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最終章
第五十八話 おとぎ話の結末(10)
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「!」
それに気付いた雲水は目を見開いた。
シャロンの動きが突然悪くなったのだ。
その理由はほぼ同時に判明した。
写しが力尽きかけているのだ。
当然であった。シャロンの工場は写しにとって適切な食事を提供できないのだから。
もう一度写しを――雲水がそう思った時にはもう手遅れだった。
「きゃあぁっ?!」
悲鳴と同時にシャロンの体が後ろに吹っ飛び、
「ぐぁっ!」
直後に雲水の体もそれを追うように吹き飛んだ。
二人を追うようにオレグが地を蹴る。
しかしその意識の方向は、二人のどちらでも無かった。
それに気付いたクラウスは誰よりも早く叫んだ。
「将軍を守れ!」
その声が耳に届くよりも早く動き始めた兵士達がアランを守るように壁を形成し、
「「「雄雄雄雄っ!」」」
その壁はオレグを押し潰さんと、己を鼓舞しながら突進した。
ケビンのものが混じったその気勢はオレグの鼓膜を痛いほどに揺らしたが、オレグは一切ひるむ事無く、
「「「ぐあああぁっ!」」」
その気勢ごと蹴散らして悲鳴に変えた。
しかしその苦痛の響きの中に一つだけ、まぎれるように違う声が響いた。
“無明剣”と。
声と共に閃光のように刃が奔る。
その一撃は、クラウスの踏み込みはオレグの頭蓋を串刺しにする勢いであった。
自分の虫は数も力も弱い、遠距離から放っても通じない、それを分かっているがゆえの一撃。
だが、オレグには全て読まれていた。
「ぐおっ!?」
刃が叩き払われた、それを認識したのとほぼ同時にクラウスの体は吹き飛んだ。
受身も取れずに地面にぶつかり、そのまま滑る。
その揺れる視界の中でクラウスは凝視していた。
離れていくオレグの背中を。その方向を。
だからクラウスは叫んだ。
「アラン様!」
既にアランは構えていた。
アランの瞳の中でオレグの姿が大きくなる。
向かってくる兵士達を蹴散らしながら突っ込んでくる。
そして、その姿が瞳を埋め尽くす勢いになった瞬間、
「疾ッ!」「破ッ!」
二人の気勢が同じ閃光と共に重なった。
しかし、そのぶつかり合いの明暗は明らか。
アランが放った突きが一方的に弾かれる。
そしてアランが体勢を立て直すよりも、オレグの追撃のほうが速い。
が、
「う雄ォッ!」
やらせるか! その気迫と共に大盾兵が割り込んだ。
剣を槍のように構えて突っ込んでくるその兵に対し、オレグがアランに使うつもりだった拳を叩き込む。
「ぐぅえ!」
そして生じた悲鳴を吹き飛ばすかのように、
「せえやっ!」
アランが気勢と共に剣を繰り出す。
その一撃を叩き払いながらオレグは思った。
(非力)
ゆえに簡単に姿勢が崩れる。
だが計算は速い。魔王のように。
(されど……魔王とは違うな)
その違いは直後にオレグの背後に現れた。
「いぃっやっ!」
姿勢を再び崩したアランを守るために、別の兵士がオレグの背後から奇襲を仕掛ける。
されど、今のオレグにとって背後は隙では無かった。
「むん!」
一声と共に振り返りながら放たれた回し蹴りが兵士に炸裂する。
「がはぁっ!」「「雄雄ぉっ!」」
吹き飛ぶ兵士と入れ替わるように、仇を取ろうとするかのように、二人の兵士が切りかかる。
「っ!」「ぐおっ?!」
その二人を流れるように打ち倒しながら、オレグは思った。
魔王の周りにこんな仲間はいない、と。
それに気付いた雲水は目を見開いた。
シャロンの動きが突然悪くなったのだ。
その理由はほぼ同時に判明した。
写しが力尽きかけているのだ。
当然であった。シャロンの工場は写しにとって適切な食事を提供できないのだから。
もう一度写しを――雲水がそう思った時にはもう手遅れだった。
「きゃあぁっ?!」
悲鳴と同時にシャロンの体が後ろに吹っ飛び、
「ぐぁっ!」
直後に雲水の体もそれを追うように吹き飛んだ。
二人を追うようにオレグが地を蹴る。
しかしその意識の方向は、二人のどちらでも無かった。
それに気付いたクラウスは誰よりも早く叫んだ。
「将軍を守れ!」
その声が耳に届くよりも早く動き始めた兵士達がアランを守るように壁を形成し、
「「「雄雄雄雄っ!」」」
その壁はオレグを押し潰さんと、己を鼓舞しながら突進した。
ケビンのものが混じったその気勢はオレグの鼓膜を痛いほどに揺らしたが、オレグは一切ひるむ事無く、
「「「ぐあああぁっ!」」」
その気勢ごと蹴散らして悲鳴に変えた。
しかしその苦痛の響きの中に一つだけ、まぎれるように違う声が響いた。
“無明剣”と。
声と共に閃光のように刃が奔る。
その一撃は、クラウスの踏み込みはオレグの頭蓋を串刺しにする勢いであった。
自分の虫は数も力も弱い、遠距離から放っても通じない、それを分かっているがゆえの一撃。
だが、オレグには全て読まれていた。
「ぐおっ!?」
刃が叩き払われた、それを認識したのとほぼ同時にクラウスの体は吹き飛んだ。
受身も取れずに地面にぶつかり、そのまま滑る。
その揺れる視界の中でクラウスは凝視していた。
離れていくオレグの背中を。その方向を。
だからクラウスは叫んだ。
「アラン様!」
既にアランは構えていた。
アランの瞳の中でオレグの姿が大きくなる。
向かってくる兵士達を蹴散らしながら突っ込んでくる。
そして、その姿が瞳を埋め尽くす勢いになった瞬間、
「疾ッ!」「破ッ!」
二人の気勢が同じ閃光と共に重なった。
しかし、そのぶつかり合いの明暗は明らか。
アランが放った突きが一方的に弾かれる。
そしてアランが体勢を立て直すよりも、オレグの追撃のほうが速い。
が、
「う雄ォッ!」
やらせるか! その気迫と共に大盾兵が割り込んだ。
剣を槍のように構えて突っ込んでくるその兵に対し、オレグがアランに使うつもりだった拳を叩き込む。
「ぐぅえ!」
そして生じた悲鳴を吹き飛ばすかのように、
「せえやっ!」
アランが気勢と共に剣を繰り出す。
その一撃を叩き払いながらオレグは思った。
(非力)
ゆえに簡単に姿勢が崩れる。
だが計算は速い。魔王のように。
(されど……魔王とは違うな)
その違いは直後にオレグの背後に現れた。
「いぃっやっ!」
姿勢を再び崩したアランを守るために、別の兵士がオレグの背後から奇襲を仕掛ける。
されど、今のオレグにとって背後は隙では無かった。
「むん!」
一声と共に振り返りながら放たれた回し蹴りが兵士に炸裂する。
「がはぁっ!」「「雄雄ぉっ!」」
吹き飛ぶ兵士と入れ替わるように、仇を取ろうとするかのように、二人の兵士が切りかかる。
「っ!」「ぐおっ?!」
その二人を流れるように打ち倒しながら、オレグは思った。
魔王の周りにこんな仲間はいない、と。
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