が、皆の心の叫びが重なっていた。
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