Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

文字の大きさ
上 下
580 / 586
最終章

最終話 おとぎ話の続き(6)

しおりを挟む
 双方の得物の先端同士がぶつかり合い、放たれた光る嵐が絡みつくように喰らい合う。
 これは互角では無かった。
 原因はやはり武器の差にあった。
 バージルの得物には先端に槍がついている。この技に適した武器であるように思える。
 だが、そばについている斧頭がその利点を消してしまうほどに問題であった。
 光魔法の自由粒子は鋼に含まれている炭素に引っ張られる。
 ゆえに、放たれる光の嵐は武器の形状に影響を受ける。出力に偏りが出来てしまうのだ。
 バージルの斧頭は大きく、分厚い。
 なので手から流し込まれた光の粒子は、先端に向かって棒を伝った後、斧頭のところで引っ張られてしまうのだ。その刃が向いている方向に粒子が流れてしまう。
 バージルは刃が下向きになるように構えていた。ゆえに魔力は地面のほうに多く垂れ流され、上は薄くなった。
 そして結果はその通りになった。
 下側のぶつかり合いではバージルが勝ち、上側はヴィクトルが勝った。
 よって、双方の直後の動きは対照的なものとなった。
 バージルが上半身を防御魔法でかばい、ヴィクトルが盾で下半身を守る。
 されど、ヴィクトルのそれはただの防御では無かった。
 それは次の攻撃動作の初動、先に見せた防御魔法を地面に叩き付ける動作でもあった。

「!」

 それに気付いたバージルの顔が焦りの色で染まる。
 頭の中は真っ白。
 されど、バージルはその白さの中で答えを掴み取った。その白さを光明の輝きに変えた。
 ゆえに、

「「破ッ!」」

 次の瞬間、二人の気勢は重なった。
 いや、わずかにバージルのほうが早かった。
 その差が決定打となり、

「っ!?」

 今度はヴィクトルの顔が歪んだ。
 地面に敷いた防御魔法を貫こうと繰り出した下段突きを槍斧で叩き払われたのだ。
 そしてヴィクトルが表情を歪めた理由はそれだけでは無かった。
 目の前に三日月が描かれたからだ。
 バージルはなぎ払いでヴィクトルの大剣を叩き払う際、魔力を垂れ流しにしていたのだ。
 これをどうするつもりなのか、それは考えるまでも無かった。
 あれも真似するつもりなのか、それも聞くまでも無かった。
 バージルは目の前で先のヴィクトルのように体を一回転させ、

“マグナ・クルクス!”

 太陽の無いただの大十字を描いた。
 自分の象徴である技をそっくりそのままぶつけられる、それはヴィクトルにとって初めての経験であった。
 ゆえに、

「うおぉっ?!」

 驚きか、それとも気勢か、またはただの悲鳴か、わからぬ叫びがその口から漏れた。
 だが、その叫びは別の響きによってかき消された。
 耳に痛いほどの金属音。
 盾が削られた、そう思える出来るほどの響き。
 そしてそれは正解であることが対面にいるバージルには見えていた。
 盾の文様をより際立たせるかのように、十字の傷が刻み込まれている。
 まるで大型の獣が爪で引っかいたかのような、荒い十字。
 バージルはその二本の傷の交差点、十字の中心をえぐり穿とうと、

「でぇやっ!」

 輝く槍斧を突き出した。
 その気勢が場に響いたと同時に、マグナ・クルクスの直撃によって消えていた輝きを大盾は取り戻した。
 魔力が充填された大盾と輝く槍斧の先端がぶつかり合う。
 直後、響いた音は光魔法同士の炸裂音だけでは無かった。
 もはや耳に馴染みつつある金属音が混じっていた。
 防御魔法を貫かれている、ヴィクトルがその音からその事実を認識した瞬間、

「りゃああぁっ!」

 押し破る、押し破れ、その思いを込めた気勢をバージルが響かせた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

処理中です...