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最終章
最終話 おとぎ話の続き(7)
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「!」
その声がヴィクトルの耳に響いた瞬間、盾を支える腕にかかっている負荷が突然大きくなった。
同時に眩しくなった。
目を開けていることが難しいほどの光。
大出力の光魔法同士のぶつかり合いによる閃光。
何が――その答えはヴィクトルからは見えなかったが感じ取れた。
バージルが槍の先端から傘を開いたのだ。
さらに、バージルは極端な前傾姿勢で体重をかけている。
かつて見せた槍斧突撃の型。
穿つ、その思いが槍先から、傘から響き渡る。
そしてその力強さは、もしかしたら――そう思わせるほどであった。
ゆえにヴィクトルは、
「やらせるかぁっ!」
即座に同じ力強さで気勢を返した。
押し返しながら盾をひねり振るい、槍斧の先端をずらし外しながら大剣を繰り出す。
型は正中線を下から引き裂くかのように振り上げる逆風。
「っ!」
槍斧での迎撃が間に合わなかったゆえに、バージルの選択は防御魔法を展開しながらの回避。
斜め後ろに跳んだ直後、大剣から放たれた縦の三日月がバージルの真横を通り抜ける。
しかしヴィクトルの反撃はそれだけでは無かった。
それは次の動作のための初動であった。
振り上げた大剣をそのまま真上に、大上段に構える。
そしてヴィクトルは天に向かって突き上げたその先端を、
「破アアアァッ!」
雄叫びと共に、かつて無いほど眩く輝かせた。
光の大剣が太くなり、天に向かって伸びた、それは誰の目にもそのように見えた。
それは目や感知による錯覚では無かった。
ヴィクトルは大剣の先端部の膜にわざと穴を開けておいたのだ。
大剣が振動するほどの魔力。
それが刃を覆う膜を内側から押し広げ、先端の穴から空に漏れ出している。
これはただの思い付きでは無かった。
真似をされたことに対しての意趣返しであった。
ヴィクトルはアランの白い火柱を自分なりに真似たのだ。
初めての技であり、ゆえに名は無い。
だが、ふさわしいものが簡単に思い付いた。
ゆえにヴィクトルはその名を響かせながら、それを放った。
“ギガース・インペトゥス!”
巨人の一撃、そう名付けられた太く長い光の刃が、バージルに向かって振り下ろされた。
「雄雄ォッ!」
その一撃に対し、バージルは槍斧の先端から展開した光る傘で迎え打った。
振り下ろされる刃に向かって突き上げるように繰り出す。
これでなくては、傘で無くてはならないと、バージルは確信していた。
その確信のよりどころは台本。
アランとの共有によって得られているその能力が、バージルのその思いを揺ぎ無いものにしていた。
そして直後、二つの鋼は激しくぶつかり合った。
されど火花は散らなかった。
代わりに生まれたのは蛇。
これが確信の理由。
鋼同士がぶつかり合えば膜が破れ、そこからあふれ出してくるからだ。
蛇の群れが裂け目を押し広げ、嵐となる。
その暴風を傘で受け凌ぐ。
まるで台風の中でそうした時のように、傘が暴れ、歪む。
だがこれは耐え凌げる、台本はそう言っていた。
あくまでもこれだけならば。
そして直後、台本は次のページを開いた。
「!」
アランの補助による緩慢な時間の中で、それを読んだバージルは驚きと焦りに身を強張らせた。
その展開は可能性として事前に台本から告知されていた。
だがそれでもバージルには選択肢が無かった。最初の斬撃を凌ぐ手はこれしか思い付かなかった。
だからバージルは願っていた。この展開が来ないことを。相手がこの手を選ばないことを。
しかしその願いは届かなかったようだ。
ゆえに、バージルは、
(くそったれ!)
