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最終章
第五十八話 おとぎ話の結末(11)
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◆◆◆
オレグの思ったことは正にその通りであった。
「何をしている!」
だから苛立ち、叫ぶ。
「突撃しないか!」
されどもう誰も言うことを聞かない。
前に出たが最後、爆発魔法に巻き込まれるだけだと分かっているからだ。
ゆえにその場で立ち止まったまま光弾を撃っているだけ。
だがディーノには効かない。
既に互いの顔が目で認識出来るほどの距離。
だから苛立ち、思う。
こんなことになるなら弓兵も用意しておくべきだったと。
その無いものねだりにしかならない思考が苛立ちをさらに煽る。
ゆえに魔王は再び叫んだ。
「この……役立たずどもがあっ!」
そしてその叫びは奇しくも、いや、やはりというべきか、かつてラルフが放ったものと同じ文面であった。
その言葉にはラルフも含まれていた。感じ取れた。
だからラルフは同じ苛立ちを込めながら、赤い弾を放った。
生じた槍が眼前を真っ直ぐになぎ払う。
だがその線上にディーノの姿は既に無い。
横に鋭く跳んで直撃を避けながら、盾で衝撃波を受け止める。
しかし直後、その鉄の壁にさらなる衝撃が加わった。
ディーノが逃げる方向を予測して放たれた魔王の爆発魔法。
赤い槍では無いが、それは直撃したように見えた。
が、
「……っ!」
何度目かになる「同じ結果」に、魔王は奥歯を噛み締めた。
感知があるゆえに、魔王には感じ取れた。
直撃を受けたディーノの体がびくともしなかったのを。
見た目通りに重く、硬い。
全身鎧に巨大な盾と武器、普通の人間が身に着けて動ける重量では無い。
その答えはディーノの体から発せられていた。
間接や筋肉が悲鳴を上げ続けている。
身に着けている装備の重さに体が軋んでいる。
しかしディーノにはこれしか思いつかなかったのだ。自身の重さを増やして衝撃を耐える、それしか無かったのだ。
この提案をした時、アランは言った。「大丈夫なのか?」と。
はっきり言って大丈夫では無かった。ろくに動くことすら出来なかった。
だからディーノはリックに教えを請うた。
そしてディーノも至ったのだ。一つの頂点に。人の限界に。
ディーノの心臓は耳に痛いほどに鳴り続けている。
ディーノの全身にはオレグと同じように星が散りばめられている。
星が煌くたびに、激痛が走る。
だが、今のディーノにはその痛みよりも気になることがあった。
この距離でも分かった。とんでもないやつがアランに襲い掛かっているのが。
しかし今から助けに走っても間に合わないのは明らか。
ゆえに、ディーノは、
(死ぬなよ、アラン!)
友の勝利を祈った後、意識を前方にいる魔王に集中させた。
オレグの思ったことは正にその通りであった。
「何をしている!」
だから苛立ち、叫ぶ。
「突撃しないか!」
されどもう誰も言うことを聞かない。
前に出たが最後、爆発魔法に巻き込まれるだけだと分かっているからだ。
ゆえにその場で立ち止まったまま光弾を撃っているだけ。
だがディーノには効かない。
既に互いの顔が目で認識出来るほどの距離。
だから苛立ち、思う。
こんなことになるなら弓兵も用意しておくべきだったと。
その無いものねだりにしかならない思考が苛立ちをさらに煽る。
ゆえに魔王は再び叫んだ。
「この……役立たずどもがあっ!」
そしてその叫びは奇しくも、いや、やはりというべきか、かつてラルフが放ったものと同じ文面であった。
その言葉にはラルフも含まれていた。感じ取れた。
だからラルフは同じ苛立ちを込めながら、赤い弾を放った。
生じた槍が眼前を真っ直ぐになぎ払う。
だがその線上にディーノの姿は既に無い。
横に鋭く跳んで直撃を避けながら、盾で衝撃波を受け止める。
しかし直後、その鉄の壁にさらなる衝撃が加わった。
ディーノが逃げる方向を予測して放たれた魔王の爆発魔法。
赤い槍では無いが、それは直撃したように見えた。
が、
「……っ!」
何度目かになる「同じ結果」に、魔王は奥歯を噛み締めた。
感知があるゆえに、魔王には感じ取れた。
直撃を受けたディーノの体がびくともしなかったのを。
見た目通りに重く、硬い。
全身鎧に巨大な盾と武器、普通の人間が身に着けて動ける重量では無い。
その答えはディーノの体から発せられていた。
間接や筋肉が悲鳴を上げ続けている。
身に着けている装備の重さに体が軋んでいる。
しかしディーノにはこれしか思いつかなかったのだ。自身の重さを増やして衝撃を耐える、それしか無かったのだ。
この提案をした時、アランは言った。「大丈夫なのか?」と。
はっきり言って大丈夫では無かった。ろくに動くことすら出来なかった。
だからディーノはリックに教えを請うた。
そしてディーノも至ったのだ。一つの頂点に。人の限界に。
ディーノの心臓は耳に痛いほどに鳴り続けている。
ディーノの全身にはオレグと同じように星が散りばめられている。
星が煌くたびに、激痛が走る。
だが、今のディーノにはその痛みよりも気になることがあった。
この距離でも分かった。とんでもないやつがアランに襲い掛かっているのが。
しかし今から助けに走っても間に合わないのは明らか。
ゆえに、ディーノは、
(死ぬなよ、アラン!)
友の勝利を祈った後、意識を前方にいる魔王に集中させた。
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