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最終章
第五十六話 老骨、鋼が如く(15)
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そしてしばらくした後――
「げぇっ! ……ぅおぇっ!」
森の中でザウルは雲水が予想した通りになった。
凄まじい頭痛、眩暈、吐き気、倦怠感、得たいの知れぬ恐怖、それらが混じり渦巻く感覚に、ザウルの足は完全に止まった。
「はぁ、はぁ……おぉぇっ!」
木の下で幹にもたれかかるように膝をつき、嘔吐を繰り返す。
もう胃の中には何も残っていない。痛みと共に黄色い酸があふれるのみ。
激しい頭痛と眩暈は虫の攻撃によるもの。
ゆえに、ザウルは接近に気付けなかった。
「?!」
思わず顔を上げる。
すると、そこには敵らしき者達が一列に立っていた。
前だけでは無い。囲まれている。
そして全員、何かを構えている。
それは細長い筒のようであった。
吹き矢のようにこちらに空洞を向けている。
つまりこれは――
(飛び道具?)
そこまで考えた直後、響いた炸裂音と共に、ザウルの思考は終わった。
――
そして一斉攻撃の轟音が過ぎ去り、場が静寂に包まれた後、穴だらけになって倒れたザウルのそばに、一人の男が歩み寄った。
それはサイラスだった。
サイラスはザウルの死亡確認を済ませた後、口を開いた。
「危なかったな」
その言葉に、フレディと一緒に並んで構えていたシャロンが武器を下ろしながら答えた。
「その男は感知が完全に回復しかけていた。しかもここは障害物の多い、飛び道具には不利な地形。もし到着が遅れていたら、どうなっていたか分からないわね」
ゆえにシャロンは直後に愚痴をこぼした。
「……まったく、何が『お前達なら問題無くやれるはずだ』よ。雲水は嘘つきね」
これにサイラスは口を開いた。
「そうでもないだろう。雲水が弱らせてくれたおかげで簡単に事を済ませられたのは事実だ。……きわどかったのも事実だがな」
そう言ってシャロンの愚痴を閉じさせた後、サイラスは尋ねた。
「さて、次はどうする?」
シャロンは即答した。
「変わらないわ。この武器の存在はまだ大きく知られたくない。弱った奴や、はぐれたやつを狙う、その繰り返しよ」
その答えは聞きたかったことと少し違っていたゆえに、サイラスは訂正して聞き返した。
「具体的に狙いはあるのか?」
これにもシャロンは即答した。
「同じ大将格であるオレグを狙いたいけど……今どこにいるのかまったく分からないわね」
その答えに、サイラスは「そうか」と答えた後、
「なら、探すしかないな」
地道な作業の開始を宣言した。
同時にサイラスは思った。
サイラスはその思いをザウルの亡骸を見下ろしながら言葉にした。
(……なるほど、雲水が今のシャロンを恐れないわけだ)と。
明らかに今のシャロンよりも強い。
それをシャロンも理解している。雲水に警戒心を抱いたのを感じ取れる。
しかしゆえに奇妙だ。
今のシャロンはかつての自分がどれほど強かったのか、それを思い出せなくなっている。
だがそのことに何の疑問も違和感も抱いていない。どうでもいいと思っている。いまこうして考えている自分の思考を盗み読んでいるのに、だ。
シャロンはこの新たな武器に絶対の信頼を置いている。
「……」
それがサイラスには腑に落ちなかった。
この武器は威力と速度は十分だが、連射がまったくきかない。雨にも弱い。
ゆえに、
(シャロン、本当に大丈夫なのか? この武器をそんなに信用しても)
サイラスはシャロンに再び尋ねた。
周りに人がいるゆえに、その質問は虫の手紙で行ったのだが、シャロンはわざと己の口で答えた。
「証明すればいいのよ。……私が証明してみせるわ」
この世界を変えるためにね、シャロンは心の声でそう付け加えた。
それはサイラスが聞きたかった答えでは無かった。
そもそも、本当に聞きたかった事では無いからだ。
本当に聞きたかったのは、「ルイスをそんなに信用していいのか?」だ。
だが、聞かなくて正解だった。
もし裏切りの可能性があると見られれば、今のシャロンは自分を殺しかねないからだ。
第五十七話 最強の獣 に続く
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