直後にヴィクトルが繰り出した輝く盾による追撃に対し、悪態を吐くことしか出来なかった。
迫るその光の壁に対し、片手で防御魔法を展開する。
しかしそれは手遅れであり、生まれ始めたばかりの未熟な盾で受け止められるものでは無かった。
その声がヴィクトルの耳に響いた瞬間、盾を支える腕にかかっている負荷が突然大きくなった。
同時に眩しくなった。
目を開けていることが難しいほどの光。
大出力の光魔法同士のぶつかり合いによる閃光。
何が――その答えはヴィクトルからは見えなかったが感じ取れた。
バージルが槍の先端から傘を開いたのだ。
さらに、バージルは極端な前傾姿勢で体重をかけている。
かつて見せた槍斧突撃の型。
穿つ、その思いが槍先から、傘から響き渡る。
そしてその力強さは、もしかしたら――そう思わせるほどであった。
ゆえにヴィクトルは、
「やらせるかぁっ!」
即座に同じ力強さで気勢を返した。
押し返しながら盾をひねり振るい、槍斧の先端をずらし外しながら大剣を繰り出す。
型は正中線を下から引き裂くかのように振り上げる逆風。
「っ!」
槍斧での迎撃が間に合わなかったゆえに、バージルの選択は防御魔法を展開しながらの回避。
斜め後ろに跳んだ直後、大剣から放たれた縦の三日月がバージルの真横を通り抜ける。
しかしヴィクトルの反撃はそれだけでは無かった。
それは次の動作のための初動であった。
振り上げた大剣をそのまま真上に、大上段に構える。
そしてヴィクトルは天に向かって突き上げたその先端を、
「破アアアァッ!」
雄叫びと共に、かつて無いほど眩く輝かせた。
光の大剣が太くなり、天に向かって伸びた、それは誰の目にもそのように見えた。
それは目や感知による錯覚では無かった。
ヴィクトルは大剣の先端部の膜にわざと穴を開けておいたのだ。
大剣が振動するほどの魔力。
それが刃を覆う膜を内側から押し広げ、先端の穴から空に漏れ出している。
これはただの思い付きでは無かった。
真似をされたことに対しての意趣返しであった。
ヴィクトルはアランの白い火柱を自分なりに真似たのだ。
初めての技であり、ゆえに名は無い。
だが、ふさわしいものが簡単に思い付いた。
ゆえにヴィクトルはその名を響かせながら、それを放った。
“ギガース・インペトゥス!”
巨人の一撃、そう名付けられた太く長い光の刃が、バージルに向かって振り下ろされた。
「雄雄ォッ!」
その一撃に対し、バージルは槍斧の先端から展開した光る傘で迎え打った。
振り下ろされる刃に向かって突き上げるように繰り出す。
これでなくては、傘で無くてはならないと、バージルは確信していた。
その確信のよりどころは台本。
アランとの共有によって得られているその能力が、バージルのその思いを揺ぎ無いものにしていた。
そして直後、二つの鋼は激しくぶつかり合った。
されど火花は散らなかった。
代わりに生まれたのは蛇。
これが確信の理由。
鋼同士がぶつかり合えば膜が破れ、そこからあふれ出してくるからだ。
蛇の群れが裂け目を押し広げ、嵐となる。
その暴風を傘で受け凌ぐ。
まるで台風の中でそうした時のように、傘が暴れ、歪む。
だがこれは耐え凌げる、台本はそう言っていた。
あくまでもこれだけならば。
そして直後、台本は次のページを開いた。
「!」
アランの補助による緩慢な時間の中で、それを読んだバージルは驚きと焦りに身を強張らせた。
その展開は可能性として事前に台本から告知されていた。
だがそれでもバージルには選択肢が無かった。最初の斬撃を凌ぐ手はこれしか思い付かなかった。
だからバージルは願っていた。この展開が来ないことを。相手がこの手を選ばないことを。
しかしその願いは届かなかったようだ。
ゆえに、バージルは、
(くそったれ!)
直後にヴィクトルが繰り出した輝く盾による追撃に対し、悪態を吐くことしか出来なかった。
迫るその光の壁に対し、片手で防御魔法を展開する。
しかしそれは手遅れであり、生まれ始めたばかりの未熟な盾で受け止められるものでは無かった。
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