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最終章
第五十八話 おとぎ話の結末(3)
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「駄――」
こっちに来ては駄目、兄の声に対してアンナはそう言おうとしたが、それは最後まで言葉にならなかった。
「あっぐ!」
直後にオレグの回し蹴りが炸裂。
咄嗟に盾にした掴まれていない方の腕がへし折れる。
袈裟切りのような、なぎ払いながら振り下ろすような軌道の蹴り。
ゆえにアンナの体は鋭く吹き飛んだ後、地面の上を小さく跳ね、そして滑った。
「……」
そしてアンナの心の声は止まった。
いや、かすかに心の声が聞こえた。
意識を半分失っている、それが場にいる全員の心に言葉として浮かんだ直後、
「「「う雄雄雄ぉっ!」」」
場に気勢が響き渡り、全員が同時に動いた。
アランと近衛兵達が動かなくなったアンナの前に立ち並ぶ。
その壁に向かって突進するオレグ。
何人かの大盾兵が体当たりを決めるが、逆に吹き飛ばされる。
大盾兵の一人が倒れながらも足にしがみつくが、直後に蹴り飛ばされる。
しかしその時生じたわずかな隙に、
「「「雄ォッ!」」」
複数の気勢が同時に叩きつけられた。
その声の一人、レオンの十文字槍がオレグの心臓目掛けて伸び走る。
しかしその一撃は軽く払い流され、
「!?」
引き戻す間も無く、掴まれた。
「! うおおっ?!」
そしてレオンの体は槍ごと持ち上げられ、
「うあぁぁっ!」
そのまま振り回された。
「「「うおぁっ?!」」」
その人間そのものを武器とした回転攻撃に、背後から仕掛けようとしていたクラウスとケビンが巻き込まれる。
レオンの手が槍から離れ、そのまま三人でもつれ合いながら倒れる。
そして重りを失い、ただの槍に戻った得物をオレグは持ち直し、
「むんっ!」
正面、アランに向かって投擲した。
その一投はまるで攻城兵器から放たれたかのようであったが、
「破ッ!」
それはアランのもとに届く前に、バージルの槍斧の一撃によって叩き落とされた。
乾いた金属音と共に槍が地の上を跳ねる。
その時既にオレグはバージルの目の前。
投擲と同時に踏み込んでいた。もう攻撃動作に入っている。
そして放たれた右拳に対し、バージルは輝く左手を突き出した。
しかし盾は生まれなかった。
砕けた左手の甲の骨が、魔力の伝達を阻害していた。
ゆえに少々の魔力が漏れ出したのみ。
そんな淡い光でオレグの剛拳が止められるはずは無く、
「ぐあっ!」
閃光のような拳はバージルの左腕をへし折って肩に突き刺さり、その骨を砕いた。
バージルの上半身が大きく反れ、後ろによろける。
槍斧を切り返すことも出来ない。
だからバージルは「ここまでか」と思った。
が、直後、
「!」
バージルの目の前に一つの影が、カイルが割り込んだ。
追撃で放たれたオレグの左拳に対して左手を構えている。
受け止めて捕まえ、冷却魔法を流し込む、カイルの狙いは叫び声のように響いており、真後ろのバージルにも筒抜けであった。
そして先と同じ手はやはり通じなかった。
オレグの左拳がカイルの胸に突き刺さり、胸骨を砕く。
そしてオレグの拳はさらにその奥、脈打つものにまで届いた。
「カイル!」
その鼓動が止まったのを感じたバージルが後ろに倒れながら叫ぶ。
「「!」」
が、直後、バージルとオレグは同じ表情を浮かべた。
カイルの生は終わった、それは間違い無い。
だが、その心の声はいまだ響き続けていた。
“捕まえて、流し込む”と。
その言葉通り、死したカイルの左手はオレグの左手首をしっかりと掴んでいた。
こっちに来ては駄目、兄の声に対してアンナはそう言おうとしたが、それは最後まで言葉にならなかった。
「あっぐ!」
直後にオレグの回し蹴りが炸裂。
咄嗟に盾にした掴まれていない方の腕がへし折れる。
袈裟切りのような、なぎ払いながら振り下ろすような軌道の蹴り。
ゆえにアンナの体は鋭く吹き飛んだ後、地面の上を小さく跳ね、そして滑った。
「……」
そしてアンナの心の声は止まった。
いや、かすかに心の声が聞こえた。
意識を半分失っている、それが場にいる全員の心に言葉として浮かんだ直後、
「「「う雄雄雄ぉっ!」」」
場に気勢が響き渡り、全員が同時に動いた。
アランと近衛兵達が動かなくなったアンナの前に立ち並ぶ。
その壁に向かって突進するオレグ。
何人かの大盾兵が体当たりを決めるが、逆に吹き飛ばされる。
大盾兵の一人が倒れながらも足にしがみつくが、直後に蹴り飛ばされる。
しかしその時生じたわずかな隙に、
「「「雄ォッ!」」」
複数の気勢が同時に叩きつけられた。
その声の一人、レオンの十文字槍がオレグの心臓目掛けて伸び走る。
しかしその一撃は軽く払い流され、
「!?」
引き戻す間も無く、掴まれた。
「! うおおっ?!」
そしてレオンの体は槍ごと持ち上げられ、
「うあぁぁっ!」
そのまま振り回された。
「「「うおぁっ?!」」」
その人間そのものを武器とした回転攻撃に、背後から仕掛けようとしていたクラウスとケビンが巻き込まれる。
レオンの手が槍から離れ、そのまま三人でもつれ合いながら倒れる。
そして重りを失い、ただの槍に戻った得物をオレグは持ち直し、
「むんっ!」
正面、アランに向かって投擲した。
その一投はまるで攻城兵器から放たれたかのようであったが、
「破ッ!」
それはアランのもとに届く前に、バージルの槍斧の一撃によって叩き落とされた。
乾いた金属音と共に槍が地の上を跳ねる。
その時既にオレグはバージルの目の前。
投擲と同時に踏み込んでいた。もう攻撃動作に入っている。
そして放たれた右拳に対し、バージルは輝く左手を突き出した。
しかし盾は生まれなかった。
砕けた左手の甲の骨が、魔力の伝達を阻害していた。
ゆえに少々の魔力が漏れ出したのみ。
そんな淡い光でオレグの剛拳が止められるはずは無く、
「ぐあっ!」
閃光のような拳はバージルの左腕をへし折って肩に突き刺さり、その骨を砕いた。
バージルの上半身が大きく反れ、後ろによろける。
槍斧を切り返すことも出来ない。
だからバージルは「ここまでか」と思った。
が、直後、
「!」
バージルの目の前に一つの影が、カイルが割り込んだ。
追撃で放たれたオレグの左拳に対して左手を構えている。
受け止めて捕まえ、冷却魔法を流し込む、カイルの狙いは叫び声のように響いており、真後ろのバージルにも筒抜けであった。
そして先と同じ手はやはり通じなかった。
オレグの左拳がカイルの胸に突き刺さり、胸骨を砕く。
そしてオレグの拳はさらにその奥、脈打つものにまで届いた。
「カイル!」
その鼓動が止まったのを感じたバージルが後ろに倒れながら叫ぶ。
「「!」」
が、直後、バージルとオレグは同じ表情を浮かべた。
カイルの生は終わった、それは間違い無い。
だが、その心の声はいまだ響き続けていた。
“捕まえて、流し込む”と。
その言葉通り、死したカイルの左手はオレグの左手首をしっかりと掴んでいた。
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