Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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最終章

最終話 おとぎ話の続き(5)

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 名の通り、槍で使うのが正しい技。
 今のヴィクトルの得物は大剣であるため、本来先端から生じるはずの閃光魔法が無い。
 だがそれでも、その幅のある分厚い刃から放たれる嵐は目の前の壁を突破するには十分であった。
 嵐を追いかけるように、壁であった者達の残骸を踏み越え、その者達が撒き散らした肉と体液の雨を浴びる。
 そして赤く染まるヴィクトルの鎧。
 意識に焼け付くかのような色で目立ち始めたその目標に、

「ひるむな!」「押し返せ!」

 次の壁が突撃を仕掛けるも、

「があっ!?」「「ぎゃぁあっ!」」

 なぎ払いで繰り出された三日月と、生じた嵐で同じように赤く散っていった。
 そして再び降り注いだ赤い雨の中をヴィクトルが駆け抜ける。
 この時、既に隊列の中。
 既に包囲されている。ゆえに、

「かかれ!」「「ぅ雄雄雄っ!」」

 前後左右、四方八方から気勢がぶつけられた。
 だが、ヴィクトルはそのいずれにも視線も意識も向けなかった。
 両方とも、下に向いていた。
 そして次の瞬間、ヴィクトルはその方向に向かって動いた。
 輝く盾を目の前の足元に向かって突き出す。
 地面に盾を叩き付ける、その動作はそのように見えた。
 しかし違った。
 叩きつけられたのは盾では無く、防御魔法であった。
 衝撃で防御魔法が地面の上に張り付くように広がる。
 まるで光る絨毯、兵士達がそう思った瞬間、ヴィクトルはその上に飛び乗るように小さく跳躍し、

「破ァァッ!」

 その輝く円陣の中心に、より眩く光る大剣を突き立てた。
 そして次の瞬間、皆が予想した通りの事が起きた。

「「「ぐあああぁっ!」」」

 ヴィクトルを中心として生じた嵐が、周囲の全てをなぎ払う。
 己自身を巻き込んで放つ、分厚い膜と鎧を纏っているヴィクトルだからこそ出来る雑な大技。
 その血と光の嵐の中からヴィクトルは駆け出ると同時に、

「げはっ!」

 立ちふさがった兵士を光る大盾で突き飛ばし、

「ぁがっ!」「ぎっ!」

 近くにいた集団を三日月でなぎ払った。
 目に付く敵を、立ちふさがる敵をなぎ倒しながら走り続ける。
 すると、景色に変化が起きた。
 雪が降り始めたのだ。
 今は真冬。そして空は曇っている。
 されどこれは自然の芸術では、氷の結晶では無い。
 おびただしい数の虫の群れ。
 これは目標に近づいている証拠。
 そして自分は招かれざる客である。
 ゆえに、その雪は間も無く吹雪に変わった。
 ヴィクトルは知っていた。オレグという戦士がこれに敗れたのを。
 ゆえに対処法は既に考えてあった。

「むんっ!」

 気勢と共に三日月を放つ。
 しかしその軌道は斜め下。
 地面にぶつかり、嵐に転じる。
 放たれた大量の蛇が虫の群れを吹き飛ばす。
 しかしその一撃の目的はそれだけでは無かった。
 そしてヴィクトルは感じ取れていた。
 これではもう一つの目的は達成出来ないことを。
 その予想は次の瞬間に正解であることが明らかになった。

「雄雄雄ォッ!」

 気勢と共に嵐を突破してきたのはバージル。
 彼が巨大な防御魔法を構えて突撃してくることは感じ取れていた。
 ゆえに、ヴィクトルは、

「雄応ッ!」

 同じ気勢を響かせながら、迫る光の壁を同じ光の盾で迎え討った。
 ぶつかり合う二つの盾。
 互角、そんな言葉がヴィクトルの脳裏に浮かんだ。
 ゆえに、

(ならば!)

 これで、この技で押し通る、と、ヴィクトルは心の叫びを響かせようとした。
 が、

「?!」

 その思考は驚きと共に止まった。
 相手が同時に動き始めたからだ。
 しかもその動きが自分とまったく同じ、鏡合わせだったからだ。
 なぜ、そう思った瞬間に気付いた。
 バージルの体がうっすらと光って見えるほどに、大量の雪が張り付いていることに。
 吹雪の中を駆けてきたからでは無い。この男は雪を身にまとってきたのだ。
 同じ動きをするために。先に見せた技を寸分違わず真似るために。
 そのためにこの男は吹雪を纏ったのだ。他人に自分の動きを補助させるために!
 ゆえに、直後に響いた心の叫びは同じであり、重なった。

“トルクエント・エクスプローデア・ハスタム!”

 そしてその叫びは三人のものだった。
 ヴィクトルとバージル、そしてアランの声が重なっていた。
 そしてその声は、直後に響いた炸裂音の中に掻き消えた。
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